第六十一話 特訓か遊びか
六年生になって、二ヶ月が経った。
授業にもすっかり慣れて、最後の一年をそれなりに楽しく過ごせそうだと感じていた頃だった。
カキには、悩んでいることがあった。
それは、来月末から始まる夏休みの過ごし方についてだ。
何だ、そんなことか。そう思う人も少なくはないだろう。たしかに悩むほどでもないように思う。
だが、カキは悩んでいたのだ。それも、切実に。
カキが悩んでいたのは、戦闘魔術師になるまでの日数が短くなってきたから、さらに特訓に明け暮れるか、それとも、魔法学校最後の一年だから遊びに明け暮れるか、というものだった。
聞く人が聞けば、くだらない悩みだと言うだろう。そんなことを悩んでいる間に、特訓なり遊びなりをしろと。
カキは大きくため息を漏らした。
本当に、ここまで悩むことはないと思う。自分でもそれは思っているのだ。
だけど、たぶん、最後の一年ということに引っ掛かっているのだ。いつもと同じでいいのか、と。
「・・・みんなに訊いてみるか」
カキはそう結論を出して、普段の特訓を始めた。
次の日の学校で、さっそくカキは夏休みのことについて尋ねてみた。
「夏休み?そうだなぁ・・・たぶん、いつもと同じように過ごすと思うよ。宿題したり、遊んだり、家のお手伝いしたり」
シーラはそう答えた。
「わ、私も、たぶんそんな感じかな」
マリアンもそう答える。
「いつも通りだろ。何も変わったことなんてしねぇよ」
ビトは煩わしそうに答える。
「夏休みかぁ。特に予定もないし、普通に過ごすと思うよ?」
ナタリオは考えながらそう答える。
「オレはいつも通り、遊びまくるぜ!」
ジャスパーは元気よく答える。
「僕はねぇ、いろんな女の子たちと遊ぶ約束をしてるよー。いやー、楽しみだなぁ」
ケヴィンは嬉しそうに、カキからしてみれば気味悪く感じるように笑って答える。
「夏休み?特に予定もないし、何も考えてないけど」
ラウラは相変わらず、淡々とした口調で答える。
「で、お前は何するんだよ?」
ビトが鬱陶しそうに、でも訊かなければ話が進まないと察して、カキに訊いた。
「迷ってんだよ。特訓に明け暮れるか、遊びに明け暮れるか」
「くだらねぇな」
カキの言葉を、ビトはばっさり切り捨てる。
「ひっでぇ!結構悩んでんだぞ!?」
「そんなことでいちいち悩むなよ・・・」
カキの叫びに、ビトは鬱陶しそうに呟く。
「だって、最後の一年だぞ?卒業したら遊んでる場合でもないだろ?じゃあ、遊ばなきゃ!とも思うし。でも、最後の一年だからこそ、もっと強くなるために特訓しなきゃ!とも思うし・・・どっちがいいと思う!?」
「うざい!」
話しながら迫って来るカキの顔を手で押し返しながら、ビトは言う。
「あぁ、そう考えたら悩むのもちょっとわかるかも」
二人の会話を聞いていたシーラが、カキに同意してきた。
「だろ!?」
カキは嬉しそうにシーラを見る。
「シーラ、カキに同意しなくていいから」
ビトは逆に、眉間にしわを寄せてシーラに言う。
「でも、そんなに悩まなくてもいいんじゃない?いっそ、両方やればいいじゃない。夏休みなんて長いんだし、前半と後半に分けたりしてさ」
シーラは、カキに対してそうアドバイスした。
「あぁ!なるほどな!」
カキはシーラに言われるまで、そんなこと考えもしなかった。
たしかにそのとおりだ。両方やってしまえばいいのだ。
カキの心はすっかり晴れやかになった。




