第36話:村に歴史あり
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「いい加減、この二重生活も慣れてきたかもな」
朝、ケイン・ユラナスとして目を覚ました俺、未だにちょっとばかり疲労が残るが起き上がる。
鞘に納剣されたミスリルの剣を再び抜剣してみると、僅かに水色が掛かった銀色という美しい剣の刃が外部の空気に晒されて輝きを放つ。
「あんなボロボロだった刃とは思えないくらい、スッゴく美しい刃だよな。こんなにするとかさ、あの無能ムーヴ君は莫迦なんじゃないか?」
こんな美しい刃を持つ剣を、錆びてこそいなかったけど刃毀れが余りにも酷かったのだから。
正確にはミスリルが酸化しない金属なだけか。
ベッドから降りてコキコキと腰や首筋をならしながら、ちょっとしたラジオ体操モドキをする。
そうしたらク~ッと腹が鳴った。
「うん、腹が減ったな」
かといって、俺は電子ジャーで御飯を炊いたり目玉焼きを焼いたりするくらいなら出来るけど、パンを焼いたりなんてやった事も無いよな。
「おはよー、ケイン! 朝御飯だよ。一緒に食べよっか!」
「おはよう、ミスティ。めっちゃ腹が減っているから助かるよ」
「フフ、召し上がれ」
「ああ、戴きます」
いつもと変わらない硬いパンと塩味のスープ、だけど一応という程度ではあるが出汁が利いていて不味くは無いな、寧ろ作ってくれているのだから味に文句を付けるだなんて、矢っ張り贅沢でとんでもない話だ。
不味く無い処か、実は俺の舌には充分に合ってるんだよね。
少なくとも、この世界の味という意味ではな。
「ふぅ、御馳走様~」
「御粗末様」
食べた後の皿はミスティが回収をして行った。
食べ終わった後の俺は腹ごなしに少し動いて、それからミスリルの剣を腰に佩き、クリスタリオンは背中へと背負ってから学校へ向かう。
「よお、ケイン」
「おはよ、ケイン」
「おはよう、ランスにスピア」
登校とは呼ばれないけど、云ってみれば登校をしている俺達の前に現れたのはランスとスピア、二人は俺が上げた甲殻鎧だったりネックレスだったりを装備してくれていた。
ちょっと嬉しいな。
折角だから魔銀を使った武器とか防具を贈ってみようか?
ランスは槍、スピアは拳で闘うってのは彼方側での槍太と璃亜と何も違いが無い、実際に訓練をしていた際に使っていたのを見てたから。
(魔銀と魔核を使えば魔装具を造れるだろうし、デスコーピオンとの戦闘でもキツそうだったし)
ランスもスピアも友人だ、怪我は冒険者をするなら免れないが、決して死なせたくは無かった。
「ガンパーから奪取したミスリルの剣はどうなったんだ?」
「これだよ」
腰へと佩いたミスリルの剣をパンパンと叩く。
「そういや、確かに拵えがミスリルの剣だよな」
抜剣をしたら、ランスが驚愕に目を見開いた。
「マジかよ? そのミスリルの剣、めっちゃ綺麗になってんじゃん!」
「俺のスキルでちょちょいのちょいっと……な」
「はぁ? 造る関係のスキルを獲てるっていうのはミスティから聴いてたけど、ちょいと万能過ぎだろ」
「言っとくけど、そのスキルでランスの鎧も造ったんだぞ?」
「そうだろうけどよ~」
感謝はしてくれているみたいで結構結構っと、自画自賛したくなるけど扨於いてスピアの首から胸元を視れば、ネックレスが架かってた。
ミスティも指輪をしてくれているから少しだけど防御は上がる。
留めどもない会話を愉しみながら学校に着いてみれば、今日は無能ムーヴ君がちゃんと来ているみたいで、取り巻き達も一緒に居た。
此方に気付いたらしい。
「おい、無能野郎!」
安定の無能ムーヴ、だったらその無能に敗けたお前は超無能かよ? と言いたいくらいだった。
取り敢えず最早、無能な心算も無いから無視。
「無視してんじゃねーよ! おい、無能野郎!」
シカト、シカト♪
「おい、テンメェ~ッ!」
剣がちゃ~んと使えるんだした、既に無能じゃないんだから当然ながら無視をして構うまいよ。
「ざけんなっ! テメェの事だっつってんだろうがよっ!」
遂に無能ムーヴ君は俺の胸ぐらを掴んできた、全く以てコイツは鬱陶しいったらありゃしない。
辟易をしながら、俺が無能ムーヴ君をジト目で睨んでしまったとしてもきっと罰は当たるまい。
流石に実力行使で来たら仕方が無いのだろう。
「いったい何だよ?」
「俺の剣、返しやがれ!」
呆れて物も言えないな、勝手に賭けを持ち掛けて来ておきながら、己れが敗けたから支払うべき物を支払わせただけじゃないか。
「莫迦莫迦しい、話にも成らないってやつだよ」
「んだと、テメェッッ!」
「あの剣は賭けの結果、俺が獲得した物だろう。返すという話自体が意味を成さないんだよ!」
「あれは俺の剣だっ!」
「話にもならんな」
先生が見ている前でやらかした癖に莫迦か?
「あ、おい! クソ無能が!」
「煩いな、無能ムーヴ君」
「あ? んだとっ!」
自分だって碌すっぽ名前では呼ばない癖して、自分が名前以外で呼ばれるのは気に食わないという事か、本当に莫迦莫迦しい話でしかない。
「お前はその無能に敗けたんだぞ、だったらそんなお前は何なんだ? 詰まりは、超無能君じゃないか」
「チィッ!」
悔しげに舌打ちする辺り、敗けた事自体は理解をしているみたいだ。
「俺の家は貴族だぞ!」
「嘘を吐くな。それに貴族が平民の孤児に敗けたとか、それこそ大恥以外の何者でも無いだろう」
「うぐぅっ!」
まったく、何を言い出すかと思えばこれとは。
「いや、あながち嘘って訳でも無いんだ、それ」
「は?」
「ケインがガンパーから取り上げたミスリルの剣の鍔、それには菱形の両横に蛇の紋様がレリーフされているだろ? 嘗て、中央大陸に栄華を極めたマーレイア王国の王家の紋章で、国王が直臣に贈った名誉有る貴族の証しなのは間違いない」
「マジに?」
「ああ」
意外なルーツではあるけど、だからどうした?
「歴史ではマーレイア王国は数百年前に亡びた、詰まり貴族だ何だとほざいても、数百年前に没落をして、この大陸に落ち延びたってだけで別に現在は貴族でも何でも無い、単なる平民に過ぎないだろうが!」
「うるせーっ! 心底、平民のテメェらとは格がちげーんだよ!」
本当にこの手の輩は話が出来ないんだろうな、剣を返してやる心算なんて更々無いんだけど。
「やれやれ、没落貴族な事を自慢気に言われても意味が無いんだよ。だいたいが、それを言ってしまったら俺の家系も同じなんだがな?」
「なっ!?」
驚愕している無能ムーヴ君。
って、俺も知らなかったから驚いたんだけど。
「一二年前の魔物の大氾濫で聖霊の森から大量の魔物が押し寄せた。その際に親父も御袋も闘って果てた訳だが、そん時に親父が使っていたミスリルの槍にも同じ紋章がレリーフされているのさ。今は刃は砕けて、柄も半ばで折れてるんだがな」
どうやら、昔の王様は手柄を上げた臣下に忠臣の証として真銀製の武器や防具に、国の紋章を刻んだモノの下賜をしていたらしい。
割かしどうでも良いと思っていた此方側の歴史も少しは頭にも入っているが、確かに数百年には中央大陸で魔物の大氾濫と呼ぶのも烏滸がましいスタンピードが起きて、王家は滅亡の憂き目に遭ってしまい、残された臣下達も伝手を辿って別の大陸にまで落ち延びて、何とかかんとかでも家を存続させてきたとか。
「それというのもだ、滅亡した王家の皇太后様。メイフィリア・V・マーレイア様の実家が此方の大陸に有ったから。俺達が、勿論だけどガンパーもそうだが、この村に暮らせているのもその伝手が有ったればこそだってのに、お前が孤児じゃねーのはお前の親父が臆病風に吹かれて、一二年前には逃げやがったからなだけだろうがよ!」
一二年前の魔物超大氾濫、俺の両親もランスとスピアの両親も、それにミスティの父親も国を、村を護る為に立ち向かって帰らなかった。
俺達みたいな孤児が曲がり形にも掘っ建て小屋とはいえ、こうして家を与えられて食に困らずに生きていられるのも、そんな両親の功績が有ったからこそなのは確かに聴いてる。
国からも多少なり補助金が出ていると聴くし、それでも孤児が居るのはこの村だけじゃ無いからギリギリな生活、そんなのを強いられた。
無能ムーヴ君も貴族を名乗る心算ならせめて、『高貴なる者の務め』くらいは理解しろよな。
聴いていた俺は、そんな風に思わずには居られなかった。
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