第19話:装飾具
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「それで、それも売却を?」
「いや、これは俺で使いたいから売却は無しで」
「使うって、卦韻君はお父様と同じく魔工師だったの?」
奈々歌先生が驚愕したのか、卦韻の方を見ると問うてきた。
「魔工師じゃないけど、ちょっとしたユニークスキルを持ってるんだ」
「ユニークスキル! ごめんね、詳しく詮索をする心算は無いわ」
冒険者のスキルに関しては詮索無用が普通で、ギルド職員達とて根掘り葉掘りするのは無しだ。
当然、奈々歌先生だってそれは理解している。
「それじや、美衣奈さんの持つ魔核を売却ね」
「えっと、はい」
苦笑いな美衣奈。
「う゛っ!」
幾つかの魔核を視た奈々歌先生が蒼褪めた。
「……コックローチの魔核」
コックローチは美衣奈が問答無用で焼き滅ぼした魔物であり、見た目からして巨大なるGの姿をしているだけあって女性には厭だろう。
そのコックローチの魔核、心理的に触りたくすら無いかも知れない。
「全部で三二六〇〇円ね」
「結構な値段に成ったな」
二人は一〇〇〇〇円ずつ山分け、残り一二〇〇〇円はパーティ資金としての貯金へと回した。
六〇〇円は缶ジュースを買う資金という事で、三〇〇円ずつをお小遣いとして分け合っておく。
だから正確には一〇三〇〇円の山分けである。
「それで、奈々歌先生。デスコーピオンをトラクターで運んで欲しいんです。頼めませんかね?」
「構いませんよ、どうせ貴方達しか換金所に来ないでしょうから」
そう言って奈々歌先生はトラクターを取りに、割かし直ぐに換金所へと横付けにしてきた。
「ほら、デスコーピオンの甲殻を載せなさいな。二人の家に送るから」
「はい」
「奈々歌先生、宜しくね」
トラクターの積載部へとデスコーピオンの甲殻を載せて卦韻も乗り、美衣奈は奈々歌先生の隣の助手席に乗って楠葉&愛坂家へ出発する。
その最中、車中で美衣奈と奈々歌先生は話す。
「ねぇ、美衣奈さん」
「はい?」
「あのデスコーピオンは卦韻君が斃したモノ? それとも貴女が殺っちゃったのかしら?」
「ケインですよ。ってか、私ではデスコーピオンを斃せないし」
「へぇ、中々に優秀なのね。卦韻君って慎吾さんの息子さんだし、歳上に興味は無いかしらね?」
ピキッ……美衣奈の額に青筋が浮かんでいる。
「奈々歌先生? ひょっとして私に喧嘩を売ってますか?」
「あら、良いじゃない」
「唯でさえライバルは多くなる予定なんです! 変に参戦者が増えられて堪るものですか!」
プク~ッと膨れっ面な美衣奈は、卦韻には普段から見せてない表情で奈々歌先生と接している。
溝呂木奈々歌……二六歳、卦韻や美衣奈とは謂わば一〇歳は離れている訳だが、美女には違いないから美衣奈としては参戦は嬉しくない。
冒険者という新しい職業が登場してから一六年が経過、奈々歌先生が九歳という小学三年生くらいの頃にダンジョンが忽然として顕れた。
数年間はダンジョン混沌時代ではあったけど、約一〇年前に魔物大氾濫が一部の人々の無理解と政府の失策で引き起こされ、奈々歌先生もそんな渦中へと未だに高校生に成る前に巻き込まれた。
紆余曲折、危機的な状況に在って助けてくれたのが楠葉慎吾であり、大人の余裕と圧倒的な強さを魅せ付けられて冒険者を志してしまう。
残念ながら楠葉慎吾はとっくに結婚していて、出逢った時点で初恋は破れ去っていたけれど。
子供――卦韻も居たから奥さんを相手に略奪は於ろか、不倫だって出来やしないから今の立場に甘んじる決断に至ったに過ぎなかった。
私立愛坂学園の冒険科に所属し、魔工師としての勉学に励み、ダンジョンに籠ってはドロップや魔核を手に入れては研究に勤しんだ。
大学に入学、後進育成の為に教師の道へ進み、大学卒業後はこうして古巣の教師として赴任し、今こうして楠葉慎吾の息子と関わっている。
脇目も振らず彼氏も作らず、唯只管に直向きにばく進して行ったのだけど興味は有るのだろう。
「卦韻君のユニークスキルには魔工師として興味津々では有るのよね、勿論だけど詮索をしようとは思ってないけど。造る関係なんでしょう」
「まぁ、そうですね」
矢張り美衣奈は訳知り顔をしているみたいだ。
約一〇分が過ぎた頃、楠葉家及び愛坂家の近場にまで着いてトラクターをゆっくりと停車した。
「着きましたよ」
「有り難う御座います」
卦韻と美衣奈は御礼を言いながらトラクターから降りると、奈々歌先生が学園へと帰っていくのを見送ってから各自の家に入って行く。
「ケイン!」
「どうした?」
「銀は小母様が幾らか持ってるよ。多少であるのなら安値で譲って貰えるんじゃないのかな?」
「……そうか、判った」
驚きながら、家に入る美衣奈を見送った卦韻。
「美衣奈、ひょっとして俺が銀を捜していたのを知ってたのか」
呟きながら家に入った。
「ただいま~」
部屋に戻ると、デスコーピオンの甲殻を使う。
ユニークスキルたる【真鑑定】と【錬成王】を発動し、甲殻の全てを視て魔核を視てその中身を余す事も無く遍く見透かすが如くだった。
弱い場所、強い場所、魔力の通りや氣力の通りがはっきり解る。
【真鑑定】は全てを視れた。
「成程、彼方側では割りと適当にスキル任せで造ってしまったけど、【真鑑定】で確りと視た後ならもっと上手く纏められそうだな」
通常は銅並程度、然しエネルギーを流し込むと少なくとも鉄並には硬度が増すらしく、これこそがデスコーピオンの甲殻が斬り難い秘密。
鎧として纏っていれば垂れ流されている魔力や氣力、これらによって勝手に硬化されるだろう。
「鎧はコピペすりゃ、簡単に以前の物と同品質で造れる。一回造れば素材さえ有るなら量産可能、流石はユニークスキル【錬成王】だわ」
ぶっ壊れスキルと称するに値いするであろう。
二階から一旦、降りて母親である楠葉理央へと話を通そうと考えた。
「母さん」
「何かしら?」
「銀が欲しいんだけど」
「銀?」
訝しげな顔で小首を傾げる。
「美衣奈が、母さんなら持っているって聴いた」
「まぁ、持っているわね。どうして欲しいの?」
「アクセサリーの土台にしたい」
「あら、美衣奈ちゃんにプレゼントかしらね?」
普段から若々しい楠葉理央、然しながら今だけは何処ぞの世話焼きオバサンみたいな表情だ。
そういう意味では自分の母親ながらげんなりとしてしまう。
「間違っちゃいないけどさ、別に美衣奈だけに渡す訳じゃない。装備品としてのアクセサリーなんだから、造った物は璃亜にも渡すんだよ」
「な~んだ。どっちが本命なのか知りたかったんだけどな」
「良いから、母さん!」
「はいはい。アクセサリーの土台にするんなら、そうね……二人分なら一〇gも有ればかしら? どうやって加工するのは次第なんだけど」
「幾ら?」
「一〇gなら、約四五〇〇円くらいかしらね」
「それなら即金で出せるな」
「四〇〇〇円で良いわよ」
「有り難う」
卦韻は財布をポケットから出し、中から千円札を四枚だけ取り出して理央へと手渡した。
「はい、確かに」
受け取った千円札を仕舞い、理央は私室に戻ると金庫から小さな銀の塊を出して卦韻に渡す。
「一〇gの銀の塊よ。卦韻がきちんと加工は出来るのよね?」
「出来る!」
「それなら問題無いわ」
夕飯を作る為にキッチンに戻りながら笑った。
卦韻は二階の自室に戻り、そして【真鑑定】を再び展開して銀の性質から何までの鑑定をする。
更には【錬成王】を用いて先ずはデザインから行っていく、ワイヤーフレームを使ってイメージ通りに描いていって、四分割をした魔核の形状を整えるとシルバーリングの土台へと填め込んだ。
「これで完成。美衣奈用はこいつで良しとして、次は璃亜用だな」
璃亜は基本的に素手の格闘を得意としていた、だからリングよりはペンダントの方が良かろう。
スキル――【錬成王】の展開をすると再びペンダントを構築して小さな土台を造り上げていく。
「これに紐を通せば完成っと」
流石に首へと掛ける部位は金属製に出来なかったので紐だ。
彼方側で造った甲殻鎧と同じ物をコピペによって製作、魔核を填め込んでやればこれにて完成。
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