第23話:無能ムーヴ君を斃せ
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昼食を摂った後、昼休みも終わって俺は憂鬱な気分で例の広場――現代日本で云えば学校の校庭に木剣を片手に向かう事になる。
今更、面倒な話だけど実技を投げ出す訳にもいかないからだ。
「良いじゃん、ガンパーには目にものを見せてやれば?」
「目にものをって、俺はいっつも敗けてんだが」
「今のケインが、ガンパーに敗ける訳無いよ」
「そうなのか?」
「だって、ケインの封印は解除されたんだよ? 今のケインだったらユニークスキルだって使える筈だし……ね?」
「っ!」
矢っ張りと云うべきか、ミスティはどうやら色々と俺の持つナニかを知っているらしい。
まさか唯一技能に付いても気付いているとは。
辿り着いたらヘラヘラしながら待ち構えている無能ムーヴ君、そして取り巻きである二人の少年が矢張りニヤニヤとして立っていた。
「そういや、あの無能ムーヴ君の取り巻き達って何て名前だっけ?」
あ、コケた。
ずっこけるミスティ達というのは珍しいよな。
「右の茶髪がモブール、左のヒャッハー髪がザーコスだね」
「モブとザコ?」
それは随分な名前だね。
取り敢えずちょっとだけ気になった取り巻きの名前は判ったし、手薬煉を引いて待っている連中の許へ行きたくは無いけど行こうか。
ああ、本っ当に面倒臭いな。
「よ~、孤児にそんな格好良い鎧は勿体無いぜ。今回のバトルで俺が勝ったら貰うかんな!」
「お断りだな。そう言うなら先ずは自分が何かを賭けてから言えよな」
「んだと~っ、ゴラァッ!」
当たり前だが、賭けをするなら互いにリスクを負わないといけないだろう、今の言い方だと自分は何も賭けずに俺にだけ賭けさせる話だ。
況してや、孤児がどうとか言ってくる辺りが非っ常~にムカつくからな!
「だったら、俺はこいつを賭けてやらぁぁっ!」
手にした木剣とはまた別に無能ムーヴ君のその背中には、割りと御立派な片手剣が背負われている。
要するに、それを賭ける気なのだろう。
奴がアレを使った処を見た事は無かったけど、自慢気に抜き放ってモブールとザーコス? に見せていたから抜き身自体は知っている。
銀色の中に美しい翠が掛かった、はっきり言って無能ムーヴ君にはとても不釣り合いな剣なのは覚えていた。
「ミスティ、アレは釣り合いが取れているか?」
前は判らなかったが、今の俺には【真鑑定】が在るから、その剣の正体も既に見抜いている。
それは魔導金属“真銀”を鍛えた片手剣だった。
「そうだね、真銀製だけど雑ざり気も有るみたいだから価値的には釣り合うんじゃないかな?」
「矢っ張りか」
俺の造ったデスコーピオンの甲殻鎧:漆黒は、普通に造るよりは上で職人気質な人が腕前を以て職人技を揮った物より劣るくらいだ。
魔装具としてのランクで云えば俺の甲殻鎧はCランクであり、無能ムーヴ君の持つ剣はD+ランクか。
あれで雑ざり気の無い純正だったらBランク、間違いなく俺の造った甲殻鎧:漆黒より上だな。
勿論、純真銀製より合金だった場合の方が硬く粘りも出る、随分丈夫な金属となる場合もある。
配合率を確り調べなければ逆に脆くなるけど。
因みに、俺の【真鑑定】と【錬成王】を使えば充分なミスリルの剣を造る事が出来るとは思う。
とはいえ、今の俺では造る最中に精神力が尽きるだろうけどな。
「判った、それで構わない。言っておくが、先生が聴いているからには無かった事に出来ないぞ」
「っせーよ! どうせ俺が勝つんだからなぁ!」
使うのはお互い木剣だったから、剣の威力という意味では互角。
「本当に良いんだな?」
「構いませんよ」
「良いぜぇっ!」
余り目立たない先生からの確認に互いが頷く。
「始めっ!」
先生の掛け声と同時に互いが前へとダッシュ。
「はぇ?」
スパカ~ンッ! とばかりに無能ムーヴ君の頭に俺の木剣が極った。
「は?」
無能ムーヴ君は、まるっきり意味が解らないとポカ~ンとしたマヌケ面を晒してしまっている。
「な、何が……」
「俺の勝ちだな」
瞑目をすると言い放つと……
「そんな莫迦な! 俺が敗ける筈が無いんだ! 俺の方が無能なお前より強いんだよっっ!」
そう叫びながら再び木剣を手に襲撃してきた。
「鬱陶しいな! 喰らえ、秘奥スキル『斬月』!」
見様見真似でしかない、俺の父親である慎吾が彼方側で俺自身に放った『斬月』を撃ってやる。
「あびゅらぱっ!」
不完全処か失敗でしかない技でだった訳だが、おかしな叫びを上げながら吹き飛んで逝った。
「貰って行くからな」
地面に落ちて気絶した無能ムーヴ君の背中からミスリルの剣を外して奪う、モブールとザーコスはあわあわしながら立ち尽くしていた。
封印解除とやらで肉体的な重みを感じないし、体幹のブレも無くなっているからか、機敏に動けて且つ動く的を外すなんて事も無い。
寧ろ、動いている的を外していたのは正確無比な斬檄を放っていたからこそであり、体幹のブレというハンデさえ無ければこうなる訳だ。
「先生、問題は有りませんよね?」
「無いな」
互いが納得した賭けバトル、敗けたからといって無かった事にしたら、それは恥の上塗りになるだけ。
そういう事らしい。
「ま、クリスタリオンの代わりには成るかな?」
確か、クリスタリオンは鋼鉄の剣よりはマシな威力程度だけど、貴重な魔装具である事には違いないし、別の武器を持った方が良いしな。
因みにこのミスリルの剣は、雑ざった金属だからクリスタリオンより威力が低いみたいだった。
「ケイン、あれって別に秘奥スキルとかじゃ無いよね?」
「まぁ、見様見真似だし。抑々にして秘奥スキルなんて持ってない」
「というより、『斬月』って確か極東国家であるジパーニュで剣士の派生職業である武士、それの最上位の闘武将が使える秘奥スキルだよ」
「そ、そうだったのか」
父さんのレベルは八〇〇越えなのは聴いていたけれど、職業スキルまでは知らなかったからな。
それにしても、極東国家のジパーニュっていうのは若しや日本に似た国……なんだろうか?
何しろ武士だしな。
「それでも、ケインの動きは本当に良くなっていたよね」
「それなら嬉しいよ」
ミスティに褒められて俺は少し照れ臭かった。
「ケイン、これなら聖霊の森を攻略が出来るんじゃないか?」
「ボクもパーティを組んで聖霊の森の攻略をしたいよ! 頑張ろう!」
ランスとスピアもどうやら聖霊の森の攻略には前向きらしく、俺としても折角だから聖霊の森の攻略に向かってみたいと考えている。
チラリと横目を向けると、無能ムーヴ君はモブールとザーコスがせっせと運んでるのが視えた。
まぁ、名前なんてモブとザコなんだから取り巻きで良いか。
俺は早速と言わんばかりにミスリル製の剣を腰に佩くと、次の模擬戦の相手としてランスを指名して再び広場で互いに見合わせる。
木の槍を構えているランス、それに対して俺も木剣を構えた。
「始めっ!」
先生からの掛け声と同時に駆け出した俺達は、それぞれに構えていた武器を相手に揮っていく。
「せりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!」
ランスの木槍による連続突き、それも僅か数秒間で百撃必倒を旨に放たれた攻撃だったけれど、俺は俺で木剣を使ってその槍を防いだ。
「くっ、ぐっ!」
今までなら肉体の重みで防御すら叶わず当てられて吹き飛んだが、クリスタリオンを手に入れて封印解除がされた時点で防げている。
「それくらいならっ!」
何とか全ての連撃を防ぎ切ると、次は俺の番だとして斬撃を放った。
「くっ、流石はっ!」
互いの武器がぶつかり合う。
ランスの槍の疾さは可成りのものであったし、疾風怒涛は於ろか疾風迅雷の速度で突いてきた。
勿論だけど突きだけに非ず、槍の刃部分による斬撃が俺の肩口を素早く狙ってくる。
「させるかっ!」
「くぅっ!」
それを往なすと、何とか斬撃を返してやった。
ランスはそれを躱して、円運動を以て連続した突きを再び放ってくるものの、俺も木剣によって攻撃を躱して更なる斬撃を放つ。
バキンッ! 鈍い音を響かせて砕け散る武器。
「「げっ!?」」
呆然と視る手元の木剣は刃の部位が喪われてしまっていた。
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