第17話:氣導術
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イレギュラーは今の処は起きていないけれど、万が一にも起きてしまえば危険な事になりそう。
B3――第三階層にまで降りて来た卦韻と美衣奈は斥候役はいないが、取り敢えずこんな初心者用のダンジョンで浅い階層には不要である。
「また来た、角狼だよ!」
「五匹か!」
卦韻はクリスタリオンを構えて、美衣奈も魔法を使う為に魔力喚起。
「はぁぁっ!」
クリスタリオンとは威力的には、某・有名ゲームに於ける鋼鉄の剣よりちょっと上程度でしかないけど、それでもRPGで云えば始まりのダンジョンに等しい此処、出てくるのも水色水玉な魔物と同程度から少し上程度くらいの魔物のみである。
少なくとも、第五階層よりも下に行かない限りは雑魚に過ぎない。
ホーンウルフの首を次々と断ち斬りに行く卦韻を横目に、美衣奈も腕に意味の有る魔力によって形成された紋様を纏わせ魔法陣と成す。
「炎砲ッ!」
炎が砲台の弾の如く放たれて、ホーンウルフを焼き尽くしていった。
「ふぅ、もう行けそうだ」
「そうだね、イレギュラーばかり恐れていられないかな?」
魔核を拾うと次へと向かう。
B4にまで降りるとスパイダーが数匹もが出現して来て、行き成り吐き出された蜘蛛の糸を卦韻は躱しながら右手に黄色っぽい光を籠めた。
「倶利伽羅!」
螺旋状に回転をしながら、黄色いエネルギーが幾つも掌から放たれてスパイダーを貫いていく。
〔は?〕
〔今のは魔法ですか?〕
〔いや、魔法の光じゃねーぞ〕
〔ケイン君のそれ、なにぃ!?〕
卦韻が撃ち放った攻撃に見覚えが無かったからであろう、リスナー達が驚愕をして幾つもコメントがスマホのモニターの方に流れてきた。
美衣奈も目を見開いている。
「そっか、そうだよね。氣力を扱える様に成ったんだもんね」
〔へ? 氣力……〕
〔それって、単なる都市伝説とかじゃなくて?〕
冒険者達が主に使うのは魔力で、その所為だろうか? 基本的に使用されるのは魔法一択だ。
「生命体が内包するエネルギーは主に四つが在ると云われてるよ。私が使う魔力、卦韻が使っていた氣力、そして霊力と念力と呼ばれてるね」
〔四大エネルギーってやつだ〕
〔ダンジョンで覚醒したら大抵は魔力が目覚めるらしいし、他のエネルギーには目覚め難く成るって話は聴くな。理由とか知らんけど〕
〔www〕
リスナーからのコメント、それがスマホに流れていく。
「理由は魔力と氣力だとコンフリクトするから、因みに魔力と念力は火とガソリンみたいな関係だね~」
〔鉄板ネタだぁぁっ!〕
〔魔力と念力だど大爆発!? 術者が死んじゃうんじゃね?〕
「そうだね~、間違いなく死ぬよ。生き残ったとしても再起不能だよ」
どちらにしても危険過ぎるから肉体的に拒絶をするのかも知れない。
「ミニ知識、念力はPSYONとも呼ばれてるんだ。魔力がマナで魔導がマギって呼ばれているみたいなものだけどね。因みに氣力はフォース」
〔先生、霊力は?〕
〔ミスティ先生は草生えるw〕
「霊力はアストルだよ」
〔アストラルじゃないんだ(笑)〕
実に愉しそうに配信をしている美衣奈を見て、早く高校生に成りたいと言っていた意味を知る。
恐らくずっとダンジョン配信をしたかったのだろう事が窺えた。
「元々は誤解と誤字から来てるんだ。アストラルをアルファベット表記にすると『Astral』だね。これを何故か誰かが『Astle』って書いちゃったみたいだよ。それとアストラルにしようとしたのは星幽から来てるみたいだね。色々とこんがらがってアストルに落ち着いたみたい」
〔英語が苦手だった説ww〕
「悪かったね……」
〔え?〕
〔付けたのミスティちゃん?〕
〔ミスティちゃんって実は英語、苦手?〕
紅くなってプィッとそっぽを向いてしまったのは美衣奈、どうやら彼女こそがダンジョン顕現から名前を付けた張本人であったらしい。
当然、氣力をフォースと読ませるのも美衣奈が考えたと見て間違いないのだろう。
〔で、結局はケイン君のアレって何なんだ?〕
「質問の答えは氣導術と呼ばれる魔導術とはまた違う技術だよ。遥か古の刻には天力を扱う天導術とも呼ばれていたエネルギー操作技術だね」
それを聴いた卦韻はハッとした表情となり、美衣奈の方を振り向いて彼女の顔を見遣る。
確かに現在は氣力を扱う氣導術と呼ばれているが、いつの事を指しているかは兎も角としても、美衣奈は天力や天導術だとはっきり言っていた。
それの意味する処は重たい、少なくともあの夢の世界を知る卦韻からしたら、美衣奈が間違いなくミスティの言葉を肯定した様なものなのだから。
それを踏まえれば確かにナニかが繋がった気すらしてしまう。
「氣導術は魔導術とは違い、魔法陣を使った手法で某かを成すモノでな無いんだ。どちらかと云えば感覚的な使い方になるよ」
「か、感覚的な?」
「名前は神様っぽいのを付けているみたいだよね?」
「まぁ、何と無くだけどな」
「そんな処だろうね。私も魔導術を使う際の起動名は判り易くしているから」
その言葉からして、現在の魔導術を構築して広めたのが美衣奈だと言っているに等しく、卦韻ばかりかリスナーも暫し呆然と成ったのは言うまでもあるまい。
倶利伽羅は一応、神様の名前とされているけど武器の名前でもあり、不動明王の化身的な黒い龍王の事を指している。
そんな逸話の所為と、何故かは解らなかったけど龍王の吐くブレスは螺旋状という、変な思い込みが先程使った“倶利伽羅”という氣導術の名前の由来と成っていた。
何と無く……本当に何と無くだけど、これからもそんな名前に成りそうだ。
「他には何か無いのかな?」
〔確かに、氣導術ってのが現状でケイン君の唯一性なモンなら、始祖として他にも有りそう〕
〔見てみて~な〕
〔それな!〕
煽りでは無いけれど、何だか美衣奈含む皆の期待感が半端ない。
「有るには有るけど、加速化する能力だから派手さは無いぞ」
頭を掻きながら言う卦韻、彼方側で使った“韋駄天”の事だから本当に出来るかは怪しいものだが……
(仕組みは理解してるけどな)
夢の向こう側だったとはいえ、遣り方さえ熟知しているのならば遣れなくはない。
そうは考えていても、矢張り加速化では華が無いだろうから。
「何か派手な氣導術を考えたらって事で」
取り敢えずはお茶を濁す。
〔まぁ、使い始めたばかりじゃバリエーションが無いだろうしな〕
〔確かにそう〕
〔そりゃ、仕方がないわな〕
リスナーも納得したコメントを書いてくれた。
ホッと胸を撫で下ろす卦韻、美衣奈はちょっと残念そうな表情で視てきていたけど此方にも準備というものが有るので勘弁願いたい。
「あ、コックロ……」
「炎放射」
卦韻が言い終わる前に全てを焼き尽くしてしまう。
「ケイン、拾っといて」
「了解」
苦笑いを浮かべてしまう、矢張り女の子だからかアレは好きくないらしい。
魔核を拾おうとした卦韻だったが、直ぐにバックステップをして飛び退いた。
「ケイン?」
訝しい表情な美衣奈も理由となる存在にはたと気付いて蒼褪める。
「嘘……アレって……」
それは巨大なサソリ型の魔物、本来ならば初心者用ダンジョンには顕れない程の難敵、即ち死を呼ぶ大蠍たるデスコーピオンであったと云う。
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