第47話:楠葉一家の日常
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まだ早い時間だから両親は居る筈だと考えて、卦韻は急いで“ステータスミラー(仮)”と名付けた魔導具を手に、階下に降りてリビングへ。
「父さん父さん!」
「何だ? 自室に戻ったかと思えば一時間もしない内にまた降りてきて、何を叫んでいるんだ?」
「これを!」
「鏡……か?」
渡されたのは何の変哲も無い鏡にしか見えなかったが、突如として目を細めたかと思うと卦韻の方を睨め付けて再び鏡に視線を戻した。
「魔核が填め込まれている様だな、詰まり魔導具という訳だ。それで、お前が態々こうして持ってきて見せたなら相応の効果を持つんだろ?」
「名前は仮にステータスミラーね、詰まりは能力の見える化」
「っ!? それは……」
残念ながらダンジョンが顕れてからというもの一六年、レベルアップの概念こそ理解され周知もされてはきているが、ステータスを見える化する魔導具を冒険者にして魔工師たる自分にも、未だに造る事は於ろか設計概念すら構築が出来ない。
「魔力を少し流せば発動する仕組みだから試してみたら?」
「ふむ……」
楠葉慎吾 職業:闘武将 レベル807 HP10270 MP877 SP930 腕力518 体力772 脚力1024 器用960 耐性:火43 水32 光12 氷14 スキル【SSR錬成術】【SSR疾風迅雷】【SSR剛力無双】【SR絶対音感】【SR鑑定】【N魔力視】【C速読】 必殺スキル【抜刀】奥義スキル【裂空閃】秘奥スキル【斬月】
「結構、細かく見れる物なんだな。然しどうやってこれを? 俺も魔工師として頑張ってみたが、どうやっても無理だったというのに」
「ってか、父さん強い! 正しく桁違いだぞ!」
「レベルが807にも成ればな」
慎吾は息子からの称賛に少し照れているのか、フィッとそっぽを向きつつ己れのレベルを呟く。
「へぇ、どれどれ?」
今度は理央が触れると魔力をスーッと流した。
楠葉理央 職業:魔導公 レベル724 HP8220 MP1240 SP513 腕力221 体力473 脚力430 器用824 耐性:火43 水32 風72 土64 氷43 雷18 樹23 光33 闇24 スキル【SSR魔導之心得】【SSR精神快癒】【SSR魔導力】【SSR瞬間移動】【SR瞬間記憶】【SR絶対味覚】【N魔力増幅】【N魔力視】【C速読】 必殺スキル【魔導砲】奥義スキル【流星刃】秘奥スキル【一斉掃射】
「うわ、母さんも激強っ!」
「これでもダブルホルダーに成れるだけのレベルだもの」
「そういえば、確かにダブルホルダーだったか」
単純にレベルが七〇〇を越えるともなれば相当な能力値に成るのは間違いなく、しかもSSRスキルを複数所持している上に特殊職業だ。
父親と母親のどちらもが特殊上級職であった。
「卦韻のステータスはこれか」
「確かに高くは無いけど、SSRやURが普通に有るのね。普通はSSRに成るには下のレアリティを上げていくものなんだけどね」
スキルは下位レアリティが上がるなどして上位レアリティに成る。
「SSRに成る際に統合化される場合もあるわね」
「統合?」
「SR【剛力】とSR【無双】が統合化で【SSR剛力無双】にとかね?」
「じゃあ、SSR【疾風迅雷】も」
「そうなるわねぇ」
まだ識らない知識が多いらしく、美衣奈におんぶに抱っこ状態なのを、こういう時に痛感する。
「卦韻」
「何、父さん?」
「これは量産が利くのか?」
「素材さえ有ればね」
「素材……か」
鏡と魔核、それに卦韻のSSRスキル【真鑑定】が必要不可欠だけど、鏡と魔核だけなら其処ら辺から調達が出来ても【真鑑定】は唯一技能でこそ無いけど、それにしても確率的には万に一つ程度の可能性だった。
「素材が有っても俺のスキルを落とし込んで造るから、抑々にして俺が居なければ成立しない魔導具って事になる。だから安値では無理だね」
「鑑定なら俺も持っているんだが、それを魔導具に附与というのが【錬成術】では無理だろうな」
矢っ張り【鑑定】の持ち主が【錬成術】などを持つのは鉄板なのか、卦韻程ダイナミックで無いものの、慎吾もまた物造りに対して随分と秀でたスキルの構成をしてるらしい。
だけど、魔法は於ろかスキルでさえ魔導具として落とし込める、これは【錬成王】でのみ可能とする特殊な能力であると云えるであろう。
「卦韻ならそれこそ、何百万とする魔導具ですらいずれは拵えてしまいそうだな。今はレベル的な問題からまだ難しいのだとしてもだ」
「かもね。将来は父さんの会社を継ぐっていうのもアリか」
「それは良いな。卦韻に俺の会社の【楠葉魔工㈱】を継いで貰えれば、将来は安泰間違いなし」
存外と乗り気な慎吾、彼は独自に事業を展開して【楠葉魔工㈱】を運営する代表取締役社長で、副社長に理央を据えているし、基本的に専務だの常務だのも一族の中の誰かが据えられてる謂わば家族経営の極致、法務部でも[夜口法律事務所]の中から人員の出向をしている。
抑々が筆頭株主から慎吾の父親の楠葉楝鵬な訳だし、他の大株主にしても愛坂惣元や愛坂玲也、その上で愛坂美衣奈もその名を連ねていた。
慎吾が初代社長、二代目に息子を据えるというのも無理な話では無かったし、何よりも必要不可欠なスキルを持つからには何の問題も無い。
対内エネルギーの活性化に伴い、寿命も若さも本来の人間より遥かに長い時間を獲られる為に、百年くらいは慎吾が社長の侭でもで居られそうだけれど、それでも後継者を決めておくのは、そんなに悪い話でも無い事なのだと云う。
「まぁ、俺も後百年以上は生きられるだろうし、お前に会社を譲るにしても可成り後なんだがな」
「冒険者は体内エネルギーが活性化されてるから若さを保ち、更には寿命も従来の人間よりずっと長く生きられるっていう論文だったっけ」
「そうだ。まぁ、論文を書いたのは美衣奈ちゃんだったりするがな」
「そんな事だろうと思った」
博識を越えていないかと考えなくもないけど、恐らくは美衣奈の頭の中に様々な知識が詰まっていて、必要になれば随時出しているのだ。
そう思う事にしておく。
「兎に角、ステータスミラー(仮)がもっと欲しいなら鏡とCランク以上の魔核、それから当たり前だけど報酬をちゃんと用意してくれる?」
「勿論、当然の要求だな」
家族だからと、なあなあにはしないのである。
「何しろ、今までに無かったステータスを計れる魔導具であるって事、造れるのが卦韻だけである事も加味すれば、一つ六〇〇万でどうだ?」
「オッケー」
軽い言い方だけど可成りの稼ぎになる事から、卦韻としてはとても嬉しいものなのは違いない。
「素材はそっちで出して貰うよ。それで、幾つ欲しいんだ?」
「取り敢えず東京本店、大阪支店、北海道支店、京都支店、埼玉支店、広島支店、福島支店、沖縄支店での八個分を納品して貰えると助かる」
その八ヶ所の全てが初心者ダンジョンの存在している場所、必ず必要になる八ヶ所だったからこそ慎吾は先ずを以て欲したという訳だ。
一つが六〇〇万円なら、八個分で四八〇〇万円にもなるから卦韻は税金を除いてもそれなりの稼ぎにはなるし、それを使えばそこそこに良い武具を買えるだろうから悪くない。
因みに、慎吾の装備品は全身含めて億単位もの資金が必要になる程、然しながら実際には一六年という長い時間を掛けて、慎吾自身が造っていったから其処までのお金は掛かっていなかった。
それは理央や玲也や扇歌の装備も同様であり、Aランクたる水無瑠亞の装備も相当で良い物だ。
朝食を食べ終えた卦韻はキッチンへ皿を持っていくと、慎吾とステータスミラー(仮)の売買契約を行って紙面で契約書を交わしてしまう。
「造る事に時間は掛からないけど、レベルの問題から一日に一個しか無理だから八日は要るよ」
「構わないが、問題なのは諸外国も欲しがるだろう事だな。日本の冒険者ギルドに関しては我々の一族で押さえているが、諸外国の冒険者ギルドは日本を参考にしてはいても中身が別物だからな」
「それは……そうだろうね」
「まぁ、お前に支払う以上の金を毟り取ってやる心算だけどな」
「心強いよ、父さんは」
少し剣呑で不穏な言葉が交じり、然しそれでも楠葉一家は笑顔を浮かべて話が出来ていた様だ。
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