第二十九話 戦闘魔術師を目指すなら
ナタリオが名乗ったのでカキのほうも名前を言って、さっそく先攻後攻を決めて始めた。
が────・・・
「うわぁ!」
ナタリオが早々にカキの攻撃に倒れた。攻撃と言っても、簡単な蹴りなどだが。
「ご、ごめんなさい。僕にはやっぱりムリですー」
倒れただけでなく、そんな弱音を吐くものだからカキも困ってしまった。
(なんか、やりにくいっていうか・・・こいつ、こんなんで本当に戦闘魔術師目指してんのかな?)
何だかひどいが、カキはそんな風に思った。
「ノーマ先生、ちょっと」
カキはノーマに声をかけた。
ノーマは、どうしたの?、という風な表情でカキのもとへとやって来た。
「大丈夫?ナタリオくん」
とりあえず、ノーマはナタリオにそう声をかけた。
「だ、大丈夫です・・・でも、やっぱり僕にはムリですー」
声をかけられたナタリオは、また同じ弱音を吐いた。
そんなナタリオに、ノーマは優しく語りかけた。
「誰にだって、得意、不得意はあるものよ。それに、最初からそんな風に弱音を吐いていたら、できるものもできないままだわ」
その後、ノーマは全員に対して声をかけ、自分に注目させてからさらに言った。
「みんなは戦闘コースの生徒です。だから、どこのコースの生徒よりも覚悟を持っていなければいけません。戦闘魔術師が戦うというのは仕事であり、傷つけ合う命を懸けたものです。つまりは、命の奪い合いすらも起こり得るのです」
ノーマはいつもとは違って、真剣な顔をしていた。
「だからこそ、みんなにはそれ相応の覚悟を持っていて欲しい。誰かと比べるのではなく、ただ自分なりの覚悟を持って欲しい。今はせめて、それを心のどこかに留めておいて」
最後の言葉ではいつものように柔らかい笑みを浮かべて、ノーマはそう言った。
カキたちはノーマの言葉を聞き、考えてみた。自分なりの覚悟というものを。
「どんなことがあっても乗り越えられる、そんな精神力を持って前に進んでいく。たとえ、どんな困難に立ち塞がれようとも」
「何だ、急に?」
帰り道、カキの言葉にビトが訊いた。
「一ヶ月くらい前にノーマ先生が言ってただろ?自分なりの覚悟を持って欲しいって。これがオレの今のところの覚悟だ」
カキはビトにそう答えた。
ビトのほうは興味なさそうにカキの言葉を聞いていた。
と、二人の前にナタリオが歩いていた。ナタリオは二人に気づいて、相変わらずおどおどした様子で言った。
「あ、カ、カキくん。えっと、いつもごめんね。僕なんかのせいでいつもカキくんの足を引っ張っちゃう」
実技戦闘学は一年間はペアを変えない。
それが故に、ケヴィンとペアを組めなかった女子たちが騒いでいたが。
カキとナタリオも四年生の間はずっとペアとなる。それをナタリオはすごく気にしているようだった。
「いや、別に・・・気にすんなよ。みんな同じことができるってわけでもないし」
カキはナタリオの言葉にそう答えた。
ナタリオは納得していないというか、そんな言葉をかけてもらうことすら申し訳ないと思っている感じだ。
「別にいいんじゃねぇの?カキだって同じようなもんだろ」
そんな二人の微妙な空気に、ビトはズバッとそう言った。
「オレは何かよくわかんねぇけど、流れでジャスパーとペアを組むことになってよ。あいつ、できるやつかと思ってたんだけど、こっちが具体的に指示しなきゃ全然ダメで。それに比べちゃ、お前のことは気にするほどでもないんじゃね?」
ビトはさらにそう言った。
ビトはビトでジャスパーとペアを組んで、苦労しているようだった。話を聞く限り、ジャスパーは誰かに指示されなければ攻撃も防御もとんでもない方向にやってしまうらしい。
「で、でも、ジャスパーくんだって、ちゃんと指示されればできるんだよ。だけど、僕は・・・」
何を言っても、ナタリオは性格的に納得してくれないらしい。ネガティブすぎる。
「大丈夫だって。オレだって苦手なことのほうが多いし。それに、ノーマ先生も言ってたろ?覚悟を持てって。ナタリオが覚悟を持ってればそれでいいんじゃねぇか?」
カキはそう言った。
ナタリオはきっと、やればできるのだとカキは思う。ネガティブであるが故に、できないと思っているからできないだけだと。
カキの言葉に、ナタリオは少しだけ笑いかけた。そうだね、と言うように。




