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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第一章:聖霊剣
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第42話:自決を促す

.

「あ、あの……ちょっと意味が解らないんだけど」


「簡潔に、これ以上は無いくらいに解り易く伝えた心算でしたが?」


 瑠亞はコテンと小首を傾げる。


 勿論、女性も他の男達も意味を理解していない訳では無く、その意図する処がさっぱりなのだ。


「大前提として、貴女はフルポーションを買えませんよね?」


「そりゃ、五億円なんて支払える訳がないもの」


「ハイポーションまではレシピも解析されていますし、宝箱からも割りと出てきますから安値での売買が成されています。然しながらエクスポーションとフルポーションに関しては、レシピも不明でダンジョンからも簡単には出て来ないんです。結果、その効果も相俟ってエクスポーションですら五〇〇万円という随分な値段が付きました」


「そんな……」


 それでもハイポーションは五万円なのだが……


 未解析なレシピ、そして中々出ない希少性に加えて、千切れた身体を繋いだり欠損を修復したりなど効果の高さから需要が余りに大きい。


 仮にレシピが解析されたとして、値崩れとまではいかないかも知れない、そう云われている程。


「私にはフルポーションをプレゼントする剛毅な真似は出来ません、抑々が持っていませんしね。なので代わりに出来る提案がコレです」


「あ、そっか!」


 璃亜が意図に気付いたらしい。


「死ねばダンジョンの出入口にペッされるけど、装備品やお金や手にした存在力まで全て喪う代わりに、肉体だけはダンジョンな入った時の侭で居られる。欠損もまるで無かったかの様になる!」


 ダンジョン内で死ぬ事にてメリットを見出だせるとすればコレ、仮に落命をしても入ダンした時に謂わば肉体情報だけはセーブされていて、セーブポイントへと死に戻りをさせられるのだから。


 璃亜の説明に驚いているのは三人だけで無く、槍太ですら思いもよらなかったらしく驚いた。


「そっか、死んでも大丈夫みたいな事を云われて冒険者が安く視られる事も有るけど、そういう死に戻りが有ったからか。それでも死にたいなんて誰も思わないんだけどな」


 女性の冒険者はビクリと肩を震わせてしまう。


 そう、死に戻りが出来るからといって死にたい人間が居る訳も無い、女性冒険者は死ねと言われて身構えるのも仕方が無い事だった。


「それでも貴女に出せる次善の策に違いはありませんよ?」


「けど……」


「言っておきますが、ダンジョンを出てしまったら記録は喪われます。そうなれば最早、その左腕を治す術は無くなります。貴女がどうするかを私に決める権利も有りませんし、どうぞ御好きに選んで下さいませ」


「うっ! あ、アンタは死んだ事が無いから簡単に言えるんだ!」


「あ!」


「ヤバッ!」


 女性冒険者の科白に、槍太と璃亜は物の見事に彼女が、『地雷を踏み抜いた』とあわあわする。


「死んだ事? 有りますけど……それが何か?」


「……え?」


 ゾワッと、まるで背筋へと直に氷水を流し込まれた様な悪寒を感じ、女性冒険者も己れが正しく地雷源でタップダンスを踊ったと気付く。


 ○○○? 今更気付いても、もう遅いという様なラノベにでも存在しそうなタイトルが浮かぶ、人はそれを現実逃避と呼ぶのだけれど。


 ヤンデレも斯くやな瞳を向けられて思わずチビりたくなった。


「痛いですよ? 貴女も一部とはいえ味わったから解りますよねぇ? 私は全身を咬み砕かれたんですよ。ペッされた後、素っ裸だというのを気にする(いと)まさえ無く、無様を晒しながらのた打ち回りましたとも」


「ヒッ!」


 瞳孔が開いていて、美女だからこそ不気味さを弥増して怖い。


 その後、どうなったかまでこんこんと説明をされてしまっては、女性冒険者はすっかりと参っている。


 憔悴し切った彼女の前に小さな瓶、プチポーションの小瓶よりも小さめで真っ黒なそれが置かれて頭に『?』を出して、彼女の視線は瑠亞と小瓶を行ったり来たりと忙しなく動き回っていた。


「これは私が一度死んで以降、用意して貰っている自決用の毒薬です」


「うひっ!?」


 ズザザザザッ! ドン引きしながら全員が――槍太と璃亜を含む――後ろへ後ずさってしまう。


「流石に眠る様に安らかな死を御約束は出来ませんけど、それでも殆んど苦しむ事も無く飲み干した瞬間に息の根が止まる逸品ですよ」


 にっこりと、美女の微笑みと共に渡されてしまった女性冒険者は、涙ぐみながら仲間の男共を視たけどブンブンブンと首を横に振るのみ。


 視線を槍太と璃亜に移すと……


「ピューピュー♪」


「……」


 下手クソな口笛を吹いたりそっぽを向いたり、関わりたくないと謂わんばかりの態度であった。


 理由はまぁ解るが、毒薬を携行している事実だったり、それを目の前に置かれた事だったり。


(ど、どうしろと?)


 ズキズキと未だに痛む左腕。


 ダンジョンを出れば義手でも着けるしか無い、そうなれば自分は確実に冒険者の廃業を余儀無くされる。


 他方で、毒薬を煽って死ぬのも勇気が必要だ。


「あ、因みに毒薬を飲む前には荷物を、下着なんかも合わせてお仲間に渡しておけば、喪わずに済みますからお勧めをしておきますよ?」


 女性冒険者は、はっきり『ド喧しい!』と叫びたくなったと云う。


「アタシは酒隙胡鈴、アンタの毒薬で死ぬ女よ。覚えておきなさい!」


 一気に小瓶の中身を煽る女性冒険者改め胡鈴。


「うっ!?」


 そして一瞬、呻いて目を見開くと倒れ伏した。


「胡鈴!」


「マジかよ!」


 男共が口々に呟く中、酒隙胡鈴の遺体が魔素化と同じ要領で消失。


 それに対して驚愕をしてしまったのである。


「こ、胡鈴は?」


「出入口に死に戻りました」


「そ、そうなんだ……」


「早く出入口に戻った方が良いですよ。素っ裸に成ってますから」


「「あっ!?」」


 男共は大慌てで帰って行った。


「さて……と」


 銀色の毛皮とシルヴェンウルフの魔核を拾う、瑠亞がこの二つを見詰めて思った事は一つだ。


(卦韻君に頼めば魔装具を造れます……かね?)


 美衣奈から卦韻がURスキルを――唯一技能を発現しており、それによりデスコーピオンの甲殻鎧やシルバーネックレスを造ったのだと云う。


 自分も出来たら防具とかが欲しいとも思うし、魔核を使えば魔飾具なんかも出来たら欲しい。


 とはいえ、強敵だったとはいえ所詮はBランクの魔物のドロップアイテムや魔核に過ぎないし、それに未だに卦韻はレベルが低いのだから、高位の魔装具は造れないかもだ。


 デスコーピオンもイレギュラーとは云っても、結局はDランクに位置する程度の魔物なのだし。


「それにしても、Cランクのダンジョンにはでなかったイレギュラーが、初心者ダンジョンである此処には出ましたね。しかも選りにも選ってBランクのシルヴェンウルフだなんて。これは本気で初心者ダンジョンを調査するべきかもですね」


 これまでも調査の重要性は唱えられていたが、初心者ダンジョンの事だったのに加えて、顕れていた魔物もDランク冒険者が居れば何とか成りそうなモノばかりだった為、余り本気で捉えられてはいなかった。


 死なないというのも、拍車を掛けていそうだ。


「さて、また報告をしないといけませんから出ましょうか」


「ああ、それも有るのか」


「だよね~」


 三人は一五階層の転移門に向かうのであった。


 冒険者ギルドのカウンターに立つ美女の許へと進む瑠亞、それに気付いた受付嬢は顔を上げると信頼と信用を籠めた瞳で見遣って来る。


「瑠亞さん!」


空羽(そらは)さん」


 カウンターに詰めている美女は、中里空羽(なかざとそらは)という受付嬢だ。


 ちょっと年齢が離れているけど仲の良い友人、彼女自身は冒険者でも何でも無いけど歳が下である瑠亞を心配しており、戻って来る度に喜びに満ちた笑みを浮かべている。


「報告が有ります」


「聴きましょう」


 瞬時に二人は友人から冒険者と受付嬢に戻って話を始めた、今回起きた事件というか事故の顛末を詳細に、だけど出来得る限り解り易く。


「シ、シルヴェンウルフ……? 初心者ダンジョンにBランクの魔物が顕れたというのですか?」


 その内容はちょっと許容が出来ないモノではあったが、瑠亞からの報告は証拠となるシルヴェンウルフの毛皮と魔核からも確かなもの。


 それに、Eランクの冒険者がペッされる事態も実際に起きている。


「判りました、上には報告を上げておきますね。御苦労様でした」


 本格的な調査が必要ともなると、Aランクである瑠亞の協力は必要不可欠な訳だから、確り対応をするのはある意味で当然の事だった。


 とはいえ素材がどうの、イレギュラーがどうので頭を悩ませるのは受付嬢の業務では無いから、ギルドマスター辺りに悩んで貰う心算だ。


 冒険者ギルド受付嬢の空羽は、久し振りに友人――瑠亞と夕飯を一緒しようと考えるのだった。



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