第30話:リリア女史
..
「な、何なんだよ! 二人して! 痛いだろ?」
「リリアさん、美人だよね~」
「は? スピア、いったい何の話をしてるんだ」
さっぱり意味が解らない。
「ミスティまで!」
「ふんっ!」
何だか知らないがそっぽを向かれてしまった。
「はぁ、仕方がないな。それで、リリア女史」
「何だい?」
「幾らで売れますか?」
「そうだね、これは君が造った魔装具なんだね」
「はい」
「ふむ、これはコンスタントに造れるのかい?」
「造れます」
俺は質問に頷くと、同じ小さな木箱を鞄から取り出して置く。
「全部で一二個ね。これからも造れるかい? 魔装具は少ないからね」
「素材さえ有れば」
「ふむ、青銅とゴブリンの魔核だね。それくらいならば安値で卸せるね。私の店が魔核と青銅を卸すから、君が村に居る間は素材の卸しは此方側で請け負うから、ウチにブロンズネックレスを卸さないかい?」
「それは嬉しいけど……」
「気になる買値だがね、一個辺りを銀貨で一枚と銅貨で五枚。これでどうだい?」
「詰まり、一五〇〇テラン。一二個で一八〇〇〇テランか」
銭貨一枚が一テラン。
鉄貨一枚が一〇テラン。
銅貨一枚が一〇〇テラン。
銀貨一枚が一〇〇〇テラン。
金貨一枚が一万テラン。
白貨一枚が一〇万テラン。
真貨一枚が一〇〇万テラン。
銭貨は軽銀を使われていて軽いので一枚が数g程度でしかなくて、鉄貨は錆びない様な加工が成された貨幣であるらしい。
白貨は白金、真貨は真銀を使った貨幣らしい、俺自身は全くその貨幣を見た事無いんだけどな。
勿論、銅貨は銅で銀貨は銀で金貨は金製だ。
「ミスティ、どんな感じだ?」
「そうだね。素材の値段と魔核の値段と籠められた魔法。それに魔装具であるという事を踏まえれば妥当な価格設定だね。多分だけど御店での売値は二〇〇〇テラン、銀貨で二枚じゃないかな?」
ミスティの言葉にリリア女史が確りと頷いた。
「そうだね、卸値からしたら売値はそうなるよ」
「魔装具としては安い方に成るけど、結局はダメージ二〇%カット程度なんだからそんな物だよ」
量産前提って事を鑑みれば寧ろ、高値を付けて貰っているのかもね?
俺は今回のブロンズネックレスの売却により、一八〇〇〇テランという資金を獲る事に成功。
「そうだ、リリアさん」
「何だい?」
「銀って幾ら?」
「銀なら一gが四五〇〇テランだよ。どの程度が欲しいんだい?」
「一〇gも有れば」
値段を言われて、俺は銀貨で四枚と銅貨で五枚を出した。
「待ってなよ」
奥に引っ込むと、リリアさんは割りとすぐに戻って来ると小さな銀をカウンターの上に置く。
「これが一〇gの銀板さ」
「確かに」
銅貨五枚を財布の代わりの袋に容れておいた。
「銀なんてどうするんだ?」
「前に青銅でアレとは違うのを造っただろう?」
「そうだな」
「銀で造り直したいんだ。出来たら白金、真銀なら最上かな?」
俺としては、本当に魔導金属の真銀を使って造りたいんだがな。
「白金だと可成り高価いよ」
「でしょうね」
「況んや、真銀なんて簡単には買えないからね」
「……だろうな~」
流石に神金属はお金で買える様な代物ではないから論外として、魔導金属は相当な価値が有るから買うには相当なお金を準備が必要となる。
「そうだ、これって幾らになる?」
「ミスリル製の剣……だけどさ、混ざりが多くて純度が低いね。推定値では四〇〇〇テランだね。しかも刃がボロボロで更に安くなるさ」
「あちゃ~!」
これに関しては刃の方も駄目だ駄目だと思ってはいたが、本当にこのミスリルの剣は持ち主とか使い手からして駄目だったんだろう。
というか、無能ムーヴ君は家から勝手に持ち出しただけでしかなく、ひょっとしたら使い手って訳では無かったのかも知れないな。
「はぁ、まともに研いですらいなかったみたいだからな」
「あら、これは君が持ち主では無いのだねぇ」
「元々の持ち主が喧嘩を売ってきてね。それで、賭け物に成ったんだ。元の持ち主がまともに研いでいなかったみたいだからな」
リリア女史がやれやれとばかりに溜息を吐く。
「この子も可哀想にね」
「まったくだよ。俺も刃を視た時は驚いたさ」
「武器は消耗品さ、いつかは磨り減ってへし折れる時は来るのさね。だが、こんな粗末に扱った末に毀れるのは全く違うだろうよ」
「本当にな」
俺も剣士の端くれ、剣のあれこれには詳しい、正直に言ってあのミスリルの剣は刃も柄も良くないボロボロさ、きちんと扱ってなかった。
「それ、君が使うのかい?」
「研いでからね」
序でに、俺のスキルで確りと手直しするがな。
俺のユニークスキル【錬成王】でならイケる、あれは素材さえ有るなら本当に万能に近いんだ。
尤も、あのミスリルの剣は混ぜ物が多かったからスキルで純度を上げたとして、ひょっとしたら量が減って短剣くらいにしか成らないかも。
「真銀……高価いとは思ったけど、キロ単位で幾らになるんだろう?」
「真貨での支払いが必要だね」
「キロ単位でそれかよ~」
だとしたら、本当に無能ムーヴ君のミスリルの剣は価値が大分下がってしまっているんだな。
俺は深々と嘆息をした。
まぁ、目的だった銀は手に入ったんだからな、これを使って造り直してからプレゼントを遣り直すか。
「それ、売るかい?」
「いや、手直ししてから自分で使う事にするよ。純真銀製は無理でも、合金にすれば何とかなる」
「なら銀を混ぜると良いさ」
「銀を? 鉄を混ぜようかと考えていたんだが」
「ミスリルを真銀と呼ぶのは、魔力で変質をした銀だからだって話もあるくらいさ。銀と真銀ってのはね、魔力が籠ってるか否かくらいにその性質が近いのさね。だからね、銀を混ぜれば可成り良い剣に成るのは間違いないよ。騙されたと思って遣ってみると良いさね」
「まぁ、実際に金を掛けて買った物じゃ無いし。銀を買わないといけないけどな。商売上手め!」
「毎度あり~」
結局、付け足す分の銀を買う羽目に成ったか。
とはいえ、良い笑顔なリリア女史を見れたので良かったと思おう。
それに真銀と銀で親和性が高いなら、それに越した事も無いしな。
こうして、俺のある意味に於ける初めての買い物が、波乱も有ったけれど無事に終了した訳だ。
夕餉と呼べる程に良い物は食べていないけど、ミスティが準備をしてくれたパンとスープで腹を満たして、俺はユニークスキル【錬成王】を手慣れた操作で展開すると、素材となる銀を袋から取り出してポイッとスキルの受け容れ口に放る。
偽りであれ真であれ、真銀が本当に銀に魔力を籠めた物だと云われているのであれば、魔力を足せば或いは何らかの変化が有るのだろうか?
俺は別に魔力を持っていない訳じゃ無いんだ、飽く迄も扱う能力に難が有るってだけだからな。
魔力は俺の体内のモノを使えば良いだろうさ。
俺は腕を受け容れ口に容れると、スキルに魔力を吸収させた。
精神力と共に魔力が磨り減っていく倦怠感に襲われて、眩暈を感じながらも俺は決して腕を抜かずに我慢をしながら、美衣奈のあられも無い姿を思い浮かべて若さ故の元気を屹立させてしまう。
尤も、その元気まで魔力として奪われたのか、あっという間にへにゃんと成っちゃったけど!
とはいえ、単に魔力を注いだとしても恐らくだが意味は無い。
大地の魔力が銀鉱脈に吸収されていたとして、それの再現をしてやる必要性が有る筈だからだ。
「圧縮、螺旋、円環……」
圧縮した魔力で螺旋を描き、円環を以て銀の中へその魔力を注ぎ込むという行程を続けていく。
正しいか否かは兎も角、取り敢えずは自分が正しいのだと信じ込んで遣るしか無いのだろう。
軈て、意識を喪うか喪わないかの境界面に達してしまい、俺は遂に意識を手放し掛かっていた。
ピーッ! まるで電子音声が劈く様に鳴り響いて耳朶を打つ。
「寝てない、寝てない! あっぶなかった~!」
寝てしまえば恐らくだけど夢から醒めてしまうだろうが、そうなれば遣り残した作業が果たしてどうなるのかは解っていないんだ。
だけど完成はしたらしい。
真銀では無さそう、だけど間違いなく銀に魔力が力強く根付いているのがよく判る。
彼方側で俺がデザインをした指輪とネックレスをタップ、それにより選ばれたデザインと連動をして自動的に細工が成されていった。
僅か一分足らずの時間で二つのシルバーアクセサリーの土台が完成、後は先に渡したブロンズアクセサリーに填めた魔核を付け替えるだけ。
「次はミスリルの剣だな」
先ずは先程の様にミスリルの剣をスキルの受け容れ口に投入、柄と鍔……正確に云うと鍔と握りと柄頭の全てを含めて柄なんだけれど、それはそれとしてこれらのデザインは変えないでおく。
そして刃先は少しだけ変更。
魔力を籠めた銀で柄部分を構築、刃先は真銀に魔力銀を合金する形で嵩をふやしてしまった。
これで新ミスリルの剣の完成。
「つ、疲れた……」
俺は完成した剣を鞘に納めると、フッと意識を喪ってしまった。
.




