第二十話 できることを
昨日、ニコラスから魔術のコツを教えてもらっているとき、今回の合宿について少しだけ話をした。
「オレさぁ、思うんだけど」
カキは椅子に座っているニコラスに声をかけた。
「この合宿、ペアでやってるじゃん?それってさ、もちろんお互いを高め合うっていう意味もあると思うけど、協力するためなんじゃないのかなぁ」
ニコラスは何も答えてくれない。かわりに、肩をピクリと動かしてはいたが。
カキは話を続けた。
「オレとお前はさぁ、何て言うの、犬猿の仲?だからさ、普段協力とかそういうのしないけど。でもさぁ、今は合宿だし、勉強?のためだからさ、しなくちゃいけないと思うんだよ、協力」
まだニコラスは何も言わない。ただ黙ってカキの言葉を聞いている。
「だからさぁ、明日はお前と協力したいと思ってるんだよ。明日で最後だしな。まぁ、協力って言ってもオレとお前じゃ実力の差がありすぎるからさ。悔しいけど。だから、オレたちなりの協力ってやつをやろうぜ、ニコラス」
カキは笑顔でニコラスのほうを見て言った。
ニコラスはじっとこっちを見て、しばらくして口を開いた。
「────・・・どんなんだよ、オレたちなりの協力って。サバイバル合宿のときも言ったが、オレはお前なんかと協力できる気がしない」
「けど、勝つためには協力も必要だろ?」
カキは少し強い口調で言った。
ニコラスはしばらく黙ったあと、大きくため息をついた。
「勝つため、か。本当のバカか、お前は。お前が協力しなくても、オレがいる限り負けはありえない。お前にとっちゃ、極端に言えば何もしなくても勝てるんだぞ?それをわざわざ自分から協力したいなんて言って、自分への負担をかけて・・・バカだよ、本当に」
「おまっ・・・黙って聞いてれば、人をバカバカと・・・!」
カキは顔をひきつらせながらそう言ったが、ニコラスの顔を見てハッとした。
「そこまで言うならやってやる。オレたちなりの協力ってやつを」
ニコラスは少しワクワクしたような、やる気を感じられるような、何かに火をつけられたようなそんな笑みを浮かべて言った。
(こいつのこんな顔、はじめて見たかも・・・なんか、こっちまでワクワクしてくるじゃん!)
カキはそう思い、同じように笑みを浮かべた。
「で、どういうことを協力する?」
カキはニコラスに訊いた。
「お前、自分で言い出しといて考えなしかよ」
ニコラスは呆れたように呟いた。
「ま、そうだな。お前は好きなようにやれば?お前の行動パターンなんてオレにはわかりきってるし、オレが合わせればいいだけだ」
ニコラスは少し考えてからそう言った。
「わかった。じゃあオレは好きにやるよ。迷惑にならないように頑張る」
カキはニコラスの言葉に同意し、そう言った。
「お前の迷惑は今に始まったことじゃないだろう。どうせどう動いたって、お前は迷惑かけるんだよ、バカだから」
「はぁ!?お前、ホントにいい加減にしろよ。口を開けばバカバカって!」
ニコラスの軽口にカキはそう叫んだ。
そういうわけで今、カキは自分の意思で動いている。
ビトがカキの動きを見極めてくるのはカキにも想定済みだ。ビトの観察眼はよくわかっているし、認めたくはないがカキの動きはある程度の人間にはわかりきっているものだ。
だけど、カキにはニコラスがいる。ニコラスがどう動くかはカキ次第でもあるが、ニコラスもニコラスの意思で動く。ビトはきっと、ニコラスの動きまではわからない。
案外この協力作戦はうまくいくかもしれないとカキは思った。
こうやってお互い自分の意思で動いている間にも、ニコラスがろうそくの火をひとつ消した。カキとニコラスのろうそくは三つとも無事だ。
「マジかよ・・・お前ら案外、足並み揃えてんじゃん」
ビトはそう呟いた。
「どうだ、ビト。オレたちなりの協力は」
カキは自信ありげにそう言った。
「なるほどな。お互いに自分の意思でやるべきこと、できることをやるってか。たしかに、お前らなりの協力だな」
さすがはビト。鋭い観察眼だ。
だけど、これによってビトも少し真剣な表情になった。
やっとここからが本当の意味での試合開始だ。




