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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第一章:聖霊剣
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第52話:アイテムポーチ

.

「で、母さん。使わなくなった鞄は無いかな?」


「有るわよ、待ってなさい」


 卦韻から言われてリビングを出た理央はそそくさと部屋へ、ガサゴソと何やら捜している音を響かせたかと思ったら此方へと戻って来る。


 それは小さなポーチ、可愛らしさの欠片も無い武骨な茶色と黄土色のウェストポーチであった。


「これに附与してね」


「判ったよ」


 卦韻の唯一技能【錬成王】の能力の一種には、一時的なモノを永続的に使える形にする事が。


 事実として、本来は魔法の力というのは刹那的なものでしかないが、卦韻のスキルはきちんと附与された上で今でも普通に機能をしている。


 実は父親である楠葉慎吾の【錬成術】とでは、少しばかり魔導具造りの仕様が異なっていた。


 というのも、魔導具の造り方がいまいち理解をする事が出来なかった慎吾は、ハズレスキルであると仲間以外からは揶揄をされてきたのだ。


 というより、ラノベみたいな感じにはどうしても出来ずに居た為、SRスキル【錬金術】を含めてSSR【錬成術】は極めて不遇なハズレスキル。


 然しながらとある少女が持ってきた魔導具と、新しい魔法の概念によりハズレスキルのレッテルを覆してしまう、それは魔導具の造り方に漸く辿り着けたという事でもあった。


 そう、長い碧銀の髪の毛をポニーテールに結わい付けたとある少女、彼女の献身とも云える行動によってスキル【錬金術】や【錬成術】の扱い方が確かに判明したのである。


 即ちそれは、魔導具や魔装具に刻まれた意味の有る模様――魔導紋を魔核や魔導金属に刻む事。


 身体を魔力が廻り、それを魔導紋という意味の有る模様に変換して魔法陣に換え、それによって魔核というエネルギーを魔導金属へと形を与えた魔導具や魔装具、これらを発動させてきた。


 卦韻みたいな、直接的に魔核へと魔法を附与して簡単に造り出すのとは意味が可成り違う為に、【錬成術】というスキルを使えている慎吾からしたら似た名前なのに、或いは全くの別物であると考える程だ。


 だから、理央も卦韻から言われるが侭に魔法を見せてはいるけど、『こんな簡単に?』と実際には可成り驚愕をしているのが現実である。


「それで? その鞄に附与は出来るのかしら?」


「出来るよ。スキルが教えてくれているみたいだから。可能かどうか、どの程度の代物かだいたいだけど感覚的に理解が出来てるね」


「そうなのね、だとすると矢っ張り慎吾さんのとは可成り違うわ」


「う~ん、ひょっとしたらだけど【錬成術】と【錬金術】はその仕様は似ているのかな?」


「いえ、同じ製作するスキルなんだけどまた別物のスキルよ」


 卦韻の質問に即座の答え。


「なら、名前が似ているだけの仕様が異なるスキルって事で良いと思うよ。俺の【錬成王】の方が利便性は高いけどさ、仮にもURスキルなんだからそのくらいは……ね」


「確かにそうよねぇ」


 ニコリと微笑む理央、母親ながら美女である上に胸部装甲も確りしている辺り、父親である慎吾は随分と勝ち組なんだなと思えてしまう。


「じゃあ、ちょっと造ってくる」


「あら、此処で造らないの?」


「スキルを展開しても周囲には見えていないし、それを端から視ると独りでぶつくさ言いながら、不気味に手を動かす絵面になるから」


 それを見せるのはちょっとばかり恥ずかしい、卦韻も男の子なので見映えくらいは良くしたい。


「私は見ていたいのだけれど、それなら仕方が無いわよね」


 許可が下りたので鞄を持って二階の自室へと入ると、間違っても覗き見をされない様にと扉には鍵を掛けてからスキルの展開をする。


 魔法や氣導術などとは違い、こうしたいという意識のスイッチをONにすれば起動してくれた。


「そういや、前に遣って見せてしまった時に父さんが少し訝しい表情だったな。仕様の違いに戸惑ったのかも知れないから、他人には余り見せない方が良いのかも知れない」


 今回は鞄という明確な媒体が有るから魔核へと魔法を附与し、その魔核を鞄に取り付けるというか混ぜる様に合着をさせて、特殊な回路の形成をする事で謂わば魔法ながら機械の如く動かせる。


 附与をする魔法は“空間拡張(ロムリウトヴィデルセ)”、それにより鞄という閉鎖空間が拡張され、内部の広さが明らかにポーチの域を出て拡張されていた。


 作業自体は何程の事も無い、鉱石を一から錬成して形を換える事を考えれば時間も随分と早く、多少の汚れは落としたけどそれだけだ。


 問題なのは精神力や魔力がごっそりと喪われる感覚、強めの倦怠感をダイレクトに感じるというのが軽めの目眩いとなって起きる事か。


 まぁ、其処まで深刻では無い。


「ふぅ、数値的に二〇か其処ら? 余り一日で量産は難しいな。レベルを上げないといけないな」


 完成したウェストポーチ、渡された時は中古品でしかなかったがまるで新品なくらいピカピカ、しかも魔導具として生まれ変わったからには値段も鰻登りに上がる事だろう。


 先程から扉の向こうに理央の気配を感じてる。


 扉を空けると……


「あ、卦韻」


 思ったいた通りで、理央が聞き耳を立てていたと云う。


「母さん、出来たよ」


「そ、そう? まるで新品ね」


「修復も出来るスキルだからさ」


「そうなのね」


 だから、刃毀れした鋼鉄の剣も修復が可能だ。


「どの程度が入るのかしら?」


 ワクワクした表情で訊いてくる辺りからして、理央も可成り愉しみにしていたらしい。


「魔核がDランクだから、だいたいが四畳の部屋くらいだと思うよ」


「それはそれで充分だけど、それだとドラゴンのドロップは部位次第で可成り圧迫させそうだわ」


「しれっとドラゴンか~」


 流石はダブルホルダー、世界中でも十指に入るランクSSである。


 そして連れ合いこそ、世界でたった二人しか居ないトリプルホルダーという父親の慎吾だった。


 美衣奈から聴いた話だが、ドラゴンともなれば様々なドロップアイテムを落とすのだとか。


(鱗に牙に爪に血液に、更には食肉すら落とすと聴くよな。心臓も有るなら欲しいと思うけどな)


 内臓もそれなりに使えるアイテムに成りそう、とはいえどドロップをした噂も聴かないけれど。


 まぁ、ドラゴン程のドロップアイテムともなれば消費するMPもべらぼ~に成りそうではあるし、今は仮に両親に貰っても錬成は出来まい。


「早速、ちょっと容れてみようかしらね~」


 ウキウキした様子で階下の夫婦の部屋へ戻り、暫くしたら満面の笑顔を浮かべて上がって来た。


「凄い凄い! 私の装備とかポーションとか嵩張りそうな物が丸っと入っちゃったわよ!」


「嬉しそうで何よりだけど、それってまだ不完全なんだ」


「うん?」


 卦韻の言葉に小首を傾げる。


「時間だよ。それは飽く迄も空間拡張しただけ、内部に容れっ放してると劣化は免れないからね」


「ああ、成程……」


 ラノベなんかに出てくるアイテムボックスは、幾らでも入る拡大空間以外にも時間を最低限でゆっくり、最大なら停止をさせる程の物だ。


「確かに、魔導薬(ポーション)が劣化してしまうのは困っちゃうわねぇ」


 右手で頬を添えて『あらあら』なポーズを執っていた。


「時間系の魔法は?」


「は、早める魔法なら……」


「ク□ックアップ?」


「時間加速の魔法だから間違ってはいないわね」


(要するにヘイストって事か?)


 素早さをを引き上げる系統の魔法という事に成るだろうか、どうやら卦韻の韋駄天みたいな脚力を上げるのでは無くて、時間加速を一時的に附与をする事により素早さを上げるタイプの魔法だったらしい。


「視てみる?」


「是非!」


 再び魔導紋を構築、刻を意味する紋様と加速を意味する紋様が複雑に絡み合って魔法陣を形成。


刻之加速(ティデンアクセレラー)!」


 附与されたのは卦韻。


 急激な周囲の緩慢化、卦韻は普通に歩けているけど、理央は揺ったりスローモーションであり、何やら話しているけどこれもスローだ。


 理央視線から視たら、卦韻の視点からスローモーションに成っているだけ、素早く高速で動いている様に見えているのであろう


 尤も、その加速化の幅はレベルや魔力値なんかに依存する筈、ならば昔はちょっと疾く成っていた程度の魔法だったのではなかろうか?


「使えるな」


 卦韻には、アイテムポーチ完成の経路図が見えていたのだと云う。


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