第六十七話 自分たちの学校は
カキは気づけば飛び出し、エベラルドの相手の女の顔を殴り飛ばしていた。
「────・・・カキ!?」
エベラルド、そしてクラスメイトたちも驚いて声をあげる。
「・・・殴った?殴ったわね、私の顔を!ぼく、ただじゃおかないわよ?」
女は、殴られた頬を擦り、口を切って流れ出た血も拭った。
「バカ!逃げろ!お前に勝てるわけないだろ!」
エベラルドの怒号が飛ぶ。
「そうね、逃げたほうがいいわ。逃がすつもりはないけど」
女はカキを煽る。
「逃げたりなんかしねぇ!ここは、オレたちの学校だ。だから、学校がピンチなのに逃げたりしねぇ!!」
カキはエベラルドと女の両方に対して、そう答えた。
「へぇ・・・威勢がいいわね、ぼく。嫌いじゃないわ。ふふ、楽しめそう・・・!」
「お前の相手はオレだろう!?」
カキに目が言っていることに焦ったエベラルドは、女にそう叫ぶ。
「うるさいわね。あなたはもういいわ。あの子のほうがおもしろそう」
そう言って、女はエベラルドを吹き飛ばした。
「がっ・・・!」
「先生!」
エベラルドは、微かに意識はあるものの、すぐに立ち上がれそうにもない。
「あぁ、そうだ、先生。生徒の心配もいいけれど、ほかの先生方の心配もしたほうがいいわよ?」
女は楽しそうに話しだす。
「まぁ、今回は殺しが目的ではないからほどほどにだけど、私たちのボスが“トゥッド・ブルーメ”をかけてたから」
その言葉に、エベラルドは一気に意識が戻った。
「“トゥッド・ブルーメ”だと・・・?あれは黒魔術、禁術だぞ!?」
「そうよ。まぁ、今回は激痛を与えるだけで、内臓を溶かすほどの威力は出してはいないようだけど」
女は冷ややかに答える。
女にとってはどうでもいいのだ。誰が傷つこうが、死んでいこうが。
「今ごろ、さぞ苦しんでるでしょうね。もう、意識は飛んでいってるかも・・・見られないのが残念だわ。ま、私たちの手にかかれば、国王のお気に入りだって容易く殺れるわ。今回はそこまでしてないけど、次に会えば・・・」
「・・・!」
エベラルドは怒りでどうにかなりそうだった。
だけど、冷静さを欠くわけにもいかない。守らなくてはならない生徒たちが、そばにいるのだから。
「さ、そんなことはもうどうでもいいわ。待たせたわね、ぼく。たっぷり遊んであげるわ」
楽しげに女は言い、妖艶な笑みを浮かべる。
「待て!」
そんな女に対し、エベラルドは声をあげ、カキはゾッとし、怯みながらも立ち向かおうとしていた。
「勝ち負けの問題じゃねぇ。戦いを遊びだとも思ってねぇ。オレは、自分の学校を守りたいだけだ!」
カキはそう奮い立たせ、女に向かって駆け出した。
「バカ・・・!」
「先生、やべぇ!」
エベラルドはカキのほうばかりに気をとられて、周りが見えていなかった。
ジャスパーの声によって、いつの間にか他にも敵がやって来ていたことに気づく。
カキを除いた生徒たちは、背中合わせに円になる。
「────・・・先生、本当にカキはバカだよな。オレも同感だよ」
ふいに、ビトはエベラルドにそう言った。もちろん、敵に警戒しながら。
「けどな、バカだけどすげぇって思うんだよ。本当にバカだって思うのに、こういうところに憧れちまうんだよ・・・!」
ビトは、口元に笑みを浮かべてそう言った。
「先生、もうオレたちには戦う道しか見えてねぇよ。ここで逃げ出すようなら、一生戦闘魔術師なんかなれねぇからよ」
ビトの言葉は、ここにいるほとんどの想いと同じだった。ビトがそのすべてを代弁した。
だからこそ、エベラルドの心を強く揺さぶった。
「────・・・緊急事態だ。ただし、無茶はするな!自分の身の安全を一番に考えろ!」
そうして、カキたちのはじめての戦いの幕が上がった。




