第三十九話 カキたちの特訓〈前編〉
あの、ニコラスのとんでもない魔術を見て一週間経った金曜日。
「ビト、明後日、暇か?」
「暇だけど、嫌な予感がするから誘いには乗らないぞ」
帰る時間になるや否や訊いてきたカキに、ビトはそう答えた。
「何でだよ!せめて聞いてから答えろよ!」
「わーかったよ・・・ったく、何だよ?」
喚き散らすカキにめんどくさくなったビトは、嫌々ながらも訊いた。
「特訓、しようぜ!魔術の特訓!」
「断る。何でそんなめんどくせぇこと・・・」
カキの用件を即刻断ったビトはため息を漏らす。
「いいじゃねぇか。悪い話じゃないだろ?」
そんなビトに、カキはどうにか説得しようとさらに言う。
それでもビトは首をたてには振らない。もちろん、カキもわかってはいたが。
そんな二人のもとへ、シーラとマリアンがやって来た。
「なになに?特訓?私たちも混ぜてもらっていい?」
どうも会話を聞いていたらしく、シーラはそう言ってきた。
「もちろん!みんなでやったほうが特訓も楽しくなるしな」
カキは快く承諾した。
「シーラちゃんとマリアンちゃんが行くなら僕も行こうかな」
シーラとマリアンが行くと言った瞬間に興味を示したケヴィンもそう言ってきた。
「お前は来るなよ」
カキが、いいよ、と言おうとした瞬間、ビトが鬱陶しそうに言った。
「えー、いいじゃないか。君は来ないんだろ?」
「行くよ。だから、お前は来るな」
何だか禍々しいオーラが見えそうなほど、いつもは冷静なビトの雰囲気が違った。もっとも、ケヴィンと話すときのビトはこんな感じなのだが。
「ま、まぁまぁ、いいじゃねぇか。さっきも言ったけど、大勢のほうが楽しいだろ?大体、お前、さっきは断ったじゃねぇか」
カキが慌てて間に入る。
「気が変わったんだよ」
ビトはイライラした様子でそう言い放つ。
結局、カキ、ビト、シーラ、マリアン、ケヴィンの五人で日曜日に特訓することとなった。
日曜日。カキたちは魔術の特訓に最適な広いアスレチックなどの遊具がない公園へとやって来た。
はじめに、軽くウォーミングアップのような感覚で去年習っていた体術の復習をした。
去年の後半にはだいぶうまくなっていたカキは、さらにうまくなっていた。体術の感覚を忘れないように、毎日やっていたのだ。
適当にペアを変えつつ体術の復習をしたあと、やっと魔術の特訓を始めることになった。
「まずは“フュー・ロッシィ”からだな!」
カキの言葉によって、“フュー・ロッシィ”をそれぞれ順番に大きな石に向かって放つ。
特訓とは言ったが、カキ以外はみんな術を磨きあげるだけでいいのだが、カキはまず術ができない。一番特訓しなくてはならないのは、もちろん言い出しっぺのカキだ。ほかのみんなは、端から見れば付き合わされているだけのようだ。
この中で一番面倒見の良いシーラは、カキにほとんど付きっきりのような状態で術を発動させるコツなどを教えていた。この様子からも、カキは誘ったというよりも特訓を手伝わせているといった感じだ。
「悪い、シーラ。オレに合わせて、自分のやってないだろ?」
「いいの、いいの。カキはいっつも頑張ってるもん。私もそれを手伝いたいだけ」
申し訳なさそうに言うカキに対し、シーラは笑顔で答える。
「それにね、こんな風に休みにみんなで魔術の特訓ができるのってカキのおかげだし。カキがいるといろんな子と仲良くなれてすごく楽しいんだよ」
さらにシーラは言った。
何だか、シーラの言葉に照れ臭くなったカキは、ヘヘッ、と笑って
「ありがとう、シーラ。そう言ってもらえてすごい嬉しい」
と、答えた。




