第22話:朱の鎧を君に
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今日も今日とて……か。
目を覚ました俺が身体を起こすと、其処は俺のベッドはベッドだったけど、楠葉卦韻のベッドでは無くケイン・ユラナスのベッドだった。
「結局、この夢が何なのかよくは解らんよな」
頭を掻きながら俺は呟く。
「父さんの秘奥スキルにぶった斬られたんだったよな。ってか、秘奥スキル『斬月』って言っていたか? レベル一〇の小僧に大人気ない」
今の――ケイン・ユラナスの存在力は一つ上の一一に成ったばかり、本来の俺とも大した差は無いから問題も特には無いな。恐らくは。
俺は木剣を手に構えてみる。
「よし、重さを感じない。それに問題だった体幹のブレも無い」
振ってみても大丈夫だ。
聖霊剣クリスタリオンで無くても充分に可能、美衣……じゃなくてミスティの言っていた通り。
だけど、更に新たな問題が浮上をしてしまう。
「封印解除とか言っていた。封印って何なんだ? いや、封印の意味は勿論知っているけど、何だって俺に封印が掛けられてんだよ?」
ちょっと意味がよく解らないが、ひょっとしたらミスティであるなら理由とか知っていそうだ。
「そういや、此方じゃ未だアクセサリーは造っていないよな」
先ず此方でも銀を手に入れないといけないな。
彼方側でアクセサリーを造ったし、恐らくは造れる筈だろう。
俺は着ていた漆黒のデスコーピオンの甲殻鎧を触れつつ、更には朱色に染められた同型の甲殻鎧を見遣るとランスの事も考えてみた。
これは確かに同型だけど、ランスは俺より背丈が高いから少し大きめに造ってあるし、サイズの調整が多少ながら利く様にも造ってある。
銀でアクセサリーを造るのは出来る訳だけど、取り敢えず鉄か銅を使って試作をしてみようか。
銀は兎も角、鉄や銅なら少し簡単に手に入りそうだしな。
というよりは、壊れた青銅の剣をアクセサリーへと造り直せば良い。
という訳で、元々のレシピは銀を使った物ではあるが早速、俺は青銅の剣を素材にブロンズリングを製作してみようとスキルを起動した。
「稀少技能【真鑑定】と唯一技能【錬成王】を同時に起動」
青銅のあらゆる面での鑑定が成されてしまい、一番の部分を抽出してから形を変えていく。
これによってブロンズネックレスが完成した。
これは飽く迄も実験的に造った物だから魔装具にはしない、するんなら銀を手に入れてからでも充分に間に合うと思っているからだ。
取り敢えずは完成した二つのブロンズネックレスに関しては、鎧なんかを渡せないミスティとスピアに上げておくべきだと考えている。
というより、ランスにだけ鎧を渡してミスティとスピアに無かったら、寧ろ折檻をされそうだ。
俺はブルリと悪寒を感じながら、ネックレスを手に取り家を出た。
「ケイン、おはよう」
「おはよう、ミスティ」
いつも通りにミスティが迎えに来たらしくて、何だかちょっとばかり胸を撫で下ろしてしまう。
俺は造ったばかりのブロンズネックレスを取り出すと、それをミスティへと渡してやる。
「これは?」
「昨日の御礼かな?」
「昨日の?」
「色々と助けられたからな」
聖霊剣クリスタリオンを手に入れる為の戦力、それにランスとスピアも連いて来てくれたから。
「怪我をしたり血を吐いたり、色々と痛い目に遭わせたから御詫びを兼ねてって処だよ」
「そう? 有り難う」
ちゃんと受け取ってくれたから良かったよ。
受け取ったミスティが自身の首にネックレスを掛けた。
似合う様にデザインの方にも気を遣った甲斐もあってか、俺特製品なブロンズネックレスは彼女の身にとてもよく似合っている。
「処で、ケインのその漆黒の鎧はどうしたの?」
「ああ、昨日のデスコーピオンの甲殻を鎧に造り直したんだ」
「それってデスコーピオンの甲殻だったんだ!」
見た目には最早、デスコーピオンの甲殻としての形を成していない事もあり、ミスティの目からはとてもそうは思えなかったのだろう。
「よお! 元気に成ったみたいじゃないかよ!」
「ケイン、おはよう!」
そうしていたらランスとスピアがやって来た。
「ランス、スピアも。二人は大丈夫だったか?」
「まぁな」
「大丈夫だよ」
確かに怪我の様子は無い。
「ハイポーションは偉大だよな」
「ハイポーションか」
確か彼方側でも結構な値段だった気がするが、それでも使う必要がある程深いものだったのか?
「言っとくが深い傷って訳じゃ無いんだからな」
「そうなのか?」
「元より、昨日のはミスティが矢面に立っていたみたいなもんだしな。だから俺もスピアもヘトヘトには成っていてもダメージは少ないさ」
「うんうん、ボクも大した怪我じゃないよ?」
どうやら、ランスもスピアもダメージは残っていないらしくて、元気溌剌とまではいかないまでも充分に動けているらしかった。
良かったと思う。
「そうだ、ランス」
「どうしたよ?」
「ちょっと待ってろ」
俺は一旦、家に戻ると朱色をした同型の鎧を持ってきた。
「それ、今ケインが着けてるのと同じ鎧だな?」
「ああ、デスコーピオンの甲殻を使って造った。これはランス用に準備したから使ってくれるか」
「マジか!」
デスコーピオンはエネルギーで硬度が変わると判明しているし、纏い手の垂れ流すエネルギーを受けて勝手に高硬度に成ってくれる。
便利なものだよ。
「それからこのネックレスはスピアの分な」
「ボクの?」
「そう、と言っても本来の物を造る前の試作品。ミスティにも渡したブロンズネックレスなんだ」
「え? な~んだ」
何が『な~んだ』なのかは判らないのだけど、取り敢えずスピアにネックレスを手渡しておく。
尚、ブロンズネックレスのデザインに関しては僅かだが変えてある。
「ケイン、試作品だって言っていたけれど?」
「ああ。デスコーピオンの魔核を使った魔装具を造ろうかと思うけど、青銅くらいしか俺は持っていなくてな。銀か、出来たら白金を使いたくてね。だからこそ青銅を使った物を試作したんだよ」
御試しだとはいえ、頑張ってデザインを考えて試作をしたんだ。
「なら、俺はちょっと鎧を装備してみる事にするから家を借りるぞ」
「ああ、構わない」
言われて頷くと、ランスは俺の家に入っていって鎧を纏う。
出てきたランスが朱色の鎧を纏い、それが紅い髪の毛と合わさり何と無くだったけれど、ランスのイメージカラーとなっていた気がする。
ランスは赤い髪の毛に紅い瞳は朱い鎧が随分と噛み合っている気がするし、朱塗りの柄の槍を持たせると可成り似合っていた。
「思った以上に似合うな」
「そ、そうか?」
照れるランスはちょっとアレだったけどな!
「ケインの鎧もお兄のと色違いなだけみたいだ」
「そりゃ、色を変えただけの同じ甲殻鎧だから」
「ボクのは無いの?」
「デスコーピオンの甲殻が足りなかったからな、悪いけどスピアの分は造り様が無かったんだよ」
「残~念」
だから、代わりにシルバーネックレスを造りたかったんだよね。
魔装具の効果としては防御力上昇をと考えているんだが、ユニークスキル【錬成王】は俺が知る魔法の効果を知識だけで附けられるんだ。
問題は防御力上昇の魔法を俺は視た事が無いという事だな。
せめて防御力上昇の魔法を視たい、そうだ! 若しかしたら母さんなら使えるかも知れないぞ。
まぁ、そうなると夢から覚めないといけない、当然ながらすぐにはどうしようも無いんだけど。
朝御飯も終わって学校に向かう。
「よぉぉっ、むの~く~ん!」
無能ムーヴ君と取り巻きの二人が意気揚々と登場、やれやれだな……と内心で肩を竦めてしまった俺に罪は無いだろうな。
「ギャハハッ! 今日も模擬戦だぜぃ!」
ニヤニヤとしながら、そんな事を宣って来ている無能ムーヴ君。
朝の座学を終えて、昼御飯を食べ終わった午後の実技でまたもやアイツと模擬戦を遣るのか。
絡まれる理由すら定かじゃない、まったく面倒な事この上無いよ。
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