第九十一話 前を向け、強くなるために
カキの話を聞いて、シーラは何も言えなかった。こんなカキを見たのは初めてで、何を言ったらいいのかわからなかった。
シーラが声をかけられずにいると、ニコラスが口を開いた。
「お前の母親は、お前がそうやって沈んでいるのを望んでいるのか?」
カキはニコラスのほうを見た。
「お前の母親は、お前が戦闘魔術師として活躍する姿を望んでいるんじゃないのか?バカみたいに元気によ」
「・・・!」
「しっかりしろよ、カキ。お前はちゃんと前を向けよ」
ニコラスの言葉に、カキの心は少しずつ晴れやかになっていった。
ニコラスの言うとおり、前を向かなければならない。強くなるためにも。
それに、カタリナはカキが戦闘魔術師になったことを本当に喜んでいたのだ。そんなカタリナの想いを、カキが踏みにじるわけにはいかない。強くなった姿を、いつか空から見てもらわなければならない。
カタリナがきっと願ったことを、カキは叶える。そうして、カタリナの死を乗り越えていく。
ブレットはノーマたちがいなくなったあとも、ラルフと戦い続けていた。
「一人になってしまいましたね」
「だから何だ?オレは倒れるつもりはない」
ラルフとブレットは言葉を交えながら戦う。まだ、どちらも傷を負ってはいない。
一方で、ララはノーマたちを追いかけようとしていた。
「通すつもりはないって言ってもね・・・あなたは妖精。私は人間。体の大きさが違うの。私だったら、簡単に捻り潰すわよ?」
『妖精は小さいからこそ狙いにくいの。動きだってすばやいしね』
「だから何だと言うの?妖精なんてね、言ってしまえば私たちにとってドーピングのようなもの。結局、戦うのはほとんど私たちだもの。あなたたちはそれをサポートするものでしかない。大した強さなどないくせに、思い上がらないでくれる?」
ララが挑発的に言うので、マリリはそれを静かに睨みつける。
『あなたこそ思い上がらないで。妖精が弱い存在であると決めつけないで。本来なら、戦闘魔術師の証なのだから、私たちがいなければあなたたちは戦うことは許されない・・・あなたはそうやって妖精を見下して、自身の妖精を捨てたのね』
戦闘魔術師の証であり、それがなければ戦闘は許可されない妖精を、ララは捨てた。
「ふふ、だって、必要ないんですもの。私は妖精の力なんていらない。私だけの力で十分なんだもの」
ララは楽しそうに言った。
「ま、とにかく通してもらうから。あなたと話してばかりもいられない」
そう言って、ララが動こうとしたときだった。
「待て、ララ」
ラルフがブレットから離れ、声をかけてきた。
「もう、何よ、ラルフ?」
「時間切れだ。これ以上、長居は必要ない」
「またおあずけなの?まったく、しょうがないわね」
ラルフとララが去ろうとするので、ブレットは声をあげた。
「待て!お前たち、目的は何だったんだ?」
「鉱石の採掘ですよ。もう必要な分は揃っています。もうあの鉱山から出ていくから、安心してください。あの賊たちも、もう入っては来ないでしょうし」
「賊を倒したのは、ジアッシュ国のためだとでも言いたいのか?」
「まぁ、それも少なからずはあります。恩でも売っておこうかと思いましてね。小さすぎる恩ではありますが」
それだけ答えると、ラルフとララは消えていった。
「先生」
一部始終を見て、安全を確認してからノーマはブレットのもとへとやって来た。
「ノーマ、カキたちは?」
「無事です。カキくんは少し精神的にまいっていますが・・・大丈夫だと思います」
ブレットとノーマは少しだけ言葉を交わして、カキたちのもとへと戻っていった。




