第13話:聖霊剣
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デスコーピオンはゴブリンソルジャーなんかと比べても強い、甲殻が硬くて地を這う形だったが意外と素早く動いてくるし、しかもサソリだけに尻尾に猛毒を持っている訳だ。
此方に攻撃を繰り出してくる。
その両腕の膂力で鋏を揮えばちょっとした金属をも両断すると書かれていたし、実際に鉄の盾で防ごうとしたら、盾ごと身体を両断されてしまった冒険者の話も書かれていた。
「ヤバい! ミスティ、魔法で牽制してくれ!」
「判ったよ、詠唱の時間を二人で稼いでっ!」
ランスとスピアが前衛でデスコーピオンに向かっていき、自身の武器による攻撃を仕掛けたけど余りにも硬過ぎて歯が立っていない。
「地の底より来たりて……流れるモノよ……」
それでも詠唱を始めるミスティ、口の端に上るのは先のとは違う。
「流水ッ!」
まるで高圧水流の魔法みたいだ。
ミスティの右手の人指し指と中指の先から放たれた水、それがレーザーの如く飛翔をした。
元々のミスティの魔力自体が強かったからか、多少の傷が甲殻には付いていたけどそれだけだ。
これは美衣奈から聴いた話だが、魔法は魔力を使うけどあらゆるエネルギーは量と強度と純度に依ると、即ち彼女のそれが強いのだろう。
事実、俺の天導術も天力の量や強度や純度によって、威力なんかが変わってくるらしいからな。
まぁ、碌に使えないけど。
三人が必死こいて闘っているのに端から視ているしか出来ない、もどかしい、これだとガンパー君の言っていた通りとんだ無能野郎だ!
「戦闘に参加しても寧ろ足を引っ張るだけだし、このケイン・ユラナスの身体は何て役立たず!」
俺は剣士なのに剣を持てば身体が重くなってしまう、更には体幹がブレてしまうから剣を振っても動く的には当たらないと来た。
せめて体幹のブレさえ無ければ、最低限でも当てる事は出来たろう。
「自由にして疾き刃よ来たれ」
やっぱり呪文詠唱か。
「風刃!」
杖を翳して複数の風の刃をデスコーピオンへと放ったが、奴の硬い甲殻は意にも介さずそれらを簡単に弾き消してしまった。
「私達の存在力が弱いのも有るんだろうけれど、武器の性能の低さから限界が来てるんだ!」
「チィッ、そりゃ青銅の剣だからしゃーねーが」
「此方は鉄ではあるんだけどね」
ミスティの杖は初心者用、ランスの槍は青銅、スピアのナックルダスターも鉄製でしかない。
より良い武器ならと確かに思ってしまうよな。
「ゴメンけどケイン、天零樹まで行って伝説の剣を抜いて来て欲しい」
「……は?」
「ケインならきっと抜けるって、それは冗談とか気休めじゃないんだ。間違いなく君なら抜けるって信じてるんだ! あれならイケるから」
「ミ、ミスティ……」
俺にとってのミスティは美衣奈そっくりさん、だけどミスティにとって俺は幼馴染みのケイン・ユラナス本人、信じるに値するから……
「行け、ケイン!」
「ランスまで?」
「ミスティちゃんが信じてるんだ、ボクらが信じない理由って有る?」
「スピア……」
何故だ? 俺はこれが夢だから、現実じゃないから本気に成れていなかったんじゃないのか?
だから三人を単なるそっくりさんくらいにしか思えなかった? これじゃ、漫画の世界に異世界転生して、その世界の人々をキャラクター扱いするクソっ垂れ転生者と変わらないだろうがっ!?
「とはいえだ、余り保たないぜ? だから駆けろ、風より疾くだ!」
「判った! すぐに行って帰ってきてやるさ!」
だから……簡単にくたばんなよ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと行きやがったか」
「ホント、決断がおっそい!」
「でも、決めたなら大丈夫」
ケインが天零樹に向けて駆けるのを私達は見詰めながら口々に言う、とはいっても現在進行形で今は大ピンチなんだよね~。
私達の存在力は一〇くらい、デスコーピオンを斃すには余りにも足らない上に武器も五流だよ。
青銅の武器でデスコーピオンを斃せないんだ。
だけど伝説の剣なら、そしてそれを引き抜いたケインなら!
「悠久に揺蕩う自在なる乙女を纏める彼の姫君、その恩寵を以て加護を此処に……吹き荒れるは姫の怒りを顕した西よりの使者!」
普段よりも長い詠唱、レベル――存在力に見合わぬ高位の魔法だ。
「西風の怒り!」
私が生まれつき持つユニークスキル“魔導妃”、その効果の一つが自身の実力に合わない高位魔法を扱う権限、正確には二段階までなら上の魔法を生命力と引き換えに構築する事が出来るんだ!
耐え切れずに杖が破砕、私は暴れる風を制御しながら両腕を前に。
“西風の怒り”とは、風神姫ローアラーナの眷族たる精霊ゼファードの力を借りた精霊魔法。
ある特殊な血筋でないと扱えないのだけれど、私は詰まり云ってみればその血筋なんだよね。
問題は権限的に使えるけど、魔力値が低いから威力は御察しな処。
「ガハッ!」
「ミスティ!」
「ミスティちゃんっ!」
実力も武器も足りてないランスとスピアに闘わせる訳にはいかない、だから私が何とかこの切札を以てしてデスコーピオンを止めないと!
渦巻く風がデスコーピオンを止めている。
精神力と生命力が同時にガリガリと削られていく感覚が胸の奥に、汗が飛び散りながら口からは先程吐き出した血の一部が垂れていた。
あの魔物自体は確かに聖霊の森に棲んでいる、けど普段は可成り奥の魔素が濃厚な場所に居る筈なのに、近年は何かが狂い始めているんだ。
事実として森の浅い位置に普段は出ない魔物を見たという話も。
喀血が何だ! 二人を危険に晒した事を思えばこのくらいはっ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
駆ける――疾風の如く、雷光の如く駆ける。
早く速く疾く疾く迅く……疾風よりも雷光よりも駆ける駆ける!
決して歩かず立ち止まらずに俺は仮令、息が尽きるとも駆け続けた。
ランスを助けたい、スピアを救いたい、ミスティを守りたいから!
俺が自分でも、今までに類を見ないくらいに速さで駆け抜けた。
今、俺は天導術を使っている。
それはつい先頃、使えると確信をしたからだ。
天導術は魔導術とは異なり魔法陣だの詠唱だのは要らない、これに必要なのは想像力を創造力に換える発想力、それを支える屋台骨となるのが集中力。
見えているだろうか? 俺の脚部に黄色っぽい靄が掛かっているのが、それは俺が発しているという天力であり、彼方側では氣力の事だ。
俺が遣っていれるのは速い話が、脚部に天力を纏わせる事で高速移動を可能としている技術。
とはいえ、まともに使えば恐らくだが瞬間的には亜音速にも届くが、今の俺では流石に其処までの高速移動は出来ていない訳だが……
魔導術とは違って“力有る言葉”は必要無いが、体系立てるならば名前が在った方が良かろう。
取り敢えず“韋駄天”と呼ぼうか。
何故か、道すがら魔物が出ない? 好都合だ!
成程、魔物は魔素が凝り固まって魔核と成って魔物化するのだと云うが、詰まり魔素が無ければ抑々にして魔物が顕れる事も無い。
「恐らく、あのデスコーピオンが魔素のリソースを奪われてしまったから、魔物が湧出しないって寸法か! こいつは不幸中の幸いと考えるべきだろうか?」
あんなのが湧いて出た時点で幸いとは思えないけどな!
「み、見えた!」
森が途切れ、丘を登っていくと既に樹の姿が。
樹齢ン万年の巨大な天零樹の地上に出た根の、その一部に突き刺さった剣らしき物も見える。
「ハァハァハァハァ……」
根を登らないといけないのは今の俺には少しばかりキツい、だけどミスティ達が待っているんだからこんな所で休んでは居られないんだ。
よじ登って漸く辿り着く。
「やっと手に入る……え?」
俺は伝説の剣を見て驚愕し、目を見開いてしまっていた。
「な、何故?」
その伝説の剣の柄と鍔の拵えは見覚えがある、根へと刺さった刃の部位も見覚えが有り過ぎた。
「まさか、どうして……」
夢と現つとその狭間。
「これは聖霊剣クリスタリオン!」
間違いなく、俺が彼方側で持っている聖霊剣クリスタリオンだった。
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