第32話:命名シルヴァライト
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魔銀は魔力を最短時間で馴染ませて急造された代物であり、魔力の通りはミスリル程では無い。
それでも通常金属よりは魔力もよく通るので、魔導金属と呼んでも差し支えが無いのであろう。
現状で卦韻にしか造り出せない、金剛石の如く硬度を持つ事、或いは加工が難しい事など、良い事も有れば悪い事だって有った。
これを魔銀と名付けている。
「ふぅ……」
そろそろ息が落ち着いてきた。
「では、この魔銀は卦韻の言い値で買い取るわ」
「本気? 母さん」
「勿論よ。これは卦韻、貴方の唯一技能で造ったのよね?」
「まぁね」
「それって、コンスタントに造れるのかしら?」
「魔力が尽きるけどね」
先程の様子を視れば、卦韻の言ってる事も確かに解る話だった。
「魔銀の研究をしたいならさっき言っていた通りの価格で売るよ」
「判ったわ」
コンスタントに造る……正しく、リリア女史と同じ事を言われたのでちょっと笑えてしまう。
彼方側でも、魔銀の事では無くてブロンズネックレスの事だったが、コンスタントに造れないかと問われたのは即ち評価されているから。
唯一技能が有りきではあるけど、こうして評価されるのは嬉しい。
「それと、自分用の魔銀も必要だから銀を少し分けて貰いたいね」
「あら、何か造りたいの?」
「最近、初心者用のダンジョンでイレギュラーが頻繁している。俺が今、使っている武器は特殊だから闘えるけど、場合によっては別に武器を用意しなきゃならない。それに防具もなんだけどね」
折角の強力な素材、それならば武器や防具として活用したいと考えるのは、冒険者なら当前だ。
魔銀はその力に足り得る。
「ふむ、魔銀か。一応はお前の名前で特許庁に登録しておくべきなんだろうな」
「特許庁って、俺のスキル頼りだから発明と呼ぶにはちょっと……」
「この近年、特許庁の特許の申請に関して色々と変わっていてな。こういったスキル頼りの事でも申請が可能になった。だから魔銀の特許は充分に申請が出来る筈だ。其処ら辺は美衣奈が詳しい」
「何故に!?」
「美衣奈も新魔法に関して特許を取得している」
そういえば……と思案する。
「昔は、一〇年以上前は詠唱をして全く別の言語で魔法が使われていたけど、今は美衣奈が使っているタイプの魔法が主流に成ったとか」
「そうよ、私も今は美衣奈ちゃん式の魔法を使っているもの」
確かにコンピュータ関連ならば、プログラミングで作られたソフトウェアとて、特許を申請しているのだから魔法もその一種と云えるのか?
卦韻は首を傾げてしまう。
武器や防具を造るのに必要な量の銀を手に入れた卦韻は、仕事に向かった両親を見送って再びのスキル展開を行うと魔銀の精製を始めた。
「あ、こりゃ……あかん……やつだ……な」
さっき、そうとうにMPを座れていたから目眩がしている。
気絶こそしなかったけれど卦韻はぶっ倒れて、目を回してしまって暫く動くに動けなかった。
「し、仕方が……無い」
スマホを何とか取り出し番号を押してやると、トゥルルルル――と暫くのコール音が鳴り響いて相手が出たのか、スマホの向こうから声が。
〔もしもし、朝っぱらからいったいどうしたの? ケイン〕
「済まない、恥ずかしながら不測の事態なんだ。いや、ちゃんと考えればこうなる事は解り切っていたから、不測の事態も違うんだけどな」
〔詰まり、何かしらやらかしてしまったんだね。仕様が無いな、それならすぐにそっちに行くよ〕
「有り難う、助かる」
スマホを切ると数分もしたなら、美衣奈が勝手知ったる何とやらと云わんばかりに入ってきた。
ソファで沈んでいた卦韻を見付けた美衣奈は、溜息を吐きながらもテキパキと動いてくれる。
意外と力持ちなのか、卦韻の身体を持ち上げて部屋まで運ぶとその侭、ベッドへと放り込んでくれて掛布団を卦韻の身体に掛けた。
そのすぐ後に階下へ降りる。
暫くすると鼻腔を擽る良い匂いが漂ってきた。
「朝御飯は食べちゃったんだろうけど、精神力が大分減っちゃってたからね。ちゃちゃっと食べちゃってよ、その間に選択をするから」
「あ、ああ」
MP――マインドパワー、詰まりが精神力の事。
魔法を扱うと、燃料として魔力が減る訳だが、それと同時に精神力の方も消耗してしまう。
既に魔銀を一度は精製していて、又候更に精製しようとしたから魔力もMPも枯渇寸前だった。
魔力量も精神力もそれなりだが、レベル自体が未だ一〇程度と高い訳で無いから其処まで大量といかず、二度目となる魔銀の精製をするには足りないという事だったらしい。
洗濯も終わった美衣奈に、事情を説明したら呆れられてしまう。
「ホント、仕様が無い人だね」
「面目無い」
「確かに魔力は使ってないから有り余ってるよ、だけど魔力を動かせば精神力も同時に減るんだ。しかも、一度は可成り減らした上でだよ?」
「ぐぅっ!」
文字通り、ぐうの音しか出ない。
「兎に角、今日はダンジョン探索は行かないよ。ゆっくり休んで」
「有り難う……」
「どういたしまして」
そういえば両親が魔法やスキル絡みの特許に付いて、美衣奈が詳しいと話していたと思い出す。
「ウチの両親から聴いたけど、美衣奈って魔法やスキル絡みの特許に詳しいんだって?」
「詳しいって程じゃ無いけど」
「母さんがさ、俺が造った魔銀に関して特許庁に申請した方が良いって言っていたんだよ」
「魔銀……ね。お祖父ちゃんに言えば顧問弁護士を付けてくれるよ。当然ながら諸々の手続きが必須なんだけど、きっと教えてくれるから」
魔銀の事に詳しいみたいな反応をされていて、卦韻はちょっと首を傾げたけど手続きは面倒臭いと考え、すぐにそちらは忘れてしまった。
「因みに、顧問弁護士もウチの一族の人なんだ」
「ウチの一族、本当に多方面であっちこち大活躍してるな!」
そちらの方が吃驚である。
「ひょっとして、卦韻はウチの一族がどんなのか余り理解をしていないって感じなのかな?」
「し、仕方が無いだろ。余り興味は無かったし」
「まぁ、親戚の小父様や小母様方がどんな御仕事かだなんて、そんなに興味を持つ子は居ないか」
美衣奈が語って聴かせたのは一族の本流である宗家――楠葉家が始まりである事、その歴史とは抑々にして西暦の始まりよりも前な事。
そんな永い歴史の中で分派していくのは世の倣いであり、卦韻がよく知る愛坂家や火祭家や水無家も分派をした家の一つに当たるらしい。
まぁ、大晦日や正月やらと大きなイベントが起きれば集まっている訳で、同族であるからこそだと言われてしまえば納得しか無かった。
当然だけど、その間に一族が就いた職業などは多岐に亘る。
政治家、刑事、弁護士、裁判官、検事、教員、スポーツ選手なんてのも有れば起業して社長に成った者も居るし、現在なら冒険者も居た。
尚、永い歴史の中には落伍者も当然の如く居た訳だけど、人としてどうしようも無い輩を救わんとする程に一族の者達は甘っチョロくない。
無論、出来得る限りは家族が力を貸したのかも知れないが、それでも落伍した者は居るだろう。
それは扨置き、美衣奈が連絡をしたなら大概の一族本流の者は動いてくれる事が判っている分、一族から出た顧問弁護士の誰かに、卦韻の為だと連絡を取るくらいならば何でも無かったりする。
「あ、そういえば。造った魔銀はどうしたの? ひょっとして理央さんに渡しちゃったのかな?」
「渡したって言うか、四五〇万円で売却をした」
「成程ね、権利全ての売却じゃ無いんだよね?」
「今現状では、スキルで俺しか造れないのに権利全て売ってどうしろと? 造った魔銀だけだよ」
「そうだよね。理央さん、魔銀の加工はどうするんだろう?」
美衣奈は下唇に右人指し指を当てながら呟く。
「母さんには母さんの考えが有るんだろうさ。そんな事より美衣奈、普段は『理央さん』って呼んでるんだな? いつもは小母様なのに」
「実は付き合いが長いんだ」
美衣奈は満面の笑顔を浮かべて、頭を掻きながらもはにかんで、そんな事を言うのであった。
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