第33話:魔銀の特許出願
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「さて、今日はもうダンジョン探索なんて出来ないよね?」
「精神力が枯渇寸前だしな」
今の卦韻はゲームのRPGで云えばMP:8とかで、0でこそ無いものの殆んど0にも等しい状態だ。
ゲームであればそれこそ、0に成ったとしても魔法が使えなくなるだけで困らないが、現実ではそうもいかず倦怠感に襲われてしまう。
これが可成りキツくて、卦韻が気絶はしなかったけど倒れたのはこの倦怠感の所為、当然の話だが今は氣力を使った氣導術は使えない。
「それなら顧問弁護士に会いに行ってみよっか」
「顧問弁護士に? それって、仕事の邪魔にはならないか?」
「何で愛坂家の顧問弁護士なのに、愛坂家の娘が仕事の依頼をしに行って邪魔に成るのかな?」
「……そういうもんか?」
「そういうものだよ」
職権乱用とか大丈夫か? なんて思いつつも、卦韻としては特許出願の知識が無いから専門家の話は有り難く、美衣奈が言うならと考える。
「まぁ、流石に今すぐ出掛けても駄目なんだよ。電話してアポイントメントを取るから待ってて」
「あ、ああ」
確かに『親しき仲にも礼儀有り』であろうし、アポイントメントを取るのは社会的常識だった。
美衣奈はポシェットからスマホを取り出すと、慣れ親しんだ様子で画面のプッシュをしている。
稍有って電話に出たらしい。
「もしもし、静那姐」
愛坂家の顧問弁護士――夜口静那(32)は愛坂家から分派した分家筋、それ故に美衣奈とも普通に面識が有った。
どうやら話が付いたみたいだ。
「午前一一時にアポが取れたから、事務所に行こっか」
「どれくらい掛かるんだ?」
「割りと近場だからそうだね、三〇分も有れば着くと思うよ」
「そっか」
静那は“夜口法律事務所”の運営をしている所長だから、忙しくなければという但し書きが付くけど存外と融通を利かせて貰えるらしい。
「あ、当たり前だけど向こうも商売だからお金が掛かるよ」
「そりゃ、そうだ」
顧問弁護士とはいえ、個人的に依頼をするからには個人で支払わねばならないという事になる。
卦韻も確りとお金を持ってる為、弁護士へと支払うお金を出すくらいは可能であったと云う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[夜口法律事務所]と看板が立てられた建物が、扉を開いて建物の中に入ると女性が座っていた。
仕事着の女性用スーツをバッチリ決めており、美しく長い黒髪を背中までストレートに伸ばしていて、前髪は謂わば姫カットというやつか?
見た目は、眼鏡が似合った相当な美女である。
「久し振り、静那姐」
「直接会うのは確かに久し振りだ、美衣奈ちゃん……と卦韻君」
「え、初めましてって感じじゃなかったっけ?」
卦韻はジッと夜口静那女史を見詰めてみるが、彼女には全く見覚えが無かったから首を傾げた。
「ふむ、よもや卦韻君は私の事を忘れてしまったのかね?」
「……へ?」
「裸で睦み合った仲だと云うのに」
「ハァ?」
「静那姐っ!?」
ポッと頬を朱に染める静那、驚愕をする卦韻、そして眉根を寄せて怒鳴ってくる美衣奈、どうやら揶揄っているのは明らかだったが……
「裸でって、何なんですか?」
「おやおや。まぁ、それも君が赤ん坊の頃の話だからねぇ」
「そういう意味かよ!?」
赤ん坊の頃、年齢的に中学生くらいだろうか?
確かにそれなら、場合によっては赤ん坊の頃には風呂に入れて貰ったかもだし、詰まりは大事な卦韻の卦韻が諸見えだったのは違いない。
「余り揶揄うのは良くないと思うんだけどな?」
「フフフ、何なら私と本格的に付き合うかい? 君が冒険者に成ったなら確実に成功するからね」
「……」
何故だか科を作ってピタリとくっ付いて来る、そうなると美衣奈がどういう訳だか般若化した。
「し・ず・な・姐ぇ?」
「おやおや~、随分と怖い顔をしているねぇ」
「いい加減にしないと、私は怒り狂うからね?」
「うわ、怖っ!」
何と云うのか、卦韻からすると可成り近い関係性に思えたのだ。
「不思議そうだね?」
「それは、まぁ……」
「美衣奈ちゃんが五歳の頃、色々と遣っていたからね。私も当時は弁護士を目指していたから、親父の下でアルバイト染みた事をしていたもんさ。そうなると……ね」
「? ひょっとして、その頃から美衣奈とは?」
「そういう事さね」
ヒョイッとやれやれなポーズで言う静那女史。
(さばさばした姐御口調、見た目とのギャップが凄いよな)
どうやら口さえ開かねば……というタイプだったらしい。
「さて、ジョークは扨置きだ。話によると特許を出願したいんだとか? 勿論、サポートをさせて貰うともさ。弁護士バッジに懸けてね」
「そうなんだ。母さんにも勧められたんだよな」
「理央さんにかい? それで、君が特許出願したいってのはいったいどんな発明なんだい?」
「発明ってか、ちょっとしたスキルで造ってた物が有るんだ。魔法やスキル関連も特許出願が出来るらしいから。んで、これが造った物」
「銀……だね」
ハンカチに包まれた銀の塊、これは倒れる原因と成った物だ。
「真銀でも無い、でも普通の銀でも無さそうだ」
「URスキル【錬成王】で造った、名前は魔銀だな」
「銀その物を魔銀とやらに?」
「そう。未だ遣っていないけど、恐らく他の金属でも同じ事が出来る。魔鉄、魔鋼、魔銅、魔金みたいな感じに造れる筈。今は可成り消耗するけど」
「成程、名前からして魔力を籠めた金属かい?」
「正解」
魔力をただ籠めただけではすぐに抜けてしまうだけで、間違いなく魔鉱石の類いたる魔導金属化をする事など有り得はしないだろう。
真銀は正しく、粒子レベルで魔素が融合癒着をしているからこそ。
「成程な、この大ダンジョン時代に於いて魔導金属は需要が弥増している。にも拘らず、地球には自然出土しないときた。それを造るスキルとは、畏れ入る話だよ。確かにこれは特許出願が必要だろうね」
「それじゃ、お願いします」
「先ずは先行技術調査なんだけれど、抑々にして魔導技術や何やらに先行された技術なんて無いにも等しいさね。それに魔導系の技術は各国が挙って探求をしているからねぇ、多分だけどこの行程は国の御都合でスキップされるんじゃない?」
「それはまぁ、此方としては好都合なんだけど」
「魔導技術だって言えば特許庁も無碍にはしないだろうさ。勿論、偽りを言えば罪に問われるよ」
法律をねじ曲げて無いか? と思いたくなる、然し弁護士である彼女がしている訳でも無い。
「次に出願書類作成と提出。明細書や特許請求の範囲なんかを特許庁に提出するんだ。これに関してはオンラインでも出来るんだよ」
「便利は便利ですよね」
ガラケーも半ば駆逐され、スマートフォン全盛である其処ら辺は今時という事なのであろう。
「ウチと提携してる特許商標事務所に任せるのも手だろうね。一応、ウチらの身内が遣ってるよ」
「それもまた便利な……」
人数もそれだけ居れば、法務関連の仕事に就く身内だけで千単位で居るらしいから当然だった。
「それから、審査請求をすれば出願から三年くらい掛かるけどね。魔導技術は速度が第一にされてるから、半年くらいで実体審査に行けるさ」
それから特許査定して登録という流れになる。
「わ、判りました。取り敢えず静那さんに大まかな所は任せますね」
「オッケー!」
右手の親指と人指し指で丸印を作りながら、卦韻に対してウインクをする静那が請け負う事に。
「んじゃ、卦韻君が遣らなきゃならない部分以外は私らで遣るよ」
「御願いします」
これによって本当に半年後には、魔銀が含まれる魔導鉱石に関する全ての特許が登録されるのだった。
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