第三十八話 天才で努力家、だが
ニコラスの“フュー・ロッシィ”はカキたちにとんでもない衝撃を与えた。
そんな中、ノーマは衝撃から気持ちを切り替え、冷静に分析をしていた。
普通に考えて、ニコラスが放った魔術はとても五年生レベルのものではない。下手をすれば、中級魔術師に匹敵するものだ。
仮に、これと同等の魔術を使える五年生がいたとして、これほどのものを放っておきながらニコラスのようにまだまだ余裕があるだろうか。
ニコラスはあれほどのものを放っておきながら、まだ魔力も底をついていないらしく、得意気な笑みを浮かべながら手のひらにはまだ普通サイズではあるが火の玉が浮遊している。
魔術が成功したこと、周りを圧倒させたことに得意気な笑みを浮かべているところは年相応と言えるが、それ以外はまったくだ。
さすがは天才と呼ばれるだけのことはある、とノーマは思った。
ここにきて、と言っても数秒のことだが、やっとノーマはニコラスに声をかけた。
「さすがね、ニコラスくん。学年トップなだけあるわ」
「この程度、どうってことない。オレは誰の手も届かない戦闘魔術師になるんだからな」
ニコラスはそう答えた。本当に何とも思っていなさそうだ。
一方で、ニコラスの本気の魔術を垣間見たカキは、衝撃とともに死に物狂いで頑張らなければという決意のようなものが込み上げてきた。
周りのクラスメイトたちはニコラスの凄さに唖然としていて、誰一人としてノーマの授業を行っていなかったが、カキはやる気になり“フュー・ロッシィ”を繰り出そうとした。
「よし、やるぞ、ナタリオ!」
クラスメイト同様、唖然、どころか顔面蒼白気味のナタリオにカキは声をかけた。
「へ・・・?え!?」
ナタリオは何とも情けない声を出して、カキの方を振り返る。
カキがやる気なのを見て、ナタリオはおろおろしながらも、やっとの思いで“シールド”を発動する。
「いくぞぉ!」
やる気に満ちた声でカキは言い、指先に魔力を込めて、眼前に“フュー・ロッシィ”の魔方陣を描く。そこまではなんとかできたのだ。
だが、やはりとでも言うべきか、カキは“フュー・ロッシィ”を繰り出すことはできなかった。火の玉すら発動できなかったのだ。
宙に描かれた魔方陣は魔術が発動されなかったことでグニャリと歪み、消えた。
あれだけやる気満々で不発に終わってしまったことは、カキに少なからずショックだった。
ナタリオもどうしていいものかわからず、またおろおろしている。
ショックを受けたカキは、それでも、こんなことでめげてはいけないと再度やる気を出して
「もう一回だ!」
と、叫んでまた魔方陣を描いた。
今度こそ、と意気込んで魔術を放ったカキだが、またしても不発に終わる。
それでもカキは諦めずにまた魔方陣を描く。
そんな中、ほかのクラスメイトたちはカキと同じくニコラスに触発されたのか、はたまた単に現実に戻ってきたのか、各自がノーマの授業に戻っていった。
授業を終えたノーマは、ベルトランのもとへ今日のことを報告するために国王の執務室に向かって歩いていた。
そのときのノーマは今日の授業でのニコラスのことを考えて、普段の彼女からは想像もできないような厳しい顔をしている。
ニコラスの魔術を見た際にも思ったが、あれは五年生レベルのものではない。このままの調子で年齢を重ねていけば、彼の言う通り、誰の手も届かない戦闘魔術師となるだろう。
だけど、今のニコラスのままではこれ以上の成長は望めないだろう。
ニコラスが天才と呼ばれるほどの才能を持っているのはノーマも知っている。そして、それでも強くなるために努力をしていることも。
ただ強くなるために努力をしているのなら、努力した分成長できるだろう。
だけど、ニコラスは強くなりたいという考えよりも力を得たいという考えのほうが合っている気がする。その理由が良いものならまだ成長できるだろうが、ニコラスの場合はそうではない。
ニコラスはきっと、何かを犠牲にしてでも力を得たいと思っているだろう。その考えが成長を妨げているということも、どれだけ危うい考えかということもわからずに。
だからこそ、本当にその考えが危険な方向に向かったときは止める者が必要だ。
「そのために、私が彼の監視役としているのよね」
ノーマは厳しい表情の中で少し笑みを浮かべ、誰に言うわけでもなく呟いた。




