第65話:依頼の完遂
.
俺はイグナート大陸のイグナート王国の港町、その北東に広がる平原に癒し草を採取しに来ている訳だが、それを五〇株程の採取に来た。
とはいえ、五〇株を越えて採取をしたのだとしてもちゃんと買い取って貰えるらしいからな。
ミスティが絵を準備してくれたのは良かった。
「お、これが癒し草だな」
俺はスコップを使って丁寧に根刮ぎにして採取をすると、それをアイテムバッグの中に仕舞って新たに次の癒し草を捜すべく歩んでいく。
意外と見付け易いのか、次の癒し草が見えた。
「良し、また癒し草を発見」
根刮ぎ、詰まりはブチッと千切るのでは無くて根子から確りと抜く、それにより萎びてしまうのを成る可く抑える為の措置ってやつだな。
彼方側でも綺麗に洗った野菜より土の付着した侭な野菜のが保つ様に、こうしてやった方が薬草の保ちは多分だけど良いと思うんだよ。
まぁ、この措置を依頼主がどう思うかまでは知らんけどね。
取り敢えず、癒し草の保ちに関してはアイテムバッグに容れとけば、冒険者ギルドに持ち帰るまでの時間経過は何とか成るんだよ、一応は。
矢っ張りさ、萎びた癒し草より瑞々しい癒し草の方が良品質のポーションに成りそうだと思うし、これで文句を言われる様なら千切るさ。
「これで二〇株か。四人で二〇株ずつ採取をしたなら凡そ八〇株になるから、キリ良く一〇〇株になるように後二〇株を採取するべきか?」
其処ら辺はミスティ達とも要相談って処かね?
「すうぅぅはぁぁぁっ!」
俺は立ち上がって腰をお年寄りみたいにタンタンと右手で叩き、疲労感を抜いた気分に成りたいが故の溜息というより深呼吸をした。
「いよっしっ!」
一気合いを入れてパーティメンバーとの合流を果たすべく、俺は皆との合流予定地点に向かい歩き出す。
暫く歩くと既にミスティが一人で待っていた。
「早かったんだな?」
「私の場合は癒し草の形とか識っていたからね、知識が有るのと無いのとでは随分と違うから」
「そうかも知れないな」
最近になって知ったけど、彼女はハーフエルフという妖精種と人間種のハーフで、一二年前に起きた大氾濫以降は連れ戻されたとはいえど、ミスティは母親から薬草関連の知識を与えられていたみたいであり、俺には其処ら辺の知識が全く以て足りていなかったんだよな。
「お~い! 何とか集まったぞ!」
「ちょっと時間が掛かっちゃった」
ランスが大声で言ってきてたし、スピアも手を振りながら笑顔を浮かべて此方に近付いて来る。
「だいたい八〇株が集まったかな。二〇株を集めれば一〇〇株になるからもう少し集めるか?」
「そうだね、折角だからもう少し集めとこっか」
ミスティが頷く。
「俺も構わないぜ」
「ボクもだよ!」
ランスとスピアの兄妹にも異論は無さそうだ。
因みに、魔物も顕れたから幾つか魔核も手に入ってはいるけど、聖霊の森で闘っていた時に比べるとべらぼーに少なかったし弱かった。
ダンジョンランクで云えば恐らくはE程度で、少しばかり苦戦を強いられたバトルウルフの時みたいな、Cランクの魔物は顕れていない。
今の俺達ならFランクは元より、Eランクだって楽勝で勝てるのだから、それこそ又も行き成りバトルウルフが襲撃して来ない限り大丈夫。
まぁ、そうやって油断をしていて低ランクの魔物に殺られたとか、『冒険者あるある』だってのは彼方側で父さんから聴かされたけど。
事実として、瑠亞姉さんが強敵を相手に闘った後で顕れた少し弱めの魔物に殺られたのだとか。
俺達は残りの株数の採取をして、合計で一〇〇株が集まっていた。
「グルァァッ!」
「ホーンウルフか」
彼方側の初心者ダンジョンの最初の辺りに顕れる雑魚、それが一頭だけ出てきたからといって脅威に感じる筈も無く、俺は剣で斬り捨てる。
「グギャッ!」
落としたのはFランクの魔核で、全く嬉しくも何とも無い代物だ。
彼方側では、確か約五〇〇円くらいだっただろうか? 缶ジュースだったなら三本も買ってしまえばそれで終わり程度でしかないな。
多少の差違こそ有るものの、魔核の価格帯としては此方側を一テランで彼方側を一円としたら、五〇〇テランで換金がされるのだろう。
はっきり云えば端した金というやつではあるのだろうが、換金をする以外にも魔核という物には俺からすれば使い道が有るのだから、小さくとも拾っておくに越した事はない。
再びのパーティが集合、どうやらランスも魔物に遭遇してたらしく、彼はその手に魔核を持っていた。
「一〇〇株が集まったな~」
「それじゃ、そろそろ冒険者ギルドに戻ろうか」
「そうするか」
癒し草は本来の依頼料以上の数を確保が出来ているし、この平原にこれ以上居たとしても恐らくだが大した実りも無さそうだからな。
そして街に戻った俺達は冒険者ギルドに行く。
「癒し草を持ってきました」
一〇〇株の癒し草をアイテムバッグから出しカウンターの上に置く、すると受付嬢のお姉さん――サリア・エメリア嬢は驚愕をしていた。
「四人パーティとはいえ倍くらい採ってますね」
数えてみて実際に一〇〇株も採取をしているとは思わなかったのか、又もや目を白黒させて此方の顔を視たり目を離して視線を移ろわせる。
「冒険者ギルドに入ったばかりで、随分と素晴らしい活躍でしたね」
サリア・エメリア嬢は笑顔を浮かべて称賛を送ってくれた。
そう、嬢なんだよ。
一応は歳上なんだけど、未だに彼方側の日本を基準だと成人年齢には達していなかったらしい。
決して老けては見えないんだが、既に二十歳は往ってるんじゃないかと思っていたんだけどね。
それは扨置き、俺達は依頼表に規定された依頼料が支払われ、初冒険仕事の成功を祝ってギルドに併設がされている酒場で、豪華な食事でも摂ろうという話になっていった。
テーブルを四人で囲って料理の注文をすると、暫く時間を置いてウェイトレスが運んで来る。
極々無難にシチューとパンと焼いた肉を頼んだけど、思っていた通りというか期待してはいなかったから期待外れとは云うまいが、矢張り美味しいものだとは感じられない。
別に食通って訳では無いが、これは味付けからして駄目なんじゃ? 海が近いからか塩は豊富みたいで、塩をぶち込んだシチューは塩辛くてちょっとあれだったよ。
恐らくだけれど、出汁を取るって概念が無いみたいだな。
「ファンタジーあるあるか」
「何が~?」
「いや……スピア、それって美味しいのか?」
「? こんなもんじゃない?」
矢張りというか、これが当たり前に成っているから美味しいも何も無いのか? スピアは疑問を感じる事も無い侭にシチューを啜っている。
ふとミスティの方を見遣ると……
「どうしたの?」
「いや、何でも無い」
小首を傾げながら食べていた。
(ミスティの味覚は俺に近いって事なのかね?)
違いが有るとしたら、俺だと通り一遍の簡単な御料理が出来る程度でしか無いけれど、ミスティはちゃんとした調理が出来ているって事か。
電子ジャーで御飯は炊ける、卵を割って目玉焼きくらい焼ける、それを椀内で溶いて卵焼きくらいなら焼ける、魚や肉を簡単な焼きくらいであるならば出来るけど、ならハンバーグを作れるかと問われてしまうと、その途端に怪しく成るんだ。
(若しかしたら、現代日本の味付けを出したなら売れるのかも知れないな。尤も、あれやこれやと手を出す様な暇は無いんだけどな)
焼魚はシンプルで素朴な塩味が美味しいけど、肉を塩だけっていうのはちょっと辛いかも知れないと考えつつ、俺は焼魚を口へと運ぶ。
果実水で口の中を洗い流すかの様に飲み干し、ちょっとだけ落ち着いた……主に腹の虫の奴が。
余り美味しくないとはいえども、腹が減ったらそれそのものが最高の調味料に足り得ている訳で、長靴を一杯に食べたくなるものだからな。
実際に余り美味しくなかったが、空腹の虫が騒ぐからこそ無理矢理にでも食べて、その鳴きまくっている空きっ腹を満たしてやったんだよ。
「ふぅ、食った食った」
「ミスティちゃんのが美味しく作れるけどね~」
ランスは腹を抱えながら満腹をアピールして、スピアも御飯を余り美味しくはないと思っていたらしく、ミスティと比べてしまっている。
確かにミスティの作ってくれている御飯なら、現代日本に於ける美衣奈に比べれば素材や調味料の差から美味しいとは云えないけど、矢っ張り此方側の一般的な味付けとして、間違いなく美味しい食事なんだよ。
「余り大っぴらに言うもんじゃ無いと思うぞ?」
「だ~ってさぁ」
正直は美徳だけれど、それを声に出すべき時とそうじゃない時、TPOくらいは弁えて欲しかったんだが。
.




