第三十六話 新たな気持ちで
五年生になって変わったことといえば、今まで習っていた授業が基礎から応用になったことや、ノーマの実技戦闘学が体術から魔術になったこと。それから、新しい授業が入るためにノーマの授業のほかにも七時間目の授業が週に二、三回入ったことだろうか。
戦闘コースはほかのどのコースよりもハードスケジュールとなる。五年生からは月に一回、あるいは長期休暇などの休みの日に実践訓練が行われる。
戦闘コースがどのコースよりもハードスケジュールなのは、戦闘魔術師が命懸けの仕事だからだ。殉職者は決して少なくはない。
だからこそ、授業を厳しくする先生も多い。それは、簡単に命を落としてほしくないから。先生たちにとって、大事な生徒だから。
この間、エベラルドが授業で話をした。まだ五年生だが、卒業後について。戦闘魔術師となってからについて。
「いいか、みんな。卒業なんてまだまだなんて思っているだろうが、案外あっという間に来てしまう。だから、今のうちから卒業後のことをよく考えてほしいんだ。みんなも知っている通り、戦闘魔術師はとても危険な仕事だ。いつどこで命を落としてしまうかわからない」
エベラルドはみんなの顔を見回しながら話す。
「だからこそ、どんな任務でも気を抜かず、慎重にこなさなければならない。そのためには、戦闘魔術師であるという自覚と覚悟がみんなには必要だ」
エベラルドの言葉から、カキたちはひしひしと戦闘魔術師の危険さを感じた。
「みんなには今のうちから、戦闘魔術師を目指すものとしての自覚と覚悟を、漠然とでもいいから持っていてほしい。この時期からそれを持っているのといないのとでは、実際に戦闘魔術師になってから大きく変わってくる」
それから、とエベラルドは話を続ける。
「これからの学習は、どの授業も本当に戦闘魔術師となってから使えるものが多い。これは、今までの学習内容が使えないものだということではなく、任務としてよくあることを題材としているから、より実践的だということだ。だから、しっかりとどの授業も受けてほしい」
エベラルドの話によって、カキたちはそれぞれが新たな気持ちで学校生活を送ろうと思った。
みんなそれぞれ思い描く未来は違う。そうなると、どんな気持ちで授業を受けるかもそれぞれ変わってくる。覚悟だってそれぞれ違う。
だからこそ、エベラルドはこうして話しているのだ。覚悟なんかは教えられるものではないから。みんながみんな、同じものを持つわけではないから。
────どんなことがあっても乗り越えられる、そんな精神力を持って前に進んでいく。たとえ、どんな困難に立ち塞がれようとも
去年、ノーマが覚悟を持ってほしいと言っていたときにカキが持った覚悟はこんなものだった。
あれから一年。五年生になったということで気持ちを新たに学校生活を送ろうとは思っていた。
だけど、戦闘魔術師に対する覚悟や想いなどは何も変わっていない。というより、思い返しても見なかった。このコースにいるなら、戦闘魔術師になるのは当たり前のことだと思っていたから。
でも、それではダメなんだとエベラルドの言葉で気づかされた。
だから、カキは改めて考える。去年の覚悟のままで戦闘魔術師としてやっていけるのか。
要は、自分の覚悟をいつでもちゃんとわかっていなければいけないのだ。思い返したりできるように、あろうことか忘れたりしないように、心に叩き込まなければいけないのだ。
きっと、覚悟とはそういうものだ。覚悟は忘れてはいけないものだ。
だから、そういうものを持たなければならない。今まで思い返しもしなかった去年の覚悟はきっと、カキには合っていない。新たに考え直す必要がある。
カキは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸して頭の中を空にする。そして、自分が目指す戦闘魔術師を思い浮かべ、そうなってやっていくために必要な覚悟を考える。
「────・・・よし、決めた」
目を開けたカキは決意の固まったような声で言う。
────どんなことがあっても前に進む。後悔があっても、それすらもバネにして。
とにかく前に進むこと。それが、カキの覚悟だ。進む先に明るい道があることを信じて。




