第46話:数値化の鏡
.
目覚めたら普通にベッドの上に眠っていた卦韻だったが、唯一技能たる【錬成王】の起動をしてみて『矢っ張りな』と気が付いた。
彼方側で製作した物が確かなアーカイブ化されており、思っていた通り完全に彼方側と此方側でリンクされているという確認が取れた訳だ。
「此方で魔銀の武具を造れば、彼方側でも魔銀で武具を製作出来る筈。武具を造れる程の量の魔銀を生成する為には、今の俺のレベルだとちょっとばかり時間が掛かるか」
魔力量は充分に有るみたいだが、精神力の量は少し問題がある為か、どうしても造り切れない状況に陥ってしまうらしい。
一旦は停めて精神力が回復してから再始動をしたら、続きとして生成が出来るみたいだが……
「兎に角、少しずつ魔銀の生成をしていこうか」
必要な量を算出、全ての銀を魔銀へと変換する為に必要な魔力量と精神力量の答えを出した。
「彼方側と此方側で持ち物はリンクしていない、詰まり此方側で魔銀を生成しても彼方側には持って行けないのか。仕方が無い、此方は此方で彼方は彼方で、魔銀の生成をするしか無いって事になるんだろうな」
卦韻は溜息を吐いてしまうけど、気を取り直して設定に色々な変更点を加えていくのみである。
「色々と造りたい物は幾らでも有る。それらを造る為にも必要不可欠なのは知識、それが俺自身の財産であり力に成るって事だよな」
そして想像力を創造力に変換しなければ……であろう。
「魔装具として造れるのは魔法を籠めるが故だ、なら例えば霊力なら霊装具って事になるのか? なら氣力なら氣装具? 或いは天装具か」
卦韻は暫く考えて……
「天装具の方がらしい名前かね」
名称の決定をする。
「若しかしたら……だけど、イケるのかもな?」
そうしている内に思い付いた良い考えを脳裏に浮かべると、試しだと謂わんばかりに卦韻はその思い付きを想像力の侭に実行をしてみた。
卦韻は自身の唯一技能【錬成王】の眩いばかりに煌めく可能性、これを彼方側の【精霊妃】を視た事よって強く信じられる様に成ったからこその事であり、こんな今までであれば考えもしなかった事に挑戦をしてみようとも思えたのである。
真魂領域にまで自らを沈めると、其処に拡がるのは赤だ蒼だ白だと色とりどりの水晶柱が彼方此方に立ち並ぶ精神的な世界、この場所に以前来たのは唯一技能を目覚めさせる為だったのを今でも覚えていた。
卦韻が無数に立ち並ぶ中から選ぶのは前にも触れた黄金水晶、これこそがSSRスキル【真鑑定】が籠められている水晶なのである。
「始めようか」
ズニュ~ッ! と卦韻の手が黄金水晶の内部へとめり込んでいき、卦韻の頭の中に入ってきたのは【真鑑定】の大雑把な本人が知る情報。
それは、アイテムを視たならその情報を視認する事が出来るという、だけど態々【真鑑定】と【鑑定】に“真”を謳うならそれだけの某かが在る筈だと、現在の侭では単なる【鑑定】と変わらない代物である。
「ぐっ!?」
更なる奥に、黄金水晶の柱の最奥にまで入ると激しい頭痛が起こり、膝を付いてしまうけれどそれでも確り立ち上がり歯を食い縛った。
「まだ、まだまだイケる!」
SSRスキルとしての【真鑑定】を完全には掌握しておらず、未だにスキル全ての機能を使い熟していなかった卦韻は、掌握するべく心の全てを振り絞ってそれに努める。
流石にURスキルの【錬成王】程にキツくは無いかもだけど、それでもSSRスキルを半ば無理矢理に覚醒を促すのだから過負荷が物凄い。
他の世界ならどうか知らないが、この世界では無理矢理にスキルを覚醒するのは激痛を覚悟せねばならない様で、卦韻は知識を取り込みながらも痛みに耐え続けていた。
「これで掌握が完了……だな」
卦韻は肩で息を吐きながら呟く。
「とはいえ、普通の魔核じゃ対応は出来ないか。母さん……否、父さんの方が良いかも知れんな。魔核を譲って貰おう、お金が掛かるけど」
丁度、早朝だから父親の楠葉慎吾もまだ会社だかダンジョンだかには行っていない筈だろうし、早速とばかりに卦韻は自室を出て階下へ。
「おはよう父さん、母さん」
「おはよう、卦韻」
「おはよう」
挨拶をすると、二人も挨拶を返してくれた。
「悪いけど父さんに頼みたい事があるんだよ」
「ほう、何だ?」
「ちょっとランクの高めな魔核が欲しくってね、それで直ぐにお金は払えないけど必ず支払うっていうか、それだけの価値が有る物を造りたいんだけど、それに魔核がどうしても必要になるんだ」
息子からの言葉に、慎吾が頤に指を這わせて思案をし始める。
「高ランクの魔核をか?」
「そう。俺が考えている通りに完成すれば間違いなく、冒険者ギルドという組織にとって必要不可欠な魔導具に成る事は保証する」
「普通なら我が子の言葉とはいえ一笑に伏す処なんだが、お前のスキルを聴かされている俺からすれば期待を掛けてしまうな。色眼鏡無しで」
「期待を裏切る気は無い」
自信満々、それが虚勢では無い事を息子であるからこそ理解する慎吾は、瞑目をして新聞を畳みテーブルに置くと、スッと立ち上がった。
その侭、夫婦の部屋へと向かうと一個の大きめな魔核らしき石を手に戻ると、卦韻へと手渡す。
「これは?」
「昨日の夕方に冒険者ギルド北海道支部から送られて来た魔核だ。ランクはB、足りているか?」
卦韻が【真鑑定】で魔核を視る、其処に記された情報は《シルヴェンウルフの魔核》だった。
「確かにBランク、シルヴェンウルフの魔核だ。これくらい高位な魔物の魔核ならイケそうだよ」
「そうか、なら使うと良い。それは瑠亞ちゃんが送って来てくれたシルヴェンウルフの魔核だが、お前に頼みたい事が有るからと、賄賂と言ったらちょっとアレだが御礼金みたいな物だから使え」
「え? じゃあ、頼み事をクリアしたら無料?」
「そうなるな、因みにBランクの魔核は一個辺り一〇万越えだから中々に御高価い代物になるぞ」
それでも卦韻なら買える様には成るだろうが、今は無料も同然なこの魔核は凄く有り難いのだ。
「けど、今は槍太と璃亜に付いて北海道の初心者ダンジョンに潜ってるんじゃなかったっけか? 何でBランクの魔核を送って来れたんだ?」
「その初心者ダンジョンでイレギュラーとして出たそうだ。幸い、槍太君と璃亜ちゃんは無事だったが、知らないEランクパーティが痛い思いをしたらしくてな。それであの子が斃したそうだ」
「そっか、槍太と璃亜は無事だったんだ。不幸中の幸いかもね」
痛い目を見た見知らぬEランクパーティは可哀想だったけど、幼馴染みで親戚且つ友達でもある二人が無事であるなら胸を撫で下ろせる。
「で、瑠亞姉さんの頼み事はいったい何かな?」
「シルヴェンウルフの毛皮を使って術士用の防具を造って欲しいそうだ。勿論、Aランクの彼女が纏うに相応しいだけの性能を望まれてる」
「成程、今の瑠亞姉さんの装備のデータを貰って来てくれる?」
「判った」
流石に今現在の装備を知らずして造れはしないだろうし、何よりも造ってみたなら今の装備品よりも低い性能でした……は話にもならない。
卦韻は有り難く受け取った魔核を置いてから、改めて席に着いて理央が用意した朝餉を摂った。
食パンを使ったサンドウィッチ、カリカリに焼いたベーコンと半熟目玉焼きでベーコンエッグ、それらの後味を消す為の珈琲は悪くない。
「戴きま~す」
美味しいのは間違いない訳だが、彼方側で食したサラダっぽいナニかとは比べられない出来だ。
あっという間に平らげた卦韻。
「御馳走様」
「御粗末様」
ささっと二階の自分の部屋に戻って魔核を取り出すと今一度、シルヴェンウルフの魔核を自身のSSRスキル【真鑑定】によって視てみる。
《シルヴェンウルフの魔核》と矢張り変わらずに表示された。
「Bランクなら間違いなく造れる、唯一技能である【錬成王】を起動」
素材と成る物をスキルの投入口に放り込んで、確りとデザインを決めてワイヤーフレームの応用により形状を変化、色も付けて素材その物の形もイメージの通りに変化をさせると、魔核に自らが持つ【真鑑定】の機能の一部を附与させた。
それは鏡、自身の魔力を流しながら卦韻が触れてみると、鏡面には文字が浮かび上がっている。
楠葉卦韻 職業:剣士 レベル14 HP82 MP124 SP173 腕力32 体力33 脚力61 器用180 耐性:火12 風21 闇60 光60 スキル【UR錬成王】【SSR真鑑定】【SR剛力】【SR疾風】【C思考】【C速読】【C投術】 必殺スキル【光覇斬】
「数値化されるのはこのくらいか、スキルも確りと入っているな。SRスキル【剛力】、俺がデスコーピオンを斬り裂けた理由の一端かね」
取り敢えず冒険者ギルドのみならず様々な組織からしたら、正しく垂涎の的と成るのは間違いない魔導具が完成したのだと云えよう。
.




