第五十二話 勝つため、だけど
ニコラスの攻撃もラウラの攻撃もノーマには当たらず、ビトに関してはもう攻撃するつもりもない。
ビトからしてみれば、ニコラスもラウラも『協力』なんてことを考えずに戦っているのだから、やる気もなくす。
「ねぇ、ニコラスくん。変な意地張ってないで、とるべき行動を────・・・」
「うるさい!アンタはこの試合もそうだが、これまでの試合でも一度も魔術を使っていない。やるからには本気でやれよ。アンタがそんなんじゃ、意味ねぇんだよ、こんな試合・・・!」
ノーマの言葉を遮って、ニコラスは荒々しく言う。
「前にも言ったはずだ。オレは誰の手も届かない戦闘魔術師になる、と。そのためには、アンタに本気でやってもらわねぇと、意味ねぇんだよ」
改めて、意味がない、と言い放つニコラスに対し、ノーマは数秒考えを巡らせ、ニコラスから距離をとった。
ニコラスもラウラも自分に近づこうとしないのを見て、ノーマはため息をついた。
「そこまで言われたら仕方ないわね。本気で相手してあげる。でも────・・・」
そこで言葉を区切って、目視では確認できないほどの速さでニコラスのそばまで行き、耳元で囁いた。
「一瞬で終わっても、文句言わないでね」
「・・・!」
それと同時に、ニコラスは一気に吹き飛ばされた。
それを見た瞬間、ラウラが魔方陣を描き、魔術を発動しようとしたが、発動させる前にノーマによって吹き飛ばされた。
「は?嘘だろ?」
「ごめんね、ビトくん」
「・・・っ!」
そして、ビトも呆気なく吹き飛ばされた。
あまりの出来事に、カキたちは声も出せなかった。
ノーマは風属性魔術の“スコール・クラッシュ”を使ったと思われるが、カキたちにはまったく魔術を発動したところが確認できなかった。
“スコール・クラッシュ”は、疾風による攻撃で、威力によっては余裕で骨が砕け散るほどのものだ。
「本当に一瞬で終わっちゃった?」
ノーマがそう言った瞬間だった。
バカでかい火の球が、物凄い勢いでノーマに向かって放たれた。
ニコラスの“フュー・ロッシィ”だ。
「さすがにまだ終わってなかったか」
ノーマはそう呟くと“シールド”を発動し、火の球を防いだ。
次いで、ラウラの“アクア・コーゲル”も、難なく防ぐ。
「くそっ!簡単にやられてたまるか・・・!」
ニコラスは一歩ずつ前に進みながら呟く。
こんなところで、ニコラスは立ち止まってはいられないのだ。
「くそ・・・くそがっ」
勝たなきゃならないんだよ。負けるわけにはいかないんだよ。
そう思えば思うほど、怒りや悔しさで胸が潰されそうになる。
「負けるのも勉強よ。負けたからこそ、得るものだってある」
「負けるにしたって、こんなやられっぱなしでたまるか!」
ノーマは真面目な顔でそう言うが、ニコラスには響かない。
ニコラスの中に、焦りの感情が出てきた。
だけど、『協力』するということに踏み出すことができない。
ニコラスは、自分自身の力のみで勝ちたいのだ。そんなことは不可能だと、嫌というほど思い知らされている状況なのに。
悔しさと焦りによって、いつもの冷静さを欠いてる。下唇を強く噛む。
「────・・・ニコラス、諦めろ」
そんな状況下で、ビトの気の抜けた声が響いた。
「・・・は?」
ニコラスは、怪訝そうな表情でビトの顔を見る。
「勝ちてぇんなら、協力とやらをしようぜ」
ビトは冷静に、そう告げた。




