第38話:卒業
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無能ムーヴ君は家に帰されてしまったので最早来る事は無いとか、元より惑星テラルの学校制度は可成り曖昧だったらしく、独り立ちをするなら卒業をしても構わないというものだったらしい。
今回の場合は、独り立ち云々では無く社会人として不適格だから連れ戻して再教育というもの。
「俺達はどうするよ?」
「どういう意味だ? ランス」
「俺らが学校に通ってたのはケインが上手く剣を扱えなかったからだ。逆に言やぁ、剣を十全に扱える様に成ったなら学校に通う意味なんざねー。勿論、学校に通ってる間は生活費が支給される。だが言ってみりゃ、それだけの恩恵でしかない」
「確かにそうだよね~」
ランスの高説にスピアが頷く。
「ミスティはどう考えてるんだ? なんかずっと黙ってるけど」
「私? 基本的にはランスに賛成。もう学校に通う理由も無いからね。ただ、別に問題が有るよ」
「問題?」
恐らくは、少し前からミスティを曇らせている紺本的な原因か。
「私達……正確には私が【魔導妃】を使ってしまった事で、どうやらお母さんに私の存在が見付かってしまったらしくて。勿論、それ自体は目出度い事なんだよ? だけどお母さんは一緒に暮らしたいと言って来てるんだ。正直、それは困るよ」
ミスティのお母さんは元々が結婚を反対される立場ながら、それを駆け落ちも同然でエレメート村に押し掛けて来たのが真相だと云う。
一二年前、あの大氾濫とやらでミスティのお父さんが亡くなったのを切っ掛けに、お母さんは無理矢理に連れ戻されてしまったらしい。
問題なのはミスティのお母さんとは何者か? という事に尽きる。
単純に身分が高いとも考えたが、それなら貴族か下手したら王族なんて事も有り得たのだろうけどれ、ミスティの【魔導妃】を感じ取ったみたいな事を言うからには、それは無いだろうな。
【魔力感知】はCランクのコモンスキルだし、持っている人間は幾らでも居ると云える訳だ。
でも、エレメート村は自体は主要な場所に在るとはいえ、果たして王族や貴族が態々その意識を割いてまで捜しているものなのか?
待てよ? ミスティが【魔導妃】を使ったのが聖霊の森の只中、それでバレたという事は彼女のお母さんは森に住んでいるんじゃ?
森に住む排他的な存在……となると考えられる種族が居るな。
「ひょっとして、ミスティのお母さんはエルフ族なのか?」
「よく判ったね……」
驚愕をしているミスティ。
「矢っ張り……か」
考えていた通りだった。
「詰まり、ミスティはハーフエルフって事か」
「一応……ね」
耳が人間と変わらないから気付けなかったし、まさかエルフの血筋だったとは思わなかったな。
エルフ族は聖霊の森の奥深くに暮らすらしい、しかも他の大陸の森と違って上位妖精種も存在しており、ミスティのお母さんも或いは?
「私のお母さんは種族長なんだよ、人間の世界で云うと王族だね」
「って事は、上位妖精種……か」
「正解だよ。私の場合は容姿と魔力資質はお母さんに似たけど、全体的には人間のお父さん寄りだったからね。耳だって普通に人間だよ」
ほらほらと、自身の耳を強調して見せに来る。
「森に行く気は無いんだな?」
「無いよ。私はケインと共に旅立つ心算だから」
「た、旅立つ?」
「そうだよ。抑々、ケインの聖霊剣は七分割された内の一振りに過ぎない。だからクリスタリオンを本来の姿に戻さないと……ね?」
「本来の姿に? それって、必要な事のか?」
「勿論」
「剣の場所は?」
「東方大陸から南方大陸に西方大陸、そして中央大陸に全部で聖霊剣クリスタリオンを含めると、七振りって事になるんだ。最初は東方大陸の一つであるイグナートに在る獄焔剣レヴィアート」
「獄焔剣レヴィアート」
七振りにされたというのを最初に教えてくれていたのは誰だった? ミスティ? それとも実は美衣奈だったっけか? もう覚えてないな。
「それとも、ケインはハーフエルフを連れ歩きたく無い?」
「はぁ? さっぱり意味が解らん。ハーフエルフを連れ歩くのに忌避感なんて有るもんなのか?」
「産んでくれたお母さんは、元からハーフエルフを産むと理解していたから愛して貰えていたよ。けれど、エルフ族ってのは割りと排他的な種族だからどうしてもねぇ」
「ああ、純血主義か」
血統主義とも云うだろうか?
「そう」
ミスティの瞳が揺れている、不安が胸を押し潰しそうに成ってるのが視るからに解ってしまう。
「俺がエルフだ人間だハーフだって小さな事に拘るもんか」
「……そっか」
ニコリと微笑むその顔は矢っ張りと云おうか、同じ顔である彼方側の美衣奈に通じているからであろう、俺の心臓の鼓動が跳ね上がった。
「それで? まさか、明日から行き成り隣の大陸であるイグナートに行こうって話にはならないんだよな? どんな前準備が必要だ?」
大人しく聴いていたランスだが然し物、自分も関わる事になってくると口を挟まずには居られなかったか、ミスティにそう訊ねてくる。
「先ずはお母さんに会いに行くよ。それで一緒には住めないってちゃんと話す。ハーフとはいっても種族長の孫娘には違いないから正直な話、どうなるかちょっと判んないけど」
「でも会いたいんだろ?」
「そりゃ、一二年も種族の隔たりの所為で会えなかったヒトだから」
父親は亡くなったのだから仕方無いにしても、母親が恋しい時期に引き離された子供が親を求めるのも無理は無いが、いつもは確りしているってイメージが根強いからかちょっと意外だったな。
思えば、美衣奈からもミスティからも俺は色々と貰ってばかりな気もするし、ちょっとくらいの我侭なら構わないから言って欲しいね。
「本当はもう少しダンジョン探索をして存在力の向上を図りたかったけど、それならイグナートに行って強い魔物を討つのも手だからね」
「何の話だ? お母さんに会うとかの話から行き成り飛んだぞ」
「え、ああ。聖霊の森には明日にでも行くから。奥深くまで行かなきゃだから、どうしたって強い魔物が出るよ。イグナートに行くまでの良い修業に成りそうだよね♪」
「「「……」」」
スパルタ式か?
俺ばかりか、ランスとスピアもドン引きした。
(まさかとは思うが、美衣奈も同じだったりしないよな?)
ちょっと怖いかも知れない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕方になる前に学校へ独り立ちする旨を伝え、卒業証書を貰って四人が揃って卒業をした。
「呆気なく終わったな」
「そりゃ、学長から独り立ちの注意事項を聴いて証書を貰うだけだもん。長々と儀式でもする訳じゃ無いんだから、普通はこんなもんだよ」
地球の学校がおかしいのか? それとも普通はこんな簡素なものが卒業というものなのかね?
小学校、中学校と卒業はしてきたんだけどな。
勿論だが保育園も卒園した、幼稚園? 両親が共働きだったから俺は幼稚園に行っててないな。
「今日くらいはパーッと行こっか、御馳走を作ってね」
「わぁ、良いね! お兄、折角だから食材を買いに行こうよ!」
「判った判った」
愉しいな、きっと彼方側でも美衣奈や槍太や璃亜と同じ様に愉しい想い出を作れるだろうけど、此方側では此方側でこうして愉しめている。
「ケイン、ほら! ランスもスピアも待ってるんだよ。行こ!」
そう言いながらミスティが俺に手を差し出す。
白魚の様な指、そんな差し出された左手の薬指には俺が渡した青銅製の指輪が、太陽の西日を浴びて小さくて鈍い輝きを放っている。
「そうだな、行くか!」
彼方側でも此方側でも、魔銀製の指輪を渡して護りも完璧に備えたい、何より美衣奈の指へと指輪を通せるのは俺だけで在りたいからな。
俺は自分の手よりも小さなミスティの差し出された手を取り、ランスとスピアが待っているその先へと向けて彼女と共に走り出すのだった。
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