第六十八話 まだ生徒だけど
カキは女に向かって駆け出していた。
「ふふ、おもしろい子。楽しませてちょうだい・・・!」
女は楽しそうにそう言い、魔術を繰り出してくる。
カキはそれを避けつつ、女との距離を詰めていく。
「“ドナ・ブリック”」
カキは両手に雷を宿し、女に向かって突進していった。
「“ストーム・パラー”」
そんなカキに対して、女は余裕の笑みで魔術を発動した。
“ストーム・パラー”とは、風で物を切る風属性魔術だ。威力によっては、骨まで軽々と絶つことができる。
「やっべ・・・っ」
避けても、確実に傷を負うことはカキにはわかりきっていた。それほど、凄まじい速さでカキの前までやって来ている。
「“フュー・リーン”」
避けれずにいたカキと女の放った魔術の間に、炎が点っていった。
「死にたいのか、バカ」
魔術を発動したのはニコラスだ。
“フュー・リーン”とは、まるで導火線に火が点いたかのように一直線に炎を出す火属性魔術だ。一度火が点くと簡単には消えない。
「ニコラス!」
「よそ見すんな。死にたいのか」
ニコラスは、内心とてもイラついていた。
カキが何も考えずに、敵前に飛び出したことに。
勝てるはずもない相手に、簡単に立ち向かっていったことに。
何より、カキには敵わないと思ってしまったことに。
(オレだって、こんなところで立ち止まるつもりはないのに、こいつみたいに飛び出せなかった。それどころか、飛び出すのをためらった・・・っ!カキに先を越された気がした!何なんだよ、お前は・・・!)
ニコラスにとって、常にトップに立ち続けることにこそ意味があった。誰も前には行かせないことに意味があった。
なのに、カキは簡単にニコラスの前へと飛び出していった。
ニコラスが、あろうことかカキに遅れをとってしまった。
「ニコラス、二人で倒そうぜ」
「オレに指図すんじゃねぇ」
ニコラスはニコラスで、勝手に戦う。カキのことなど全部無視して。
そうしなければ、本当にカキに先を越されてしまうような気がしていた。
(助けられたなんて、思うんじゃねぇよ。助けたわけじゃねぇ。オレがあの女を倒したかっただけだ。そのために引き剥がしたかっただけだ)
ニコラスは苛立ちと焦りでいっぱいだった。
「あら、あなたもおもしろそう。でもねぇ、いくら二人で仕掛けてきたとしても、あなたたちはあくまで生徒。私には敵わないわ」
「うるさい」
女をギロリと睨みつけて、ニコラスは言う。
「生徒だからなんだ。オレはいずれ、誰の手も届かない戦闘魔術師になる。こんなところで立ち止まるわけにはいかない」
「へぇ・・・ま、私は楽しめればそれでいいけれど」
女は、ニコラスにカキとは違うおもしろさを感じていた。
「おもしろそうな子を二人も見つけられて、すごく幸せだわ」
女はぼそりとそう言った。
「いいわ・・・二人とも、いくらでもかかっていらっしゃい」
女は楽しげにカキとニコラスを見た。
女にとっては、自分が楽しめる戦いができればほかのことはどうでもいいのだ。
「よっし、やるか、ニコラス!」
「オレに指図すんなって言ってんだろ。オレはオレでやる」
カキとニコラスの考えは噛み合わない。
だけど、女を倒すという想いは同じだ。
「やる気満々なのはいいけど、勝つのは私よ?ま、楽しませてちょうだい」
生徒とプロの戦闘魔術師。試合ではなく、本気の戦い。
カキとニコラスは女を倒すため、女は自分が楽しむために戦う。お互いが、負けられない想いを背負って。




