第59話:次なる舞台へ
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朝食を摂った卦韻は理央から高位の防御魔法を見せて貰い、中々に実りの有る朝御飯の時間であったなと満足そうにドアを開いて外に出た。
碧銀な髪の毛のポニーテールが風に揺られて、美麗な顔立ちを卦韻の方に向け笑顔を浮かべる。
「おはよ、ケイン」
「ああ、おはよう美衣奈」
その服装は通常通りの愛坂学園女子の制服姿、ボストンバッグに杖やローブなどが入っていた。
尚、卦韻が着ているのは学生服では無くて普通に私服である。
「ケインのそれ、アイテムバッグって便利だね」
「うん、そうだな」
卦韻が背負うのはバックパック、それは可成り容量が大きなアイテムバッグでもあるから、全ての道具――装備品やポーション類や私服に至るまでを容れている為にか、美衣奈も羨望の眼差しを向けていた。
ドロップアイテムは必ず出る訳でも無いから、出たらラッキーくらいの感覚で美衣奈は動き易さを優先、腰にポーチを着けて魔核のみを容れるという形を取っている。
美衣奈にとって、本当にドロップアイテムという物は序でに過ぎなかったという事なのだろう。
とはいえど、手に入るのなら喜ぶ事になるし、売れば場合によっては魔核より高額にも成った。
実際、ゴブリンの牙が一本ですら同魔物の魔核より僅かながら高額で売れるくらいなのだから。
小さなドロップアイテムならポーチにも入る、問題は彼方側で手に入れたバトルウルフの毛皮だったり、水無瑠亞が送り付けて来たシルヴェンウルフの毛皮、比較的大きな代物みたいな容れ様が無い物である。
それを解決したのが卦韻の造り上げたアイテムバッグ、これにならばドラゴンのドロップアイテムすら容れて持ち歩く事が出来るのだから。
とはいえ、亜竜ですら最低でもCランクの上澄みでBランクに近いとされる為、卦韻達が闘うのであればそれこそイレギュラーくらい。
それも特大のイレギュラーだ。
美衣奈が識る一番弱い竜種はワイバーンという飛竜、一応は竜とされているけど彼女が識っている真の竜に比べれば何程の事も無い存在。
「そうだ、愛坂家の倉庫に有る武具に鋼鉄製の物って有るのか?」
「有るよ。鋼手甲とかなら璃亜辺りにはぴったりかもね」
あの二人は自前で装備を準備してしまっていたらしいが、東京に戻って来た暁には卦韻が自身で用意をした武器で身を固めて貰いたかった。
「ああ、そう言えば!」
「どうした?」
「槍太は瑠亞姉が用意したっていうか、Cランクのダンジョンで宝箱から見付けた炎輪っていう、新しい炎属性の槍を装備してるらしいよ」
「マジ?」
何ともはや、行き成り挫折したみたいである。
「まぁ、璃亜は未だ鉄手甲みたいだから鋼手甲に成るなら問題無く受け取るんじゃない? それも魔鋼製に成るのなら寧ろ大喜びだよ」
「それなら俺も嬉しいよ」
「あの娘の腕のサイズは判るよね」
「寧ろ、腕にフィットする様に設計するからね」
「それは……また……」
鎧にせよ兜にせよ、籠手型の手甲にしても身体のサイズは気にしないといけないし、フィットしていないと護る処か肉体を痛めてしまう。
「ケインがそれをどうやるのかは知らないけど、璃亜の為にも頑張って造って欲しいかな?」
「勿論さ!」
美衣奈からの激励を受けて遣る気は全開と成っていた。
「良し、それじゃあ配信の為にもダンジョンに行こっか!」
「そうだな」
私立愛坂学園に向かうべく歩き始めた二人は、端から視たならきっと初々しい高校生カップル、そんな風に思われているのかも知れない。
「そう言えばケイン」
「どうした?」
「出来たら私のポーチもアイテムポーチにして貰える? 理央さんから聴いたけど、あの人のポーチをアイテムポーチにしたんだよね」
「……そうだな」
ケインのアイテムバッグも理央の物と同じくで四畳一間くらいの広さ、後に再拡張自体は可能だけど、それなら今から造っても良い筈だ。
「判った、探索が終わったらポーチを預けてくれるか? 今夜中にはアイテムポーチにしておく」
「うん、|Takk skal du ha《本当に有り難う》♪」
卦韻が以前に調べた処、有り難うを強調していた気がするから、本当に嬉しかったのであろう。
首に腕を回してハグって来た辺りからしても、嬉しさの本気度が可成り大きい様な気がするし。
とはいえ、ミスティの胸部装甲にダイブをした記憶が甦ってしまい、美衣奈の温もりと柔らかさに再び卦韻の卦韻ががおっきしそうだった。
真っ赤に成った卦韻だったけど、流石に美衣奈を突き放す気にはなれなかった上に、寧ろ男としては突き放すなどとんでもないと思ったり。
ちょっとしたハプニング? は有ったものの、二人は愛坂学園の裏山に在る初心者ダンジョンに到着し、卦韻はアイテムバッグ内に容れてあった装備を装着しており、美衣奈はボストンバッグ内の装備品を馴れた手付きで装着をしていく。
「装着完了」
「此方も完了だよ」
聖霊剣では無く鋼鉄製の剣を前回に引き続いて装備、更にデスコーピオンの甲殻鎧に鋼鉄の小盾も装備すると、剣士として見映えも良い。
「よ~し、始めよっか」
「そうだな」
美衣奈がいつもの如く配信用ドローンのスイッチを入れると、スマートフォンの方も同時にオンにして某・配信のサイトへと入る。
「God morgen!」
〔グモーン!〕
〔おっはー!〕
〔はよん!〕
早速と云わんばかりに、リスナーからコメントが流れてきた。
特に宣伝などしていない筈だが、ひょっとして美衣奈が何か事前告知でもしているのでは? とか思うくらいには用意周到である。
「今日は最低でも二〇階層まで降りていくよ! 若し行けるなら最後まで行っちゃうからね~!」
〔おお!〕
〔この自信に満ち溢れた姿もまた美麗過ぎる!〕
〔妖精かな?〕
〔妖精は草!〕
相変わらずでノリが良いリスナー達には美衣奈もニッコリ、装備品がよく似合っている事も相俟ってか、いつの間にか偶像の如く人気だ。
一階層のルーム、其処に巨大なる六角柱の水晶体が聳え立つ。
それに触れると、今までに行った階層の五階層毎に頭の中に浮かんでくると、卦韻と美衣奈は最新階層である第一五階層の選択をした。
第一五階層のルーム内、卦韻は腰に佩いていた鋼鉄の剣を抜剣して構えると、左腕に装着していた小盾を護りの為に前へと出して構える。
〔お、流石は剣士〕
〔構えがもう一線球なんだよな~〕
卦韻は体内のエネルギーを喚起して更に励起、とはいえ魔力を持つといえど扱う事が出来ない事から、卦韻が喚起をするのは氣力だった。
魔力にせよ氣力にせよ、そして霊力や念力であろうとも廻らせる回路こそ異なるものの、抑々が同じエネルギーが川の源流から支流と成っていく様なモノな為、基本自体は同じという事になる。
氣力を丹田で喚起、氣力回路を廻らせて……というのが基本手順となっており、卦韻もその基本に準じ氣力を体内に強く廻らせて力を発揮、己れの存在力を大きく高めていく。
〔お、百足が顕れたぞ〕
〔確かセンチピードだったか?〕
〔ランクとしてはE相当だな〕
カサカサと素早く地を這うセンチピードが卦韻に襲い掛かった。
実際のムカデは節足生物として、毒を持つ一種の害虫という扱い。
「百足は弱いながら毒液を吐いて来るから気を付けて、卦韻!」
「了解だ!」
体躯を起こすと一八〇cmの卦韻より遥かに高い位置に頭を持って、ムカデが肉食であるからにはセンチピードも矢張り肉食な訳で。
「くっ!」
卦韻を先ずは弱らせようとしたのか、センチピードが毒液を吐いて来たので小盾によって防ぐ。
弱らされ生きた侭に貪り喰われるというのは、卦韻としても絶対に御免被りたい事態なのだ。
「卦韻、此方の準備は完了!」
「良し!」
前衛の卦韻が前へと出て、後衛である美衣奈が魔法で攻撃する作戦。
「炎柱ッ!」
この魔法は手や杖から放つのでは無く、地面に設置をして発動させる。
故に動き回る敵には当て難いし、当てるには複数設置するか或いは、相手の動きを一ヶ所に留めた上で設置して発動をさせるかだ。
今回の場合は後者を選んだ形であったと云う。
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