第43話:お母さん
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聖霊の森。
エレメート村からすれば殆んど隣接地であり、広大なる肥沃の大地でありながら細々と豊穣なる恵みを享受するしかない、魔物が湧くのは勿論だったけど何より妖精種――エルフが住まうから。
とはいえ、俺はエルフが聖霊の森に住まう事は一応だけど知っていたが、上位のハイエルフまで住んでいたのは少し意外に思えていた。
他の世界というか、ラノベなんかに登場をするのと似ているのかも知れないが、通常のエルフを平民とするとハイエルフは貴族に位置して、そんなハイエルフの中でも種族長というのが王族を担っているらしく、ミスティがまさかの現在に於ける種族長の孫娘という事であるらしい。
同じ顔たる彼方側の美衣奈は兎も角としても、ミスティの美少女っ振りはハイエルフの血筋だったからと、そういう事らしいのが判った。
ハーフエルフとは云っても彼女もハイエルフの血族な訳だから。
「それじゃ、行くけど。本当に付いて来る気?」
「ああ、仲間なんだから挨拶くらいはしないと」
「そうだぜ!」
「一人で行かせらんないよ」
俺もランスもスピアも、ミスティだけをエルフの里へは行かせられないから付いていく事に。
「とはいえ、気を付けて。エルフの血族以外には“迷宮組曲”の魔法で惑いを掛けられるから」
「迷いの森って訳かね、何ともはや定番だよな」
エルフの住まう森に迷いの魔法はド定番だったからか、ちょっと呆れた様子で卦韻はやれやれなポーズを取りながら呟いてしまう。
聖霊の森へと入る四人、浅い位置に居る魔物に関してはそれ程に強くは無くて、聖霊剣クリスタリオンの一撃はあっさりと討ち果たす。
「ハァァァッ!」
ランスの槍による連続ラッシュ、然しながら矢張り武器である槍が抑々にして青銅製の物な為、攻撃力は余りにも低いので少し苦労気味。
当然の事だが、武器の更新が成されていないのは双子の妹であるスピアも同様、二人はランスが防具を、スピアが装飾具を更新して防御力の方は何とか成っている状況だ。
もう少し奥に向かえばそれこそ、デスコーピオン級の魔物が跋扈し始めるから存在力は兎も角、武器だけはどうにかした方が良いかも知れないなと考え、[ミリス堂]でブロンズネックレスを売って獲たお金で買った鉄槍、それに鉄甲拳を二人へと渡そうと考えた。
魔物を殺せば斃した者が存在力を獲得をする、ならば斃し易くするべく武器の更新は必須事項。
俺は特別製のバックパックに容れてあった武器を取り出す。
「ケイン、それは?」
「見ての通り、鉄系の武器」
「そんなん、どうしたんだよ?」
「勿論、買ったんだ。[ミリス堂]でなら割りかし簡単に手に入る」
二人にはそれぞれの、鉄槍と鉄甲拳を渡した。
「良いのか?」
「今のケインなら高価い訳じゃ無いだろうけど、銅甲拳に比べちゃうと随分と割高な物だよ?」
青銅の槍が八〇〇テランだけど、鉄槍は三〇〇〇テランと確かに三倍以上の値段設定だ。
単純な威力は聖霊剣クリスタリオンに比べると半分以下だけど、それでも青銅製の武器と比べてしまえば随分と攻撃力が上に成るからな。
ランスとスピアはその場で構えて素振りを始めると、その速度と瞬発力を見せ付けてくれる。
「確かに存在力が一〇だったから中々に強いな。一応は俺も存在力が一一だけど方向性が違うし、何と無く凄く見えてしまうんだよね」
「私は術士だからケインも可成り凄いんだよ?」
「有り難う」
ミスティに言われると結構嬉しいもんだな。
一通りの確認が終わったらしく、漸く再び動き出して聖霊の森の深部へ、遂に足を踏み入れた。
それに伴ってか、魔物の強さも弥増していく。
幸いデスコーピオンは未だ出ていなかったが、狸にしか見えないポンポコなんてギャグみたいな魔物は、こいつが魔法系で意外と苦戦中だ。
「クソッ、見た目がコミカルな癖に幻影魔法? っざけんな!」
疾風怒濤の突きを繰り出してみれば幻でした、そんな具合にまるで小莫迦にするかの如く、お尻ペンペンな態度を取って来るポンポコ。
「こなくそ~っ!」
拳を揮い、蹴りを放ったスピアの攻撃は防御幕を展開し防いでいる。
おかしいな?
俺もランスもスピアも――何ならミスティが魔法まで使って攻撃をしたのに、マグレ当たりすらしないってのはどういう事なんだろうか?
「試してみるか……」
どうするべきか? 天力を薄く伸ばす様に戦闘フィールド全体に天力の視点を向けていくんだ。
「イメージするなら人捜しや迷子を見付ける道開きかな? それならば――“猿田彦”!」
氣導術……否、此方側では天導術になるけど、俺は探索を題材に天導術の名前を決めている。
基本的には術と合致する神の名前を使ってた、実際に倶利伽羅や韋駄天や健御雷神もそれだ。
猿田彦は正しく道開きの神様で、迷子だったりの人捜しなんかにも加護が有ると聴いた覚えがあるんだ。
勿論、決して神の加護を期待しての名付けじゃない、インスピレーションってやつだけどね。
「これは?」
相手の生命力を捜し出す。
「見付けたっ!」
俺が拡げた天力の視点が確かに見付け出した。
「成程、狸らしいトリッキーな奴だ……ハッ!」
「ギャッ!?」
C級スキル【投術】で短剣を投げ付けてやると、樹の上の葉の陰に隠れていたポンポコを刺す。
「こ、これは?」
驚きに目を見開くランス。
樹の上から墜ちてきたポンポコ、心臓に一突きされ既に絶命している。
「レベルアップ……じゃ無く、存在力の上昇か」
ドクンッ! とレベルが一二に上がった証の脈動が起きた。
ゆっくりとだが、確実に成長をしているんだ。
豚面のオーク、ホーンラビット、バットといった魔物が襲って来たが、あんなトリッキーな狸みたいなのは早々に居ないらしい。
すぐにも片付けられた。
「お、俺も存在力が上がった」
「ボクもだよ♪」
どうやら、二人も存在力が一一に上がったみたいだ。
「此方も上がったよ」
「ミスティもか」
ミスティも存在力が一二に成ったみたいで笑顔を浮かべる。
Eランクも出現するが、Dランクの魔物も混じっていたから、レベルアップが出来たみたいだ。
「深部といっても魔物自体は其処まで強くは無いみたいだな」
「ああ、エルフの張った結界で魔素がある程度は散らされるんだ。結果、魔素が凝り固まった魔物は大して強くは成らないって訳だね」
「成程、天零樹と似た様なもんか。というよりは天零樹を参考に結界を構築したって感じかね?」
「ケイン、正解だよ。昔、お母さんから聴いていたんだ」
「エルフの迷宮って、ひょっとしたらエルフの血族なら掛からないって感じに成っていないか?」
「っ! 何で?」
その指摘に驚愕したのか、ミスティは目を見開いて訊ねてきた。
「いや、結界を敷いた当人が迷わない様に術式は構築するもんだろ? 迷いの結界を敷きました、敷いている本人が迷いました……じゃ笑い話にしか成らないしな」
「ハハ、かもね」
本当に迷ったりしたら本当にギャグだろうな。
それから更に進む、ミスティの道案内が無ければ間違いなく迷いの結界に惑わされてしまって、エルフの里に入るなんて出来ないだろう。
俺は気付いた。
「不動明王っ!」
護りをイメージしたけど、何でこれにしたのか自分でもよく解らん。
とはいえ、攻撃用の倶利伽羅とも関わる存在だから護りにと考えた際に思い付いたのも確かだ。
火焔が全身を覆って飛んできた矢を弾き飛ばしてしまい、序でにと謂わんばかりに焼き尽くす。
これは、思っていた以上に剣呑な天導術に成っていた様である。
「クッ! 貴様らいったい何者だ!? 我らが森に何故人間が?」
それは耳が横に長い、簡素な服装にプロテクターを装備した弓矢を手にした男――エルフだ。
「私は母から呼ばれているだけだよ! 邪魔をするなら帰るだけ。それで良いなら帰るけど?」
「人間が訳の解らない事を! 風の精霊よっ!」
「風の精霊よ!」
エルフ男が風の精霊に対して嘆願をするけど、ミスティも同じく風の精霊に嘆願をして対消滅。
「ば、莫迦な!?」
俺は苦い表情になった。
(【魔導妃】を使ったな?)
何しろ、ミスティの生命力が行き成り減った。
だけど文句は言えない、恐らく奴の精霊魔法? を消す為だけにスキルまで使ったんじゃ無いと、俺は気付いてしまったからだ。
「何をしているの? カヅー」
「ミ、ミリエリア様!?」
カヅーと呼ばれたエルフ男が驚愕したのは当然だろう、ミリエリア様と奴が呼んだ相手は美しい金髪をミスティの様なポニーテールに結わい付けており、瞳の色は明らかにミスティと同じ輝きを持ったエルフ――否、ハイエルフの女性だから。
「お母さん……」
「一二年振りね、ミスティ」
即ち、現在のエルフの里に於ける種族長の娘、人間の世界で云えば王女様に当たる人物であり、ミスティの母親でもある存在であった。
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