第七十話 意外な結末を迎えて
ニコラスは魔術と体術の両方を駆使しながら、女と戦っていた。
女は、やはり余裕の笑みを浮かべてはいるが、カキのときのようにはやく終わらせようとは考えていないらしい。ニコラスの戦い方を楽しんでいる様子だ。
「いいわねぇ・・・生徒にしてはなかなかの実力だわ。隙もほとんどない」
女は、惚れ惚れとしているようだった。
「でも、まだまだ私を倒すほどの力はない」
「倒すって言ったら倒すんだよ」
ニコラスは、女の言葉にイラつきながらも、隙は見せない。
「魔方陣もほとんど描かずに魔術を使えてるし、十分な力はあると思うわ。でも、やっぱり私を倒すのは無理よ」
女は、諭すように言う。
「言ったはずだ。オレはこんなところで立ち止まるわけにはいかない、と」
「ふふ・・・そうだったわね」
二人は、しばらく無言のまま、相手を見ていた。
やがて、ほぼ二人同時に手を相手に向かって伸ばした。
「“ストーム・パラー”」
「“フュー・ロッシィ”」
女の”ストーム・パラー“はものすごい勢いでニコラスに迫り、ニコラスの“フュー・ロッシィ”は以前、ノーマの授業で出したときと同じくらいの巨大な火の球となり、女に迫る。
だが、その二つの魔術がぶつかり合う前に、二つとも消滅していった。
ニコラスは、何が起きたのかわからず、目を見張る。
女は、魔術が消えた理由がわかったらしく、至極つまらなさそうな顔をしていた。
「────・・・もう終わりなの、ラルフ?」
女は、後ろに立つ銀髪の眼鏡の男に尋ねた。
「あぁ、今日は十分だ。帰るぞ、ララ」
男は淡々と答える。
「んもう、いいところだったのにぃ・・・」
「いずれまた会うさ。そのときまで、楽しみをとっておけばいい」
「・・・わかったわよ」
それだけ言葉を交わすと、二人はさっきの魔術と同様に、その場から消え去った。消えたのはその二人だけではなく、ほかの侵入者たちも同様に。
残された者たちは、突然の出来事に頭が追いつかず、呆然としていた。
魔法学校を襲った予期せぬ事態から一日が経った。
壊れた校舎の修復や、保護者への対応に教師たちは追われていた。
そんな中で、職員会議が開かれていた。
内容は、生徒たちに戦闘許可を与えたエベラルドの判断は正しかったのか、というものだった。
「エベラルド先生。君は、なかなか優秀な教師です。ですが、まだ若いですから経験が足りません。私たち教師は生徒たちを守る立場にあります。ですから、今回の行動は見過ごすわけにはいきません」
「しかし、彼のほかに誰も戦闘魔術師がいなかった。学校内に侵入されたこと、そして、生徒たちのもとへ駆けつけられなかった我々にも非があるのでは?」
「だからといって、生徒にプロの戦闘魔術師と戦わせるなんて。いくら戦闘コースの生徒だからといって、そんな危険なことをさせていいわけがないでしょう」
「エベラルド先生だって、何も戦わせることが目的で戦闘許可を出したわけじゃないでしょう。生徒が自分自身の身を守るために戦闘許可を与えただけだ。何も悪くないとは言えないが、全部が全部悪いとも言えない」
否定的な意見も肯定的な意見も入り乱れていた。
「────・・・今回のことは、始末書の提出でいいしょう。幸い、生徒は無事ですし、エベラルド先生は優秀な教師です。それ以上の罰はいいでしょう」
校長の判断によって、最終的にエベラルドの罰は軽くすむことになった。
「ただし、これだけは言っておきますよ。私たちは生徒たちはもちろん、保護者の方との信頼関係によって教師という仕事をしています。その信頼を揺るがすような行動は、今後ないように気をつけてください」
「はい。ありがとうございます」
エベラルドは校長に頭を下げ、職員室を出ていった。
今回の事件は、生徒や教師、保護者たちはもちろん、国中を震撼させた。
今後、さらに国の守りを固めていかねばならない。




