第45話:お婆様
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「いらっしゃい、わたくしの名前はミリシエラ。一応の血縁上では貴女の祖母に当たりますね」
「お婆様ですか」
「ええ。ミリエリアを連れ戻すのを私は反対したのだけど、この人は意味も無く頑固だから。本当にまったく困ったものだわ」
何と云うか、ミリシエラ女史はミリエリア女史やミスティも美女美少女だったけど、それに輪を掛けて絶世の美女……というか美魔女だ。
つい見惚れてしまったのも仕方が無いだろう、碧銀のミスティに金髪のミリエリア女史だったけれど、ミリシエラ女史は銀髪である。
不老長生なハイエルフ故に若々しく二十代半ばくらいにしか見えず、整い方も半端でないくらいであり、残念なのは食生活からかスレンダーで胸も余り無いといった処か。
別に俺が巨乳好きな訳じゃない、だけど俺だって健全な男な訳だから溢れんばかりの胸に埋もれたいと、そんな欲望を考えるくらいは構わないだろうと思うんだけど。う~ん、駄目っぽいな。
三人の共通項はスレンダーな事、これを口にしたら終わるだろうが。
「それでお婆様でしたか、何の御用でしょう?」
「わたくしも孫娘を見たいのよ、お話しだってしたいわ」
「そうは言われましても、正直に言いますと余り話したい訳ではありません。確かに血縁上は貴女は私のお婆様なのでしょうね、でも、結局は私からお母さんを奪ったエルフに違いありませんよ」
「そうね、ミリエリアを帰して上げられなかったのだもの。幾ら謝っても足りないのでしょうね」
ミスティからしたら、矢張り同じ穴の貉に等しいと思えたのだろう。
だけど、ミリシエラ女史は明らかにミスティに対して、確りとした謝罪の意を含んでいる気がするよな。
「だけど貴女にそれを解って欲しいとまでは言いませんが、ミリエリアのスキルは余りにも問題のあるモノだったのよ。【精霊妃】なんてね」
「成程、確かに人間の世界に【精霊妃】の宿し手が居たら大問題でしょうね。何しろ、【精霊妃】や【精霊王】は全ての精霊に対して、絶対的な干渉権を持っていますから」
本当にURスキル、唯一技能というのは凄いモノなんだな。
いや、俺の【錬成王】というスキルも大概そうなんだけど。
「ですから、理解はしていますよ。私も今は四歳の子供ではありませんから、流石にお母さんのユニークスキルを知ってしまった以上は納得するしかないでしょう」
「有り難う。そして、ごめんなさいねミスティ」
「いえ」
ミスティはどうやら、ミリシエラ女史に対しては悪感情も無い様だ。
「ミ、ミリシエラとは話すのか」
「貴方と何を話せと?」
「うぐっ!」
血の繋がった孫娘には違いないから話したいとは思っているのかもだが、だけどミスティは完全なる塩対応というやつだった。
祖父に対しては、矢張りその態度から気に入らないのだろう。
もう四歳の子供じゃないと言ってたとはいえ、一六歳の子供には違いないんで感情的にならない訳も無い、ミスティはあのハイエルフ祖父を現状で赦す気は無いみたいだな。
「旅に出るというお話しだったみたいよね?」
「はい、どうしても私達には必要な事ですから」
「貴女達に?」
「そうですね、出来るだけ早くケインのクリスタリオンを完全体にしなければならないですから」
「クリスタリオン? まだわたくしが幼いと言っても良いくらいの頃、勇剣士様が天零樹の根元に刺したという伝説の剣でしたか」
長生きなハイエルフだけあって、数百年も前の事を数年前レベルで語ってくるミリシエラ女史。
「勇剣士? 勇猛なる剣士って奴か? 勇剣士っていうのが正式なっていうより職業の名前?」
「ふぅ、そうだよケイン。勇剣士は剣士の特殊な上級職なんだ」
溜息を吐きながらミスティが教えてくれた。
彼女の話では職業スキルは基本職から始まり、中級職に上がって更に上級職を獲る事になる。
その中には特殊職や派生職なんてのも存在していて、父さんも剣士から武士に派生をした上で武将という中級職に、そして上級職である闘武将に成ったのだろう。
尚、俺の基本職の剣士も中級職の剣豪に成り、更には天剣士という上級職に成るのだそうな。
勇剣士は明らかに派生した上級職なのだろう、しかも聖霊剣を刺したのがその勇剣士だとは。
「ミスティ、若しかして俺は勇剣士を目指す必要があるのか?」
「勿論だよ」
期待が、ミスティからの期待が滅茶苦茶重い。
だけどミスティが何をケイン・ユラナスという少年に求めているか、何と無くではあるけど見えてきた気がするから動き方も判ってきた。
問題なのはそれに応えるのがケイン・ユラナスという少年では無く、意識的には何故か楠葉卦韻である俺だっていう事なんだけどね。
「それがミスティ、延いてはお仲間……いえお友達の謂わば使命という事でしょうね。大変な事」
ミリシエラ女史はほのぼのとした雰囲気で言ってきた。
「取り敢えず、今日は泊まってらっしゃいな」
「まぁ、お母さんと話せる機会は有り難いので、そうさせて頂きます」
「ミスティ……」
瞳が潤んでいるミリエリア女史、こうして見ると雰囲気は矢張りミリシエラ女史と同じものだ。
ハイエルフ祖父は全く入れてない会話がミスティと母親と祖母による女子会で開催、俺達も遠慮をしているから会話には入っていない。
夜になってから食事も戴いたけど何と云うか、鳥肉と野菜を使ったサラダっぽい何かだった。
味としては悪くないけど、味付け自体は素朴というか素材の味を生かしているといえば聞こえは良いが、現代日本での世界中の味を知っている俺としては、随分と舌に物足りない気がしていた。
まぁ、ミスティの味付けから鑑みると、ひょっとしたらこの世界での標準なのかも知れない。
「せめて塩気が欲しいな」
人間、塩分がとても大事だけど自分の体内で作る事が出来ない為に、外部からの取り込みは必須となっているから欲するのは当然の欲求。
「ごめんなさいね、実はわたくし達は余り塩分を必要としないの。全く要らない訳では無いけど、少なくて済むからこんな味付けでも良くて。美味しくは無かったかしら?」
「あ、いえ。決して美味しくない訳では無いんで大丈夫です」
俺としても別にこの味は好む処、実際に塩気が足りていないだけだ。
「昔からこういう味は好みなので」
「そう、良かったわ」
そう言って微笑みを浮かべたミリシエラ女史。
「何、お婆様に鼻の下を伸ばしているのかな?」
「あ痛たたたっ!?」
ミスティだけでなく、スピアまでが頬を強く摘まんで来て痛い。
とはいえ俺も鈍感系とか、告られて風で聴こえませんとか、マヌケに成った心算も無かった。
二人からそれなりに好意を寄せられているのは気付いてるが、大前提からして大問題の話で俺はケイン・ユラナスじゃ無いんだって事だ。
彼に代わって決して応えたりは出来ないよな。
食事も済んでテラスらしき場所で月を観察してみると、ファンタジー宜しく月が複数在ったり、或いは色が真っ赤だったりするかどうか。
今までは夜中に月を観るなんて、風情のある事をした事が無かった。
「ふむ、色は普通だけど……大きめな月と小さな月が連星に成っているんだな。というよりアレは若しかしたら、一つの月が何らかの理由で破壊されて二つに成ってしまったんじゃないかな?」
「どうしましたか?」
「ミリエリア女史」
「じょし?」
「ああ、女性の敬称かな?」
本来的には知識や教養のある女性に対する敬称であり、現在では皮肉的な使い方をされているみたいだから寧ろ、直接的に『さん』と呼んだ方が良いかも知れない。
とはいえ、それは日本での話だから此方側では関係も無かった。
何しろ、王女様的な人物とは云ってみても人間の王族と違い、綺麗なドレスではあるけど権威の象徴みたいな冠とかも被ってないからな。
だから『~様』は何だか違う気がするんだよ、強要をされたら仕方が無いからそうするけど。
「娘のお友達な訳ですから、普通に『さん』でも良いですのに」
「そうですか? ではそうしようと思います」
「ええ、宜しくね」
ミリエリア女史……否、ミリエリアさんに言われたのなら特に問題も無いんじゃなかろうか。
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