第49話:粘液の魔物
.
「せりゃぁぁっ!」
「火球ッ!」
次から次へと顕れて来る魔物を狩りながら卦韻は美衣奈と下へ降り、漸くB10にも届くであろう第九階層の階段のすぐ近くまで来ていた。
蝙蝠型のバット、豚人型のオーク、蜘蛛型のスパイダー、骸骨型のスケルトン、小鬼型のゴブリンといった種々様々な魔物を斬ったり焼いたり、又は凍結させたりとバリエーションに富んだ攻撃で斃して行き、それなりの数の魔核を獲ている。
いずれの魔核も三〇〇円~五〇〇円未満という御大層な価格では決して無くて、ゴブリンが一〇体で漸く三〇〇〇円に至れる程度であった。
百体斬りで約三〇〇〇〇円、どう考えてもコストパフォーマンスが良いとは云えないであろう。
「こうなってくると一五階層まで行きたいよね」
「行き成りどうした?」
「一〇階層までだと一〇匹斃しても五〇〇〇円にも成らない、一五階層にまで降りれば最低限でその程度の価格には成るから。卦韻は魔導具を売れば幾らでもお金が手に入るんだろうけどねぇ?」
「そうかも知れんが」
卦韻もそうだが美衣奈も社長令嬢というやつなのだし、小遣いくらいはそれなりに貰っていそうな気がするのだけど、違うのだろうか?
「言っとくけど、私は両親からお小遣いを貰った事は無いからね?」
「そつなのか」
「まぁ、私も自前で稼いでるから」
稼いでんのかよ! と叫びたくなったのは悪くあるまい。
〔第一五階層も少しだけ増える程度だったよな〕
〔そうだな、俺も配信オンリーだけど其処ら辺は知ってるぞ〕
〔私も知ってるな〕
安全がある程度は担保される代わり矢張り稼げないらしい。
それに、存在力――ゲーム的な能力値が上がる経験値が少ない訳で、レベルアップが遅いのはその所為もあるから矢張り階層を降りないと。
魔物の強さは=魔素の濃さ、濃い魔素が凝り固まった結果が強い魔物の湧出であり、存在力とは魔素の純度や量、更には魔素そのモノの強度を指している為に、大きな存在力は強い魔物を斃してこそ獲られるというのが基礎であるのだと云う。
何処ぞの金属製の粘液魔物みたいな一部に特化したが故に、全体的には決して強い訳でも無いのに経験値が多いのも在るには在るけど。
「あ、粘液」
「粘液?」
「アレだよ、アレ」
ズルリズルリと大した速度では無い粘液の塊、緑色で何だか毒を持っていそうな形をした粘液の化身みたいな魔物、美衣奈はそれを『緑粘液』などと呼んでいるらしい。
「成程、グリーンスライムっていう魔物なんだ」
「そうだよ。大して強くないけど、粘液系の魔物は集合体に成ったら途端に面倒臭くなるんだよ」
今のグリーンスライムは単体で、中央辺りにて蠢く核部分を突けば粘液体を維持出来なくなり、液体化してしまい死亡するだけなのだとか。
「緑粘液の攻撃法は『体当たり』と『溶かす』、でも体当たりは大した威力じゃないし、溶かして来るって云っても硫酸みたいにはいかない」
素手で触れば、ジュワッと肌が焼ける程度だ。
「こうすれば良いのか?」
剣で核を突くと……
「ギュワァァッ!」
肉声ではない悲鳴? みたいなのを残して粘液が液体化、後には小さな魔核だけが地面に転がっている。
「これ、五〇円にしかならないよ。しかも武器で斃すと少しだけ劣化しちゃうからお奨めしない」
「げっ!」
僅かながら酸で劣化していたが、これのメンテナンスが五〇円では割に合わない。
「じゃあ、どうしたら?」
「アレを見て」
「またグリーンスライム」
言われて視線を動かすと、ズルリズルリと緑の粘液が蠢いている。
「火球!」
美衣奈が飛ばした火の球がグリーンスライムにぶち当たり、あっという間に燃えた訳では無いけど蒸発、水蒸気化し消滅してしまった。
「魔法で焼いちゃえば良い」
「使えない人間には出来ないな」
〔草っ!〕
〔確かにメンテナンスを考えたら厭な相手だわ〕
スライム相手は某・RPGみたいな雑魚ではあっても、単純に面倒な相手で決定的に厭らしい魔物という事で闘いたいとは基本的に思えない。
卦韻もちょっと、このスライム系と闘いたいとは思えなかった。
「アレがグリーンスライムって事は、ブルーだったりレッドだったりが存在しているのか?」
「居るよ。緑→青→赤→茶→黒→金→虹の順番に強くなるから。因みに銀は金属の粘液だからね」
「ああ、メタルなのも居るんだな」
「硬いんじゃなくて、水銀的なスライムなんだ」
「ああ、そういう……」
それはそれで斃し難い魔物だ。
「あ、経験値的には?」
「可成り大きい筈」
その代わりに随分とレアな魔物、アゾットスライムを狙って経験値稼ぎは却って非効率となる。
偶然、顕れればラッキーくらいに考えた方が良いのであろう。
卦韻と美衣奈は再び階段を降りて次の階層へ、魔物もちょっと降りた程度では余り違いは無い。
「小鬼剣士みたいだね」
漸く少し強く成ったのか、ゴブリンソードマンと成った剣持ちのゴブリンが数体程歩いてきた。
「征くぞっ!」
斬っ!
「ギャパッ!」
ちょっと階下に降りた程度、今の卦韻にとってはどれ程の事も無い、危なげ無く首チョンパだ。
「火焔嵐ッ!」
一方の美衣奈も、丹田から血液の如く体内へと魔力を廻らせて、腕に焔を示す魔導紋と嵐を示す魔導紋を複雑に絡み合わせた魔法陣を腕から形成すると、力成す言霊と裂帛の気合と共に嵐の様な焔としてゴブリンソードマンに御見舞いをした。
「「「「ブギャァァッ!?」」」」
拡大する焔に逃げ場の無いゴブリンソードマン共は、成す術も無い侭に焼き尽くされるしかなくて魔核を残して焼滅させられる。
「汚物は焼滅だっけ?」
「消毒だよ。殺ってる事は全く変わらんけどね」
確か何処かで世紀末な髪型をしたオッサンが、火炎放射機で一般人を焼いていた気がするが?
魔核はゴブリンソードマンが居た数だけ落ちているが、どれも全てが通常規格の魔核ばかりだからイレギュラーな魔物は居なかったらしい。
良い事なのには違いないけれど、存在力を多く貰える程度のイレギュラーは欲しいのであろう、美衣奈は少しばかり詰まらなそうな表情。
勿論、北海道に出たBランクの魔物は御免被る事態なのだけど、卦韻としてもそろそろ強そうな魔物に会って闘いたい欲求は湧いていた。
(良くない兆候だ。別にダンジョン探索を舐めている心算は無いけど、イレギュラーだって出ているのが現状なのにもっと闘いたいとかな)
自省を促して自制をするが、時勢を読めていない考えなのには違いないし、辞世の句を詠む事になるのだけは無い様にしないといけない。
「オークソードマンだよ!」
「銅の剣か」
「豚人にせよ小鬼にせよ犬頭にせよ、人型の魔物は武器や魔法を扱うタイプが居るよね。同じ名前の魔物でも武器が換わって強さも増すから、其処ら辺は卦韻も気を付けて」
「了解だ!」
卦韻はスラリと佩いている剣を抜剣すると……
「喰らえっ!」
豚面の首を絶ち斬った。
「はっ!」
次から次へと首をぶった斬った、その命を奪っていくと魔素に還って転がる魔核を拾って、都度バックパックへと仕舞っていく。
「参ったな~。下手に数が有るからバックパックが小さい事もあって、どうしても直ぐ一杯になるよな」
もう少し何とかしないと卦韻だけでは無くて、美衣奈の腰のポーチもそろそろ一杯に成りそう。
(空間系の技術を捜して新しいバックパックを造りたいな)
ステータスを調べる魔導具も今までに無かった代物だけど、空間拡大の所謂話がアイテムボックスとか、アイテムストレージみたいな物も無い筈だし、造れれば量産をして確かな稼ぎに成るかもだから試したい。
美衣奈も魔力を練り上げる。
「風よ逆巻け! 竜巻ッ!」
真空の刃を含む竜巻が起こって豚面共を切り刻んでいく。
「それってさ、トルナードでも良いんじゃなかったか?」
「……かもね。だけど冒険者ギルドにはスカイプンペで登録しちゃったんだし、仕方が無いよね」
新たな魔導紋と魔法陣と力成す言霊の発明という偉業、一六年前にダンジョンが顕れてから使われていた魔法は、ダンジョンで発見された石碑に描かれた文字の解読によるが、そんな成果すら嘲笑うが如く新しく魔法体系を構築したのが、他ならない六歳児に過ぎなかった一〇年前の美衣奈だったのだと云う。
.




