第14話:封印解除
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俺はゆっくりと、聖霊剣クリスタリオンらしき伝説の剣へと自身の右手を伸ばして柄を握る。
ちょっと力を籠めると、伝説の剣たる聖霊剣クリスタリオンがズルリと引き抜かれていく。
勢いの侭に頭上まで高らかにクリスタリオンを完全に引き抜く、剣が余りにも簡単に抜けたので寧ろ俺としては吃驚してしまった。
「これは、聖霊剣クリスタリオンに間違いないみたいだな」
パリンッ! 軽快で何かが割れる様な甲高い音が鳴り響いたのが、突然俺の耳朶を打った。
「う、ぐっ!?」
存在力の上昇とは異なる身体へ負担が掛かり、思わず俺は呻き声を上げて思わず蹲ってしまう。
「こ、これは……?」
いったい何なんだろうか? さっきのよく解らない感覚は……?
「え? これは!」
俺が剣を持った時の身体の重さを感じないし、ちょっと試しに振ってみたら体幹のブレが無い。
「これは、どうなっているんだ? それに氣力、天力か? この力を凄く上手く扱えている様な気がするのは何だろうか?」
これなら何と無くだがイケるかも知れないぞ!
俺は再び天導術の“韋駄天”を構築すると、再び逆方向へと駆け出してミスティ達が待つ場所へ。
急がないと!
亜音速は流石に未だちょっと無理だろうけど、それでも完成に近付いた天導術は素晴らしい。
脚部には靄というより最早、形すら成していて靴の様にすら見えた。
時速何kmかは判らないけど、少なくとも俺は疾風迅雷の如くだ。
「もう見えた! あれは?」
倒れ伏すミスティと、それを庇うランスとスピアを今にも襲わんとするデスコーピオンの図に、俺の中の切れてはイケないナニかがキレた。
プツッ……
言葉も無く唯、俺はきっと音すら置き去りにしていたんだろう。
デスコーピオンの尻尾がスピアに到達するかしないか、そんな瀬戸際でクリスタリオンによる斬撃を以て尻尾を半ばから斬り落とした。
サソリ型の魔物だから喋りはしない訳だけど、発声器官が有れば悲鳴を上げたんだろうな。
「い・ま・だっ!」
俺は跳躍をすると、有り得ない跳躍力によって近場の木を蹴り、勢いを付けてサソリの心臓部に程近い位置を、それも甲殻と甲殻の隙間を縫って突き刺してやった。
更には天力を剣先に籠めて爆発をさせてやる。
「ハァハァ……」
刺さった剣を引き抜いて、剣の先と膝を地面に付いてしまった。
「うぐっ!」
ドクンッという脈動が六回、恐らくは存在力の上昇――レベルアップを果たしたのだろう。
「さ、三人は大丈夫か?」
「何とか……な」
「右に同じ、だけどミスティちゃんが倒れちゃってさ……」
「くっ! まさか怪我を?」
気絶してるのだろうか地面に倒れ伏している。
「ミスティちゃん、デスコーピオンからダメージを受けてはいないんだけど、存在力が身の丈に合わない魔法を使っちゃった所為でね」
「そんな魔法を? けど、そんなの発動するものなのか?」
「ボクだって判んないよ~」
スピアに当たり散らしても仕様が無いだろう、必要な物は手に入ったんだからミスティを家まで運ばないと、それにランスとスピアもだな。
倒れて意識が無いミスティを横抱きにして抱えると、俺はランスとスピアを伴って帰路に就く。
デスコーピオンが甲殻をドロップしていた為、魔核と共にランスとスピアが拾って、持ち帰ってくれると言ってくれたので助かった。
道すがら、特に会話が無かったのは疲労感からだったが、流石にミスティがこんな状態では笑っていられないし、会話したいとも思えない。
漸く村に辿り着いて俺はミスティの家に連れて戻ると、村の中になら何処にでもある粗末なベッドにソッと寝かせてやった。
何なら俺のベッドも同じ物だ。
「この服に付着した血、口元の血を見る限りでは喀血でもしたのか? まったく無茶をしたな?」
俺は彼女の口元を拭ってやる。
自分の家に帰って、手にしていたクリスタリオンを見詰めながら乾いた布で、デスコーピオンの体液やら何やらを拭って綺麗にしておく。
「視れば視る程、クリスタリオンその物だよな」
美しくも薄い青みが掛かった銀色に輝く剣身、現実の世界で俺が持っていたクリスタリオンと全く同じ代物、柄や鍔や剣身の拵えも刃の色なども間違いない筈なんだが、本当に同じ剣なのかね?
「確か美衣奈が言っていた事だと、クリスタリオンは神皇鋼で造られていたんだったっけかな?」
日本語的に書けば“神”の名前を冠した金属で、俗に神秘金属と呼ばれているらしいと聴いてる。
他にも神鐵鋼や神金剛というのが存在していると聴いていた。
更には、“魔導金属”が在るのだとミスティから伝えられている。
「真銀や日緋色金や青生生魂がソレだったよな」
とはいっても、神秘金属は於ろか魔導金属でさえも簡単には手に入らないんだろうけどな。
日が暮れて俺がウトウトとし始めていると……
「ケイン!」
扉が叩かれて名前を外から呼ばれて覚醒した。
「ミスティ!?」
急いで扉を開けると、普段はポニーテールに結わい付けている碧銀の髪の毛は腰まで垂らして、服にしたって皺だらけで血が付着した侭だ。
「良かった……ケイン」
「ミスティこそ、もう大丈夫なのか? 血を吐いて倒れたんだぞ!」
「身の丈に合わないレベルの魔法を使ったから、それで肉体が負担に耐えられなかっただけだよ」
「だけって……」
可成りのダメージだったんじゃないだろうかと思えたし、何より肉体的な負担が掛かる魔法なんて使って健康に良いとはとても思えないぞ。
「そんな事より、デスコーピオンを斃せたんなら手に入れたんだよね? 《《聖霊剣クリスタリオン》》」
「っ!? 矢っ張りあれはクリスタリオンか!」
今まではまさか? という疑念だけだったが、手に入れようと言った本人から聴かされたからには間違いなく、本当にクリスタリオン。
「これで封印解除だね」
「ふ、封印?」
「そう、ケインには封印が掛けられていたんだ。私もその事実を昔に聴かされていただけなんだけれどね、その所為でケインは剣士としては大成が出来ない状態だったらしいよ。封印を解く鍵こそが、聖霊剣クリスタリオンを引き抜く事なんだって」
「どういう……」
「ごめん、判んない。勿論だけど知っている事は色々と有るよ。でもケインに今話しちゃ駄目な話ばかりなんだ。例えばクリスタリオンに関してもケインが一六歳に成るまでは話せなかったんだ」
「成程な」
聖霊剣クリスタリオンが俺の封印を解除する為の鍵、だとしたらあの剣を天零樹の根元に刺した『勇猛な剣士』って、いったい誰なんだ?
確実に俺と関係をしている人物なんだろうな。
取り敢えず、今は教えて貰えそうに無いのか。
「そういえば、デスコーピオンを斃したなら存在力も上がった?」
「ああ、六回上がったな」
「じゃあ、今までのも含めて一一回分か。単純な存在力だけならケインに抜かされちゃったな」
「そうなのか」
という事は、ミスティのレベルは一〇って事なんだろうな。
「それじゃ、どうやって身の丈に合わない魔法を使ったんだ?」
「ユニークスキル“魔導妃”の効果の一つだよ」
「ユニークスキル……」
「“魔導妃”なら本来扱える適性から二段階上はの魔法が使えるからね。デスコーピオンを相手にするからには、今の存在力で扱える魔法だと心許ない処の話じゃ無かったから、仕方が無いんだ」
「デメリットは?」
「精神力だけじゃなく生命力も吐き出す事になるくらいだね」
「っ!?」
詰まり、魔法を扱う度にMPだけでなくHPまで削られるのか!
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