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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第一章:聖霊剣
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第20話:卦韻VS楠葉慎吾

.

 美衣奈は家に帰り着くと、直ぐにも装備品であるローブを脱いでバスルームへと直行していた。


 春先だから汗で気持ちが悪い。


 一応、それなりの魔装具だから多少の気温には耐え得る造りをしていたけど、所詮は装備品としてはFを最下層にSSSを最高位であるとするのであれば、精々がDランク相当の代物でしか無いのだから。


 シャワーを浴びて肢体の汚れも汗も確りと流してしまい、その上で御気に入りのボディーソープで気になる体臭も具合よくしてしまう。


 凡そ二〇分間をシャワーの時間に充ててスッキリした美衣奈は、バスタオルで肢体の水分を拭き取ってしまい、それを巻き付けて大事な部位や胸を見えない用に隠して部屋の方へと戻って行く。


 ショーツとブラを着けて、桜色の上着と紺色のスカートに着替えた。


 ベッドへと肢体を預けて寝転がった美衣奈は、本日のダンジョン探索に於ける反省点を洗う。


「今日は思わない所でデスコーピオンが出てきたから焦ったな。まさか私があんな風に翻弄をされてしまうなんて、まったく情けないったら」


 自嘲をしながら呟く美衣奈。


 彼女別にクールでも何でも無い、感情的に成るのはいつもの事だ。


 それでも卦韻の前で無様を晒したく無かった。


「別に私は格好を付けたい訳じゃないんだけど、矢っ張りというか無様だけは嫌だもんね~」


 それこそが、愛坂美衣奈としての偽らざる想いなれば。


「天蓋の先より来たりて闇の彼方を引き裂く金色の煌めきよ……」


 魔力が迸る。


天雷(ザ・グライド)!」


 放たれた雷撃が結界の内部に放たれて消える。


「ふぅ、まだまだイケるね」


 美衣奈の自室には特殊な結界が張られており、多少の魔法ならば放った端から消失をさせる。


 だから魔法の練習にはもってこいというもの。


 以前は、そう一〇年以上前はこの形質の魔法が主流と成っていた。


 起き上がった美衣奈はデスクの収納棚を開き、その中に入っていた可成り古い容れ物を開く。


 その中身は古めかしいシルバーリングであり、台座の真ん中には小さく黒い石が填まっていた。


 シルバーのリングを手に取ると、美衣奈は頬を朱に染めて見詰める。


 再び棚へそのリングを仕舞う。


「ケインを助けていかないとね」


 そう言いながら美衣奈は卦韻の家を視ていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 シルバーリングとシルバーネックレスを造り終えた卦韻は、偶のこの日に揃った両親と夕飯を摂るとテレビでニュースを観ながら食休み。


「卦韻、折角冒険者になったんだ。だったら俺と闘ってみないか?」


「は? 父さんと俺が?」


「そうだ」


「……トリプルホルダーの父さんと見習い程度の俺が!?」


「その通り」


「勝てる訳が無いんだけど!?」


「勝てとは言わないさ」


 ニヒルな笑みを浮かべながら慎吾は言うけど、間違いなく一撃を入れる事すら出来ないだろう。


「でも、無理でも何でも(たたか)ってみたい俺が居る」


「なら()ろうか」


 慎吾はニヤリと笑うと木刀を手に持って立ち上がった、それを見た卦韻の方も己れの木剣を自分の部屋へと取りに戻って庭の方に出た。


 庭は運動をし易い様に広く作られているので、ちょっとした戦闘行動をするくらいは訳が無い。


「理央、開始の合図を」


「まったく、男共は……」


 仕方がないと言わんばかりに理央は首を振り、立ち上がって庭へと降りて来て手を挙げた。


「始めっ!」


 理央が叫ぶと、その瞬間に対峙をしていた二人は同時に駆ける。


 ガッ! という木と木がぶつかり合った鈍い音が鳴り響いた。


「ほう、着いてきたか」


「簡単に倒れるか!」


 鍔迫り合いの音が眩しくて、二人は木剣と木刀でぶつけ合う。


 卦韻の脛には黄色い氣力が纏わり付いてまるでグリーブの様な形を成す、それは瞬間的な加速化をする氣導術である』“韋駄天”だった。


「魔法……では無いな。卦韻に魔法の才は無かった筈だ」


「正解」


 術士である楠葉理央の血を受け継ぎながらも、卦韻には魔法の心得以前に使う為の才能が無い。


 魔素自体は薄いながら地上にも存在している事から、魔法の使い手はダンジョン世紀に突入した現在の冒険者なら大概が使える様に成る。


 但し、適性の有る魔法に限られてくるけれど。


 実際、楠葉慎吾だって魔法の一つや二つくらいは使えるのだから。


(矢っ張り駄目か、父さんは随分と手加減をしてくれているっていうのに、こんな体たらくじゃ)


 今の慎吾とはレベルからして一〇倍近い差が有るのに、単純な技術なども含めたら何十倍ですら済まない差が付いている筈なのに打ち合えている事実、卦韻が凄いのでは決して無いのは解る事。


(俺が考えるべきは一撃を入れる事でも、況してや斃すなんて烏滸がましい事でも無い。折角、格上が闘ってくれているんだから、視て聴いて感じて全身を以て全霊で学び取る事こそ遣るべき!)


 痛みなどは受けて当たり前だ。


「はぁぁぁぁっ!」


「ほう?」


 少しでも疾く、少しでも強く! 氣導術という新しい力も使い熟して、ちょっとでも良いから先へと進む為に剣を揮っていけ!


 卦韻は思考をする。


 韋駄天は脚に氣力を収束させるが故にどちらかと云えば、脚以外の部位は疎かに成ってしまうが故に紙装甲と変わらない状態だ。


 更には腕の振りも生身と変わらないし、攻撃力も腕力強化も出来ず疾さも変わらないから、どうしても落ちてしまうのが困る。


 本当に移動の為の技であろう。


 木剣での攻撃を往なされながら思考を加速し、僅かでも驚かせる事が出来ないか? と考えた。


 互いが再び距離を取る。


「ふむ、ジョブスキルが剣士というのは俺と同じな訳だな。とはいえ、俺のは木刀からも解る通りジョブスキルその物が変化をしている」


「ジョブスキルが?」


「俺のジョブスキルは闘武将、剣士の亜職業である武士の上位に当たる武将の更に上位と成るな」


「木刀なのはそれでか!」


 というよりは、刀を使っていたから剣士というより武士だからとシフトをしたのかも知れない。


 最初は剣士だったのだろう。


「だからこんな事も出来る」


 鞘は無いが、腰を落として木刀の位置はまるで鞘を佩いた左腰に、持ち手は右の侭だが左手には刀身の半ばを持っている状態に。


「飛斬抜刀っ!」


「なっ!?」


 高速の抜刀を行ったかと思えば、斬撃そのもの飛ばして来た。


「がっ!」


 その瞬間に、痛ましい衝撃が卦韻の身体を奔り抜けてくる。


「鞘走りが出来ないと成立しない、ちょっとした小技だな。とはいえ俺が放てば木刀でもその程度には威力を出せる。俺の最高の刀で最上な力を以て放ったら、それこそドラゴンも両断が出来る」


 漸く気付いた。


(未だに教えを請う事すら烏滸がましいのか!)


 だけど格上と命の遣り取り無しで闘える機会などそうは無い、ならばこの折角獲た機会に胸を借りるくらいの気持ちで挑むしかないだろう。


 卦韻が考えた韋駄天、それは速度重視で攻撃力は蚊の如く、防御力は紙と変わらぬポンコツ技。


 移動に特化した戦闘技術とは云えないモノだ。


 問題は攻撃力に特化すると疾さも防御力も可成り落ち、防御力に特化させると攻撃力はそれなりでしかも鈍足化してしまうという点。


 そうなると方法は二つ。


 一つは氣導術の高速移行、韋駄天で一気に近付いた瞬間に攻撃力を上げる氣導術を行使する。


(出来なくは無いだろうけど、今から遣れとか言われてもそれは無理に近いな。遣れても移行なんて激重ダウンロードみたいな遅さだよ)


 それこそ、専門的な訓練でもしないとだろう。


(なら、遣るべき事は……)


 全身を隈無く強化する一択。


 その方法とは内部エネルギーである氣力を全身に行き渡らせ、それを増幅しながら薄く薄く纏っていくのをイメージするというもの。


 そして神をイメージに重ねる。


 抑々、韋駄天や倶利伽羅もそうやって創った。


 魔法との違いは、術式に頼らないという点だ。


 勿論、魔力でも恐らく遣ろうと思えば遣れるのであろうが……


(イメージするのは武神……ならば建御雷神(タケミカヅチ)っ!)


 イメージの固着を、それが鮮明に氣力という曖昧なエネルギーを一つの形質へ変貌させていた。



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