第25話:新たな武器を
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「問題は無かったのですね?」
「ええ、昨日はCランクのダンジョンに入ダンをしてみましたが、そちらでイレギュラーが発生する事は無かったので。現状は初心者用ダンジョンのみ起きている現象の様です」
「成程、判りました」
瑠亞は、昨日のダンジョン探索の結果をギルドへと報告する。
「他のAランクの方や、ホルダーの方々からの報告も同様でしたよ」
「師匠達が!」
SSSランク冒険者である楠葉慎吾、SSランク冒険者の楠葉理央、他にもSランク冒険者達も動いてイレギュラーの捜査をしていたのだ。
冒険者ギルドに報告後、瑠亞は槍太と璃亜の方に向かい歩を進める。
「瑠亞姉、報告は終わったんだ」
「ええ。それとダンジョンの一層で武器の交換をしますよ」
「武器の交換?」
璃亜がコテンと小首を傾げた。
「取り敢えず入ダンしますよ」
「了解」
「はい」
瑠亞に促されて、初心者用ダンジョンの一層目に入っていく。
「ひょっとして、瑠亞姉さんがバックパックに突っ込んでる長物が?」
「ええ、槍太君の新しい槍。銘は『炎輪』です」
「炎輪?」
「魔装具の一種で、銘の通り炎を纏う槍だと鑑定をされました」
「纏うって事は炎を飛ばすタイプじゃないと?」
「違いますね。攻撃力は少なくとも鋼鉄の槍よりは高いみたい」
Cランクなダンジョンの宝箱なだけあってか、割かし良い武器が入っていたという訳だ。
きっと、破○の剣くらいの威力なのであろう。
「お兄だけ?」
「璃亜ちゃんにも有りますよ」
バックパックに手を突っ込んで、瑠亞はその中に入っていた手甲を取り出して璃亜へと渡した。
「これは?」
「オークションで買った物ですよ。ダンジョンで見付かったアイテムが売られていますからね」
冒険者ギルドが主催するオークションが存在しており、ギルドに手数料を支払ってオークションに見付けたトレジャーの出品が出来る。
この手甲もそんな一つで、魔装具では無いけどそれなりに攻撃力の高い武器なのは間違いない。
少なくとも、ナックルダスターよりはマシだ。
「わぁ、有り難う! 瑠亞姉。大事に使うね!」
装着してガンガンッ! と左右の手甲の拳部を打ち付けながら言う。
「攻撃力という意味では炎輪に比べると大した事は無いけど」
「良いよ! 実際に手甲系は少ないから仕方がないんじゃない?」
単純な攻撃力は炎輪が+四五くらいだろうか、鉄の手甲はだいたい半分くらいの攻撃力かも?
オークションだったからちょっと高価かった。
イレギュラーを相手にするなら、多少の散財は良いかなと考えたからこそ、璃亜の為に買ってきたのだ。
「イレギュラーが出たら、余程の事が無い限りは二人が対処してみて」
「「了解!」」
瑠亞からしたらビッグタートルくらいなら対処が出来る、そう考えたからこそ彼女は莫迦みたいに高価い武器の買い物をしたのだから。
因みに鉄の手甲は約一〇〇万円も掛かったが、実際に店売りされれば半額くらいであったろう。
ひょっとしたら二〇万円くらいで買えたかも?
オークション、しかも数の少ない手甲系だったから高価かったのだ。
闘士という職業スキル自体が少なかったから、拳系の武器は余り造られないのが実情であった。
「具足系の武器も欲しいよね。これは自分で買うけどさ」
具足系も矢張り少ない。
「それじゃ、行きましょう」
B2へと降りて暫く進むと顕れる魔物共だけど、イレギュラーでは無かったから軽く斃してやる。
コボルトが数匹、その程度なら青銅の槍やナックルダスターで充分に過ぎるくらい斃せる魔物。
況してや、新武器を獲た二人にとって楽勝だ。
「これで二〇〇〇円くらいか」
「やっぱ安いよね~」
「初心者用の第一階層だしな」
魔核が一個で三〇〇円前後では余りにも安い、とはいえ初心者用ダンジョンで手に入る程度では六〇〇円を越えないし、ボス部屋のボスだったとしても一二〇〇円くらいでしかなかったりする。
本格的に稼ぎたいのであるなら、どうあっても最低限でCランクを越えている必要性があった。
初心者用ダンジョンは違うけど、Eランクにまで行くとダンジョン税として稼ぎの一割を支払わねばならなくなるし、武器や防具の更新やメンテナンスやポーションなどの常備などと、お金はそれだけでも相当に飛んでいく事になるのだから。
コンスタンスに稼いで暮らしていきたいなら、矢張りBランクにまで到達をしておくのが吉だ。
ソロなら兎も角、パーティを組めばパーティ分割で人数分を割らないといけなくなるのも大変、それが冒険者という職業の闇であろう。
Cランクでも、堅実に頑張ったら老後を慎ましくなら生きれるけど。
「あ、また出たよ! コボルトが……七匹だね」
「楽勝だ!」
璃亜は手甲を着け右拳でアッパーを繰り出し、左拳はフックでコボルトの右頬をぶん殴った。
槍太も炎輪を両手に持つと、円運動により周囲を薙ぎ払っていく。
転けたコボルトの額を貫いてトドメを刺して、更には璃亜も転けてるコボルトの頭を踏み抜いた。
グチャリとしたエグい絵面に成ってしまうが、直ぐにも魔素に還ってしまって消えたけれど。
魔核が七個、それに牙が一個だけ残っている。
「牙? ドロップか」
「そうですね。コボルトの牙、五〇〇円程度にしか成らないけど」
初心者用ダンジョンでのドロップアイテムも、大した値段は付かずに二束三文にしかならない。
「はぁ、暫くはこうして安い魔核やドロップを集めるしかないか」
一個一個は子供の御駄賃程度の価値しか無い、敗ければとんでもない負債を負うには見返りは余りに小さく、ハイリスク・ローリターン。
しかもレベルアップだってそんなに早くない。
もう、いったい何十匹を斃したか知れないのに未だレベルは四。
一度だけレベルアップしてるが、次のレベルには未だ届かない。
浅層の最後である第五階層を漸く抜けて第六階層に到達していた。
「此処までイレギュラー無し。上手く少し強いだけのイレギュラー魔物が出れば良かったのにね」
瑠亞の狙いは親しい弟分と妹分が強く成る事に他ならない、弱ければダンジョン内での確定死亡は回避が出来ず、酷くPTSDを患い兼ねないから。
(あんな痛みや苦しみや絶望感は、私だけで充分……ですからね)
ブルッと震える瑠亞。
瑠亞は一度だけ、Cランクだった頃にダンジョンで魔物により喰い殺され、ダンジョンの出入口からペッされてしまって、暫くは食事すら出来なくなってしまった過去を持つ。
生きた侭喰われる絶望的な痛み、壊滅的で鮮烈に残る復活時に持った死の記憶、それによる衝動は余りにも余りなものであり、素っ裸でペッされた事を気にする余裕など全く有りはしなかった。
それこそ、何もかもを……胸部も大事な部位も曝け出してのた打ち回り、間違いなく尊厳が死んでいたにも拘わらず無様な姿だったろう。
汗を流していたのは勿論だけど、涙を涎を鼻水は於ろか御小水までもを垂れ流しにしていたし、大慌てでダンジョンを出てきた師匠――理央小母様と呼んでいる彼女が庇護をしてくれてなければ、何時間もあの侭だったに違いない。
ダンジョン内で生命は喪わない、喪われるのはペッされた際の尊厳だけだ――なんて宣っている人間は実情を知らぬ所謂、エアプ勢でしか無いのであろう、そう思っているのならば実際にダンジョン内で、お前達が死んでみろと言いたかった。
瑠亞は二度と御免である。
暫く御飯が喉を通らず、いつまでも痛みが残っている感覚――幻肢痛にも近いものが半年は続いていたし、折角発現していた魔法もまともに扱えなくなってしまい、元々は弓矢で闘う遠距離射撃型だったのに、今では金属製のメイスでぶん殴って撲殺をする事に、一種の性的な快感すらをも感じてしまう精神的後遺症を患う程だったと云う。
「上層でゴブリンソルジャーは普通なのかな?」
「普通ですよ」
「成程。イレギュラーじゃないならイケるかね」
出てきたのは青銅の剣を手にした小鬼の兵士型であり、その武器も混ざり物が多くて一度は溶かして雑物を除かないと使い物にならない。
兵士なだけあってか、動きは素手や棍棒持ちよりマシだったが、それでも槍太と璃亜からしたら既に敵では無い、正に雑魚に過ぎなかった。
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