第44話:エルフの郷
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「ミリエリア様、娘とは?」
「あの子は私の娘ね、それで名前はミスティよ」
「なっ!? た、確かにミリエリア様は人間の村で結婚を成されたと聴いてはいますが……」
驚きに驚きが重なるエルフ男カヅーだったか?
「それにしてもミスティ、スキルを使うとは考えたわね?」
「まぁね。私が聖霊の森に入っていたのをお母さんが認識したのは、私のユニークスキル【魔導妃】を感知したからだろうからね」
そう、あのヒトが手紙を送れた理由はミスティが【魔導妃】を使ったのを感知したからだから、同じ様に使ったら彼女が出てくると計算をした上での行動だった。
「それにしてもミスティ、お友達まで連れてきたのは……一緒には暮らせないアピールかしら?」
「そうだね。お母さんに一目くらいは会いたかったのも有って来たけれど、私はケインやランスやスピアと旅に出る心算なんだ」
「旅に……そっか、貴女にとっての陽光を見付けちゃった訳ね」
「うん、そうだよ」
「そっか……」
溜息を吐くミリエリア女史だが、だけど其処にあるのは娘の決断に決して呆れるのでは無くて、それは何処かしら嬉しそうな表情だった。
「今日は泊まって行きなさい」
「ミリエリア様!?」
「私の決定に異を唱えるのですね、貴方にそれだけの決定権は与えられてはいないと記憶しますが?」
「そ、それは……」
カヅーとやらが狼狽えている。
エルフは少数民族、抑々がファンタジーでよく有る様に長命種だからだろう、その為か子を成す為の性欲が余り旺盛とは云えないとか。
其処ら辺の話はミスティから事前に聴いている事でもあった。
少数民族故に、上下関係の意識が可成り強い。
飽く迄もこの世界でのエルフ族の理であるが、エルフが平民だと認識するのなら衛兵をしているカヅーとやらは、平民の身でお姫様なミリエリア女史に歯向かう様な口を叩いたという事になる。
「兎も角、貴方にどうこうと言われる筋では無いもの。文句が有るのならお父様に言いなさいな」
「そ、それは……」
王に王女の振る舞いを意見する平民の図と考えるのならば、カヅーとやらが躊躇いを見せているのも納得というものであろう。
「お母さん、エルフの里に戻りたいなんて思ってなかったからね。彼らにとっての理想のお姫様を演じる気なんて更々無いんじゃないかな」
「それは……態度から有り得そうで怖いよな」
ミスティを見てた瞳は優しそう、愛しそうなものだったのに対して、同族であるカヅーとやらを視る瞳は余りに冷たいのだから解り易い。
カヅーとやらが余り気にしていないのは愚鈍だから気付いてないか、若しくは普段からこれだからデフォルト化していて慣れているかだ。
きっと後者なんだろうな。
「さぁ、ミスティ。お友達もお出でなさい。里に案内をしますよ」
「ミリエリア様!」
「止めるなら許しませんよ? 私のスキルを使えば貴方がどうあれど、敵うと思わない事ですね」
「うっ!」
随分と恐れてないか? ミリエリア女史って、どんなスキルを?
カヅーとやらは全く反論をしなくなっていた。
俺達……って言うか、ミスティをというべきなのかも知れないが、里へと案内をしてくれる様にミリエリア女史が先導をしている。
「森の中に家が、空間をフルに使って建ち並んでるんだな」
「ええ、私も嫌いでは無いんですよ。でも愛する娘と引き離されてまで住みたくはありませんが」
ニコリと微笑むミリエリア女史、だけど明らかに悍毛を感じる凄味、それをまるで戦闘者の纏うオーラの如くユラリと立ち上らせていた。
「こ、怖っ!」
スピアは背筋を震わせる、母は強しという事だろうか?
「こりゃ、一二年もの間ずっと腹に据えかねていたんだな」
「ランス、そうかもな」
流石に憎悪を溜め込んではいそうにないけど、若しかしたらエルフという種族そのものを嫌ってしまったのかも知れない、自分自身含めて。
ひっそりとミリエリア女史が精霊に嘆願して、風の結界みたいなモノが展開が成されている。
「風の精霊魔法で“風に囁く者”」
エルフは精霊への嘆願で魔法と成す精霊魔法の使い手、ハーフとはいえミスティもエルフに違いは無いのに普通の魔法を使うのが珍しい。
使えない訳じゃ無い筈だけど。
「私のスキルは一二年前に発現しました。要するにミスティと引き離されたのが切っ掛けですね」
「それは良かったのかな?」
「不幸中の幸いだもの、貴女に引き離されなければ必要も無かったわ」
そしてミリエリア女史が話すのはスキルの名前であった。
「私のスキル名は【精霊妃】」
「ユニークスキル!」
「そうみたいね」
ミスティが驚くのも無理は無い、確か【王】と【妃】の名を与えられたスキルはユニークスキルであり、俺の【錬成王】やミスティの【魔導妃】と云うのも同じくユニークスキルなのだから。
「まさか、昔に【精霊王】のユニークスキルこそ存在していたけど、【精霊妃】は全く顕れた事が無い筈のスキル。詰まりお母さんが初?」
ミスティが何処まで博識なのか、どうやら本当に【精霊妃】というスキルはこれまで出てなかった様で、その驚きの程が声色からも窺えた。
「ユニークスキルは魂の更に奥底、意識界へ直接的に刻まれるモノ。だから仮令生まれ変わっても持ち続ける特殊なスキルだよ。詰まり、今までに私の【魔導妃】を持っていた人が居たとすれば、それは私の前世に当たる人物っていう事なんだ」
「マジに?」
「そうだね」
ちょっと待とうか、だとしたら同じ【魔導妃】を持ってる美衣奈は、ミスティと矢っ張り関係が?
「【精霊妃】は【精霊王】と同じく全ての精霊を統べるスキル、だから完全に精霊魔法の使い手に対する特効を持っている様なものだね」
「ミスティちゃん」
「何かな?」
スピアが疑問顔で訊ねる。
「じゃあ、若し【精霊王】と【精霊妃】の持ち主がぶつかったら?」
成程、それは確かに当然出てくる疑問だろう。
「その場合、本人同士の能力で決まるんだよ」
「ああ、そういう事か」
ミスティのそれは至極真っ当な答えだった。
「さ、入って」
「これは……この里の中で一番立派な建物だな」
「一応は種族長の家だもの」
笑顔を浮かべるミリエリア女史、その微笑みは母親というだけあってミスティと全く変わらないし、その美貌は俺からして見惚れてしまう。
「いらっしゃい、どうぞ上がって下さいな」
「「「お邪魔します」」」
「お邪魔しま~す」
ミスティにまで同じ挨拶をされたからだろう、ミリエリア女史が少し苦笑いを浮かべていた。
本来はお腹を痛めて産んだ愛娘が実家に来た筈なのに、まるで赤の他人の家へと上がるかの様な挨拶をされてしまっては仕方が無い。
まぁ、実際にミスティからしたら母親が暮らしてるだけの、正に赤の他人の家に過ぎなかった。
「お父様、ミスティとその御友人を連れて参りました」
「うむ……」
其処に座っていたのはミリエリア女史に似ている風貌の男性、必然的に彼はミスティにもよく似ている訳だが、取り敢えず考えてみれば逆に二人がエルフ男性に似ているのか。
「初めましてだな。私は……」
「ああ、覚える心算はありませんので結構です。勿論ですが覚えて貰う心算もありませんね。私はお母さんに一目会いに来ただけですから」
「なっ!?」
うわぁ、ミスティは完全に慇懃無礼モードだ。
普段のミスティは可成りのざっくばらんな口調だけど、態度が“ああ”なるのはリスペクトをする気にもならないと思っているからだよな。
「と、歳上を敬う気は無いのか?」
「歳を喰うだけならエルフは誰でも出来ますよ」
「ぐっ!」
「貴方は千歳ですか? 二千歳ですか? だから何ですか? 私から視れば四歳の頃に母から引き離しに来ただけの存在に過ぎませんよ」
「うっ!? し、然しエルフとして! しかも、ミリエリアはハイエルフで種族長の娘だぞ!?」
「だから?」
「っ!?」
「母親から引き離される子供に、そんな大人としての理屈が本気で通じるとでも思ってますか?」
大人びてはいても、ミスティだって四歳の頃は単なる子供に過ぎなかったのだし、母親が奪われたのだから祖父だろうと好きには成れまい。
「はぁ、だから言ったのに」
ミスティにもミリエリア女史にも似ていない、然しながらとんでもないくらいの美女が現れた。
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