第55話:ミリス女史
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東方大陸イグナートに存在していると謂われる獄焔剣レヴィアート、これを手に入れる為に船へと乗らなければならなかったんだけど、まさかのバトルウルフと遭遇は正しく危機一髪だった。
「そのおっさん、大丈夫か?」
「駄目かも知れない……」
「そうか」
危機一髪だったのは俺達パーティのみであり、勇敢? 蛮勇にも唯一人で突っ込んだおっさんは大ダメージで、今にも死にそうな状態だ。
出血量が凄まじい、しかも傷自体が大きいし、こいつは確かに彼はもう駄目なんじゃないかな?
更に云えばこの世界は魔法が有る所為だろう、医療系の技術が全く以て進歩をしていなかった。
だから仮に街へと連れて行ったとしても大した治療も出来ず、莫迦みたいに高価いポーションをぶっ掛けるだけというのが目に見えている様で滅茶苦茶怖い、だけどこれがこの世界に於ける現実なんだよな。
プチポーションが彼方側で三〇〇円だったが、この世界の価値観では確か銅貨で三枚だった筈。
そして銭貨が一枚で彼方側の価値だと一〇円、鉄貨が一枚で一〇〇円らしいから、銅貨が三枚なら三〇〇〇円という事に成るんだな。
一〇倍かよ!
しかもプチポーションは擦り傷を治す程度で、本格的に治したいならポーション以上が必須。
彼を治すなら最低限でハイポーションが要る。
「俺達の方にハイポーションは無かったっけ?」
「ポーションくらいしか無いよ」
「そうか……」
どうやらハイポーションは準備が無かったみたいだが、困った事に俺はスキルを使えば彼の生命だけは何とかなりそうだと思い付く。
「ミスティは回復魔法は?」
「残念なんだけど、私は回復系が苦手なんだよ。精々が初級の魔法くらいしか使えないんだ」
恐らくは成長しても最上位の回復魔法は使える様に成らないのだろう、そうなると【魔導妃】を用いても果たして使える様になるのか?
「ちょっと試してみるか」
少し人に視られたくは無かったけど仕方無い、俺は自らの唯一技能たる【錬成王】を展開した。
「ミスティ、ポーションを」
「え? 判ったよ」
四つのポーション、俺とミスティとランスとスピアの四人分の物をスキルの投入口に容れた。
四人のハイポーションを先ず分解してしまい、その効力を抽出、効力を更に上げるべく魔銀を放り込んでしまえば後は再構成をするまで。
これによって、ポーションが使った四個分は於ろかハイポーションよりも効力が強化をされた。
流石にエクスポーション程じゃ無いみたいだ、然しそれでもハイポーションに比べれば高性能。
仮にプチポーションの回復率を三%だとして、ポーションなら二〇%、ハイポーションなら四〇%、エクスポーションなら八〇%、フルポーションで一〇〇%だとしたら、この新型のポーションでは六〇%といった処ではなかろうか?
飽く迄も概算で、数値もこんな感じかな? くらいのモノでしかないし、取り敢えずハイポーション以上でエクスポーション未満な感じだ。
フルポーションなら欠損部位すら治せるのだと美衣奈から聴いたが、それなら一〇〇%と考えても強ち間違いという訳でも無いと思う。
「ミスティ、こいつを彼に与えてやってくれ!」
「……判った!」
ミスティは俺がスキルを使っていたのに気付いていたらしく、素直に改良されたポーションを受け取るとおっさん冒険者に飲ませる。
「あぐっ!?」
未だ生きているのが不思議なくらい酷い傷で、出血した量だって半端無い程に流れ出ている。
だけど、魔法の様な光がおっさん冒険者を包み込むと、その出血が収まって荒々しかった息も穏やかに。
「治ったみたいだね」
胸を撫で下ろすミスティ。
治ったとは云っても、それは傷を塞いで出血が止まったという意味でしか無く、喪われた血液や体力が戻ってくる訳では決して無い。
取り敢えず、おっさん冒険者は馬車に積んでしまって王都へ向かおうという話になり、俺達は馬車に乗り込んで再び旅路を進む事になる。
僅か二日足らずで王都に到着をしている辺り、意外とエメラート村は辺境では無かったらしい。
立派な王城が聳え立つ広大な領土に在る王都、そして広大なのは何も陸だけでは無かった。
「海が見える」
「そりゃ、王都は海沿いに在るから。王都でもあり漁港でもあって、貿易の要ともなるのが此処の城下町。王都スピリチアは正しくエレメティア王国の生命線でもあるんだ」
「漁港って事は魚を食える?」
「食べたいならね」
問題が有るとすれば、果たして魚は地球と同じなのかどうかだけど、ファンタジー系ラノベでは普通に、鯵だ鰯だ鯛だ鮪だと獲れる傾向があるからどうなんだろうな?
おっさん冒険者を治療院に預け、昼飯時だったから食事処に向かった俺達は思い思いに注文してみたが、形は確かに魚だったけれど全く知らない名前、食べてみないと判らない一種のギャンブルに等しかった。
序でに云えば、魚の味その物は鯵に近いものだったから、普通に美味しく戴けたものである。
欲を言えば、もう少し味に気を遣って欲しかったのは仕方無いか。
塩味オンリーだったからな。
「さぁ、装備品を整えたら今日中には船に乗りたいからね」
パンパンと柏手を打ちながらミスティが言う。
「[ミリス堂]の本店に行くのか?」
「うん、リリアさんの支店の云わば本店に当たる御店だね」
ミリス・ファーライト女史は代々、ミリス・ファーライトの名前を継いで[ミリス堂]を開いている女傑、確かリリア女史の従姉だとか。
村を出る前にアクセサリーを卸した際にリリア女史から地図を渡されていて、俺達は[ミリス堂]に行くのに迷う事も無く真っ直ぐ進んだ。
扉を開けると、カランカランと小さな鐘の音が鳴り響いた。
「いらっしゃ~い」
何処かリリア女史に似た女性がカウンターに、茶髪では無くてくすんだ赤毛を長く伸ばしていて青い瞳はリリア女史と同じ、ボディラインに関してはリリア女史より減り張りが確りとしていて、揺ったりした服装だった彼女と違って可成り際どい姿をしており、ちょっと胸元に目が行ってしまうのは仕方無いだろう。
「それで、何が欲しいんだい? 坊っちゃんに嬢ちゃん達」
まぁ、聴いた話では彼女は三十路らしいから、一回り以上も歳の差があれば坊っちゃん扱いは仕方無いのだろう、美女ではあるけどリリア女史の様な喋り方なのはファーライト家の方針なのか?
「主に槍と手甲を買いたい。少なくとも鉄製以上の品が欲しいな」
「ふむ、君は剣を使っている様だから……後ろの子達のかい?」
「はい、それから魔物のドロップの買い取りもお願い出来ますか?」
「無論、出来るよ。けど冒険者ギルドに卸した方が多少は安くされてしまうけど、貢献値に成るんじゃないかい? トータルで御得だよ」
冒険者ギルドは此方側にも存在しているけど、驚いたのは彼方側とよく似たシステムな事だ。
「確かに貢献値は貰えるけど、未だ冒険者ギルドに登録はしていないんだ。それに今はお金が要るんだよ、新しい武器を買う為にもね」
「ふむふむ、ひょっとして何か有ったのかい?」
「此処に移動の真っ最中、バトルウルフ数頭に襲われたんだよ」
「ああ、何か噂が流れてたね。売りたいのって、バトルウルフのドロップ関係かい? それなら、高価く買い取って上げようじゃないさ」
ニンマリと笑ったミリス女史は、眼鏡をクィッと上げて青い瞳をキランと輝かせてそう言った。
「ほうほう、バトルウルフの毛皮に牙が二本か。それなりの稼ぎに成ったじゃないのさ?」
ランク的にはC、彼方側なら数万円で売れる。
因みに、バトルウルフの毛皮を実はもう一頭分ドロップしているけど、これはスピア用の防具を造る為に取り置いていて売却はしない。
ミスティはミリエリアさんから御古ではあるけど防具を譲られていて、少なくとも俺やランスの纏う甲殻鎧並のローブに更新をしている。
「バトルウルフの毛皮は五二〇〇テランだろう、牙は一本で一三〇〇テラン、合計で七五〇〇テランって処かねぇ。因みに、冒険者ギルドの場合は貢献値と引き換えに一割くらいは安くなるね」
「詰まり、毛皮だと四六八〇テランって事か」
「恐らく、端数は切り捨てで四六〇〇テランじゃないかい?」
「げっ! 一〇の桁が端数?」
その代わりが貢献値って事なんだろうけどさ、挟小ましく稼ごうとしているもんなんだな~。
俺としては最早、溜息を吐くしか無かったのだと云う。
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