第26話:贈り物
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地下の第七階層――簡単に云うとB7へと降りてきた三人。
それでも瑠亞は冒険者を続ける道を選んだし、今では精神的なPTSD自体は治まる事は無かったけれど、それ以外の部分は何とか治ってる。
「あは♪」
水無瑠亞によるメイス撲殺祭り、師匠達は彼女が狂気に陥り、狂喜しながら、凶器を揮っているその姿と行為を視てそんな風に名付けた。
B7に顕れたオークの群を見付けた瑠亞が恐ろしい顔付き――瞳孔が開いていて口角が吊り上がった――をしながら、その利き手である右手に持ったメイスを大きく振り被る。
グシャァァッ! 凄い轟音をダンジョン内へと鳴り響かせ、オークの頭を陥没させるだけの打撃をぶつけて正しく撲殺を絵に描いたかの様。
血に酔ったという事だろう。
グシャグシャ、グシャァァッ! オークの全てが硬くて重いメイスの一撃をド頭に喰らい死滅、残されたのはオークの魔核のみであった。
槍太も璃亜も噂には聞き及んでいた事だけど、二人は『メイス撲殺祭り』を初めて視てしまう。
流石に血の気が引きゾッとなる。
「す、すげぇ……」
「これが璃亜姉の『メイス撲殺祭り』なんだね」
固唾を呑んでしまう二人。
だがその姿はとても美麗で華麗、そんな瑠亞を見詰める槍太は頬を染め、璃亜はと云えばキラキラとした憧憬を目前にする瞳をしていた。
そんな瑠亞に触発されたか……
「炎舞槍!」
炎を纏う槍、即ち炎輪を円を描く舞いを舞うが如く動きを以て、新たに顕れたスケルトンの群を次から次へと討ち果たしていく。
必殺スキル――円舞槍。
これは、炎を纏う槍という特性を上手く生かした技だと云えた。
「徹甲弾っ!」
必殺スキル――徹甲弾。
璃亜が闘士として発現させてるスキルであり、その効果は名前の通り衝撃を内部へと徹す事だ。
表面が柔いのは勿論、硬い敵でも打てば内部に破壊を齎らす。
オークが出てきたけど、見事にぶっとい体躯へ攻撃を叩き込み、内臓をグチャリと潰してやる。
血塊を吐き出して倒れたオークは魔素に還り、他のオークやスケルトン共々に魔核を残した。
武器も碌に持たない、タフネスなだけの魔物なだけに、璃亜は充分な戦果を挙げる事が出来る。
「出ないよね、イレギュラー」
「出ないな」
「出ませんよね」
槍太も璃亜も瑠亞も呟く。
必ずイレギュラーな魔物が出現する訳では無いみたいで、B7に顕れる魔物としては通常の存在ばかりでしかなく、イレギュラーは出ない。
一頻り歩いていくと行き止まりに突き当たり、其処には豪華とは云い難いちょっと大きめな箱。
「宝箱!?」
「そうですね、宝箱ですよ。初心者用ダンジョンの宝箱に罠も掛かってないから空けてみますか」
「よ~し!」
槍太は宝箱に近付き、早速とばかりに空ける。
鍵すら掛かっていない宝箱はあっさりと開き、その中身は箱の大きさに合わない小さな瓶だ。
「ポーションですね」
透明な瓶の中身は緑色の液体で、回復用ポーションという約三〇〇〇円程度の魔導具であった。
「怪我をしたら使うと良いよ」
「そうする」
因みに、三〇〇〇円は飽く迄も店で買った場合の値段であり、買い取り価格は半額程度である。
魔核の買い取り価格の方は普通ではあるけど。
「取り敢えず、第一〇階層まで降りましょうか」
「ゲートの為に?」
「ええ、一瞬で帰れるもの」
五階層ずつ在るゲートを使えば、云ってみればセーブポイントの事。
まぁ、ゲームみたいに全ての状態を記録してくれる訳では無いが。
考えてもみれば、素っ裸な状態はダンジョンに記録されているからこそ、死んでも生きた状態でペッと吐き出されるだけで済むのであろう。
「さて、B8へ行きましょう」
「そうだな」
瑠亞に促されて槍太は頷いた。
次の階段を見付けて降りるとまたもや魔物だ。
「お兄、またスケルトン!」
「魔核の値段は一個で三五〇円程度だったか?」
強さや何やらで変化する事もあるから飽く迄も概算でしかない、とはいっても初心者用ダンジョンでは精々が一〇円から三〇円の前後。
レベルアップに向け魔物を斃さねばならない、だけど初心者用では大した存在力など獲られないのだから瑠亞は余り闘わないが、それでも長々と魔物との闘いを視てると昂って手を出している。
「え~い♪」
ガシャァァッ! 弓矢より筋力上昇と武装強化の魔法を使って、メイスでぶん殴る方が好みに成ってしまった瑠亞は、スケルトン相手に良い笑顔を浮かべながら砕いていた。
「ある意味で瑠亞姉の方が魔物より怖いよね~」
「笑顔で骸骨を殴って砕いた様が、中々に恐怖を誘うんだよな」
美女だからこそ絵には成るけど、ちょっとばかり怖い。
思っていた以上に稼げたが、これは瑠亞が共に居たからこその成果、二人だけならこうは成らない。
抑々、未だ第五階層がやっとだったであろう。
第一〇階層なんて夢のまた夢とまではいかないだろうけど、少なくとも短い春休みを使い切って漸く到達をしていたのは間違いない。
瑠亞が居なければ新しい武器も手に入ってはいなかったし。
炎輪は聖霊剣クリスタリオンより僅かに威力が高い武器で、某・RPGに照らし合わせると炎輪が+四五でクリスタリオンが+三六くらい。
クリスタリオンが弱くね? とか思えるくらいに炎輪は良い武器という事、クリスタリオン自体は云ってみれば某・RPGの某・剣みたいな感じに成っていて、今現在が最上とは云わないからだ。
正しく、鋼鉄の剣よりかはマシだといえるレベルである。
因みにだが鉄の手甲の攻撃力は、だいたい+二〇くらいだろうか?
三人は遂にB10――第一〇階層にまで到達し、すぐにもゲートの方へと向かって歩みを進めた。
「B5ではスルーしたけれど、これがゲートか~。立方体の水晶だね」
辿り着いたのは部屋、その中央部には立方体の水晶が埋め込まれる形で地面から屹立している。
「だけど、これがゲートだってよく当時の冒険者は解ったよな」
「だよね~」
視るからに単なる水晶の立方体に過ぎないが、ダンジョン内に在るからには意味が有るのだとは思われたろうが、何があるか解らない物を迂闊に触ったりするだろうか? というのはあった筈。
「ダンジョンの研究って、最初の数年間は遅々として進まなかったのよ。それが大氾濫を切っ掛けに世論が動いて、その直後にとある少女が様々なダンジョン研究の論文を提出したらしいですね」
「とある少女……ねぇ」
槍太は苦笑いを浮かべる、その脳裏に当事者だと思われる碧銀の髪の毛の少女がニコニコとしていた。
「ダンジョン内の立方体水晶は地上と階層を繋ぐゲート、地上に必ず在る部屋に存在している水晶を使えば一度でもその階層の水晶を使っていれば起動し、相互に転移をする事が可能……ってね」
それを初めて実行したのがダンジョン探索に於ける先駆者、即ち楠葉慎吾のパーティだったのは当然と云えば当然の流れなのかも知れない。
立方体水晶のゲート――正式名称『クリスト・ガウロ』が起動して、三人の姿がその部屋から消え去り、次の瞬間には地上一階の部屋に。
「これがゲートの使い心地か」
「味気無かったよね」
「まぁ、転移酔いみたいなのも起こりませんし」
二人の感想は至ってシンプルで、瑠亞も実は初めて使った際は同じ事を考えていたものだった。
冒険者ギルドの受け付けカウンターに受付嬢が立っており、中々に解っている人間が採用したのかどうか不明だが、可愛らしい容姿だったり、綺麗な容姿だったりと、至って見目の良い者がこの職に選ばれる。
「あ、瑠亞さん」
「何ですか? 溯那さん」
「瑠亞さん宛てに御届け物です」
「私に? 差出人は?」
問われ、宇賀内溯那は差出人の名前が書かれている伝票を見た。
「愛坂美衣奈様ですね」
「美衣奈ちゃんから?」
又従姉妹、乃至は再従姉妹というちょっとした血縁関係な少女、瑠亞の母親の姉が美衣奈の母親とは従姉妹同士というのが正確な処。
「それなりに大きな包みですね~。溯那さん、悪いですけど少し部屋を貸して戴けませんか?」
「構いませんよ」
ダンジョンをまるっと覆い隠せる程の施設なだけに、冒険者ギルド自体が相当に広大な土地を擁する巨大な建物と成っていて部屋は多い。
その内の一部屋を借りて、瑠亞は槍太と璃亜を連れて入ると、遠慮など一切無く包みを開いた。
「朱色の鎧と銀のネックレスに? それから後は手紙……ですか」
手紙の内容は、楠葉卦韻が唯一技能に覚醒した事で造られたデスコーピオンの甲殻鎧、それからデスコーピオンの魔核を四分割した内の一つで造ったシルバーネックレス、これらを槍太と璃亜へそれぞれに贈るという事の様である。
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