第八十九話 夢属性魔術の影響
ノーマによって、カキたち三人はラルフやララと少し離れたところにいた。
カキたちは半分意識を失っていて、目が虚ろだ。
「“フレイガーベ”」
ノーマは、解除の魔術を唱えた。
「あ・・・」
「・・・!」
「大丈夫?」
意識が戻ってきたシーラとニコラスに、ノーマは声をかける。
「な、何・・・?」
「夢属性魔術・・・幻術の類いね。精神的に追い詰めるものだから、見た目に傷はできないけど・・・二人は大丈夫?」
「あ、はい・・・」
「・・・」
ニコラスは答えないが、すぐに意識が戻ってきたので、まだ大丈夫なほうだろう。
問題は────・・・
「カキくん」
夢属性魔術は解けているはずだが、いまだに夢の中をさ迷っているような感じがする。どこを見ているのかもわからず、ボーッとしている。
「カキくん」
今度は声をかけるだけでなく、肩を軽く叩いた。
カキは、ビクッとし、ゆっくりと顔をあげた。
「大丈夫・・・?」
シーラやニコラスに訊いたときよりも、慎重に、丁寧にノーマは訊いた。
カキは何も答えない。ノーマの声がちゃんと届いているかも怪しい。
カキの様子を見ながら、ノーマはゆっくりと優しく話す。
「ここでは何も起きていないわ。大丈夫。誰も何も起きていない。ブレット先生も、まだ戦っているけど大丈夫」
そして、今度は少し真剣な表情になって言った。
「これは、余計なお世話かもしれないけど・・・二人には話してみてもいいんじゃない?これからも一緒に活動する以上、二人も知っておいた方がいいと思うし。もちろん、無理強いはしない。言いたくなければいいの。あなたが辛くないほうを選んで」
カキは相変わらず何も答えない。
でも、ノーマの声が聞こえていないわけではないと思う。理解も、たぶんできている。
「じゃ、私は少し様子を見てくるね。先生のことも気になるし・・・あまり遠くへは行かないから、あなたたちはここを動かないでね」
ノーマはそれだけ言うと、カキたちのもとを離れていった。
ノーマが離れていってから少しして、カキはやっと口を開いた。
「オレさ、今、ビトの家に住まわしてもらってるんだ」
「え?」
突然の言葉に、シーラは戸惑う。
「一週間くらい前、母さんが死んだんだ」
「え・・・」
今度はシーラだけでなく、ニコラスも少し目を見開いた。
「病気だったんだって。オレはそんなこと全然知らなかった。父さんも・・・たしかに、最近様子がおかしいとは思ってたけど、まさか病気だったなんて」
「うそ・・・だって、カキ、ちゃんと仕事に来てたじゃない。いつもと変わんなかったし・・・本当は、無理してたの・・・?」
シーラは驚きを隠せず、カキに訊く。
「ちゃんと仕事に来てたのは、じっとしてられなかったから。それに、一人でいたくなかったから・・・母さんが死んだのを知ってるのは、うちの親族とブレット隊長とノーマ先生と、ビトん家くらいだ」
カキの言葉に、シーラは何も言えなかった。
ノーマはブレットの様子を見に行くために、駆け出していた。
走りながら、ずっと、カキのことを考えていた。
(あの子たちに手出しはさせないと言っておきながら、私は何をしているの?夢属性魔術は、ただでさえ子どもには影響力があるというのに・・・)
カキの母の死を知っていたがために、ノーマは不甲斐ない想いを抱えていた。
でも、済んでしまったことを悔やんでばかりはいられない。前を向いて、二度と同じ過ちを繰り返さないようにしなければ。
彼らをもっとちゃんと守れるように。




