第51話:空間拡張
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巨大な六角柱の水晶体が輝いて、その場所に顕れたのは二人の少年と少女、即ち卦韻と美衣奈である。
「ふぅ、剣の修復しないとな」
「そうだね、だけどケインならすぐに直せるよ」
「ああ、スキルを使えばな」
卦韻にとって、武器の修復など【錬成王】なら修復をする事くらい容易い、何よりもあの刃毀れした剣は卦韻自身が造った物なのだから。
スキルの力ならば一度造った物を修復するくらいは簡単、卦韻の唯一技能【錬成王】は複合スキルであるが故に、修復も可能と云う訳だ。
まぁ、単純に投入口に放り込んで修復をタッチするだけだが……
「それよりも、次は二〇階層だね。とっても愉しみだよ」
「ああ、そうだな」
「初心者ダンジョンは全て第二五階層までだし、春休み中にはちゃんと攻略が出来そうで嬉しい」
「そっか、確かに嬉しいよな」
卦韻は美衣奈の喜ぶ顔を見れて、それだけでも卦韻本人も喜ばしい。
問題は矢張り下に行けば攻撃を受ける可能性がある訳で、これまではレベル的にもそれなりにではあるが余裕も有ったから何とか成ったが、これからもそんな余裕が有るとは限らないであろう。
「防具や装飾具の方を充実させないと成らない、一応は愛坂家の倉庫内にそれらしいのは幾らでも有ったけど、確か美衣奈の話ではあの倉庫内のは冒険者としては可成り初期型の装備品で中古だって事だったしな。美衣奈の防具もあの倉庫に有ったのを選んで使っていたけど……」
魔核と素材さえ有れば卦韻の【錬成王】により防具を造れる、それは自分自身と槍太用にと製作したデスコーピオンの甲殻鎧からも判る。
因みにこれも改めて美衣奈から聴いていた話なのだが、愛坂学園の冒険科に於ける実習では一応だけど武器と防具の支給がされるらしい。
だけどそれは、最初に卦韻が使っていた物よりも安価な革鎧だったり、青銅の剣だったりと正しくというか以下にも初期装備だった。
授業料から買われた物だし、支給品であるからには壊しても弁償する必要性も無い訳だけれど、支給自体は初回のみだから壊したら修理もしなければならないし、場合によっては買い換えもしなくてはならない。
其処ら辺に一切の補償が無いのであると云う。
とはいえ、学園の購買部では同一規格の装備品を同一の値段で買えるから、お金さえ出したなら寧ろ良い装備品に替える事も視野に入る。
金持ちが有利なのか? とか問われたならば、その通りだと返答されるくらいにお金は大事だ。
事実に実習で使う支給装備品は有るにしても、生徒が自己責任&自己負担での持ち込みも許可がされているし、お金が貯まったら新装備に換えてしまうのだって当然の様に推奨すらされていた。
不公平? 二世議員にでも物申して来いと言ってやりたい。
親の金でも親が出したら享受が出来て当たり前なのは、冒険科に限らず如何なる場所や場合にでも通用する……してしまう真理なのだから。
抑々、この世に公平な事など殆んど無いのだ。
そんな中で冒険科にだけ公平性を求められても困るし、そんなに公平をしたいなら共産主義国家にでも行って来いというヤツであろう。
扨置き、卦韻は美衣奈に装備品を渡すくらいしか出来ない。
ダンジョンの仕様上、ペッされるだけであると一般には周知をされているが、死ねば確実な苦しみを伴うのだと云う事までは知られてない。
「ケイン、さっきからブツブツとどうしたの?」
「ん、ちょっと春休み明けの学園はどうしたものかと思って」
「うん? 何が?」
「武器や防具って、支給制だって言っていたろ」
「言っていたね」
これは既に共通認識。
「この装備で実習を受けたら絶対に目立つよな」
「目立つのは避けられないけどさ、だったら支給の装備で遣る?」
「それはそれでストレスだろ」
人間は一度でも味わった快適さを捨て去るなど中々出来ない、初めから支給装備なら我慢をして使っていたかも知れないのだが、今の装備を知る身としては態々、性能が低めの装備など要らないし使いたくない。
「兎に角、こうして私達は予習だって出来ているのに遣らない、そんな怠惰な人達に私達がいちいち配慮する必要なんてあるのかな?」
「それは……まぁね」
冒険者を育成する愛坂学園では、長期休暇中の冒険者活動を奨励しているものの、実は余り冒険に勤しむ生徒は居ないというのが実情だ。
死なないとはいえ、怪我は普通に負う訳だから痛いのを嫌う。
勿論、そんな生徒ばかりでは無いけど要するに舐め切っている、今すぐ遣る必要なんて無いと。
そして、卦韻や美衣奈みたいなスタダを切った生徒に着いて行けない、そんな冒険者という意味での落ちこぼれが一定数は出ていた。
スキル関連や魔法関連で落ちこぼれだと蔑む、そんな莫迦者が居るのはどうしても否めない。
そういう面倒事なら幾らでも有るのだろうが、そんな連中の相手をするとか正に冗談では無い。
「目立つのは避けたいけど、どっち道軋轢は出てくるのか」
「そうだね。其処は、人間だもの。仕方が無いのかも知れないよ」
「嫌な処で現実的な事だな」
ケインは『やれやれ』とばかりに首を横に振るしかない。
「それで、換金は?」
「はい、これがケインの分だよ。八〇〇〇〇円ってのは快挙だね。三〇〇〇〇円ずつ分けて、残りの二〇〇〇〇円はパーティ預金としたから」
「ああ、了解した」
「まぁ、とはいえ今のケインなら端金だろうね」
「いや、それは……」
殆んど支出が出ずに、収入が凄い事に成っているから間違いでは無いのだが、一応は税金も取られるので其処は余り嬉しくは無い。
所得税や住民税は確実に支払わねばなるまい、其処ら辺は[夜口法律事務所]に頼むのが良い筈。
いずれにせよ、二人は社長令息に社長令嬢なのだから余程の事が無ければ、お金に困ってしまうなんて事には成らないであろう。
「それで、次は何を造ろうと考えてるのかな? 先生が不思議がってたよ、イレギュラーに遭遇した報告を上げたのに魔核が足りないから」
上目遣いでにんまりとした微笑みは破壊力という意味では抜群、これで分厚い胸部装甲を持ち合わせていたら血迷う男が出そうで怖い。
夕焼けの陽に照り映える美衣奈、それを視るのは卦韻としても紅く成ってしまう訳だが、逆に夕方だからこそ目立たなくて済んでいた。
「取り敢えずはアイテムボックス系が欲しいよ。有ったら確実に利便性の高い物に成るからな」
「だとしたら、必要なのは空間に作用する魔法」
「そうなる」
魔法を使えぬ卦韻は、誰かにその魔法を見せて貰わねばならない。
それが少し歯痒いものだ。
「母さんに頼んでみるさ」
「確かに、理央さんなら空間系魔法を使える筈だからね」
今までは理央達も卦韻が唯一技能【錬成王】を使えるとは思わなかったから、卦韻に魔法を見せようとかは理央も全くそういう考えを持たなかった、けれど今なら頼めばちゃんと見せてくれるであろう。
「さて、今日は解散しよ」
「そうだな」
夕暮れ時の我が家に着いた為に、卦韻と美衣奈はそれぞれの家の扉を開いて『ただいま』と声を掛けて、ささっと家の中へと入っていった。
「卦韻、お帰りなさい」
「母さん、居たなら丁度良かった」
「あら、また何か造るの?」
「折角のスキルだからね」
頼み事をしただけでバレバレだったのには笑うしかない。
「母さんの魔法に空間を操るモノは有るかな?」
「空間? 無くはないけど、若しかしてアイテムボックス的な物を?」
「正解」
それは空間がどうのと言えば判ってしまうか、卦韻は苦笑いを浮かべながら首肯をした。
「母さんの空間系魔法次第で性能の最大値も変わるんだけど、どの程度の魔法を使えるのか教えて欲しいんだよ。勿論、見せて貰いたいしね」
「判ったわ」
理央は美衣奈がする様に丹田へと魔力を収束、血流の如く廻らせると腕へと魔力を集めていくと空間を意味する魔導紋を、そして拡張を意味している魔導紋を形成していくと、其処に魔法陣を伸ばした腕に掌を開いて魔法陣を構築していく。
「空間拡張ッ!」
一時的な、本当に一時的な……精々が二四時間程度でしかないが閉鎖空間を拡張する為の魔法。
小さな一人用のテントを拡張し、最大限で六人がダンジョン内で寝れる様にする非戦闘型だ。
「へぇ、何とも御誂え向き」
「でも、拡張が出来るのは二四時間程度なのよ」
「充分、俺ならこれを恒久化する事も出来るさ」
「本当に!?」
首肯した卦韻はナイトアントの魔核をポケットから取り出す。
「Dランクかしら?」
「美衣奈風に言うと蟻騎士、ナイトアントの魔核だね。母さんの言った通りでDランクになる」
小さなDランクの魔核、それが蛍光灯に照らされて鈍く輝いていた。
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