46話 建国
「なんか景色が変わんないわね、ずーっと山だし」
「歩きの旅なんてこんなモンだよ」
「ぴゅい」
新たに造物主さんから女神様が貰った土地を歩いているのだが、延々と続く山岳地帯の景色に案の定女神様は飽きてきたらしい。
俺も旅の最初の頃はそんなコト思ったなー。
道中暇だったので造物主さんとも色々話したのだが、なんとと言うかやはりと言うか、造物主さんは俺と同じ世界の出身なのだそうだ。
言わば同郷さんである。
なるほど、あっちの世界の話が通じるはずだよ。
ちなみに造物主さんがこんな世界を創っているのは暇つぶしに楽しむ為らしく、あっちの世界のマンガやアニメ、小説などを参考にしているのだそうだ。
超能力やロボ系の世界も創ってあるらしいので、そのうち造物主さんに頼んでお邪魔させてもらおう。
「そこら辺の動物や植物、空の雲なんかを眺めながらのんびり歩けば、案外楽しいものですよ」
変わらない景色がつまらなくなってきた女神様に、造物主さんが飽きないようにと気を使う。
色んな世界を楽しんでいる造物主さんは、やっぱし旅慣れているようだ。
「魔物でも出てこないかしらね。せっかく体があるんだから、戦ってみたいわ」
「ぴゅいー」
「また壊れたら面倒だから、肉弾戦は止めて」
女神様が強く神力を込めてしまうと、顕現のベースになっている俺の自作人形が壊れてしまうのだ。
つーか、このメンツで対魔物戦とか過剰戦力にも程があるだろ。
「まぁ、そろそろ峠を越えるから景色も変わるし、村も見えてくるはずだよ」
ちょっとした変化と目的意識があれば、退屈も少しは紛れるだろう。
…………
「村、見えないんですけど?」
「うむ、これは想定外だった」
森林の高さが半端なくて、高い建物の無い村は欠片も見えない。
「あー、ほら、僕が新しく作った海なら見えてるよ。うん、我ながらいい仕事だなぁ」
確かに湖にしか見えない海は、広いのでその分少し見えている。
急にこんな山の中に海が出来たんだから、村の人はさぞ驚いてるだろうなー。
獣道みたいな道しかないので、適当に切り開いて馬車でもすれ違えるような道路にしていく。
国になった後を考えて、コトのついでにというヤツである。
当然今まで通ってきた道も拡張済みだ。
道を作りつつ半分飛びながら半分歩いていくと、数日でようやく村っぽい感じの場所――その塀が見えてきた。
こちらの方向は村の入り口では無かったようだ。
回り込もうかと言おうと思ったら、既に造物主さんが木の塀を木の門に作り替えていた。
「無断で塀を門にするとかって、どうよ」
そこはひとこと断りを入れません? 造物主さん。
「だって不便でしょ? せっかく道も作っちゃった事だしさ」
いいのかなー……まぁとりあえず入っちゃうか。
…………
入ったのはこの土地で二つある村の小さいほう、ニイコチ村である。
人口は800人余りでこれといった産業も無い、狭い農地と採取と狩猟で生活を成り立たせている村だ。
山岳地帯に囲まれた高地なので、冬は厳しく長い。
たぶん今年から、造物主さんか女神様に気候変えられちゃうけど。
村にはモローササ聖王国の兵士が5人、役人が2人常駐していた。
この土地が女神アルミトゥシュの土地になるコト、俺が王になって国を造ることを伝えたら、ポカンとした顔をしていた。
まぁ、特に何事も無く聞き流されてしまったので、モメるコトも無く済んだんだけどね。
村長さんのトコにもお邪魔して、またこの土地が女神アルミトゥシュの土地になること、俺が王になって国を造ることを伝えた。
結果『それで村の生活が楽になるなら大歓迎ですよ』と、無表情で言われてしまった。
挨拶も終わったので村を見て回ると、見事に何も無かった。
イヤ、あるっちゃあるんだけど、店と思しき場所には毛皮とか肉とか木の実とか木工芸品くらいしか見当たらない。
木の実を買おうとしてお金を出そうとしたら、物々交換のほうがいいと言われた。
物流が極細で行商人も滅多に来ないので、お金は持っていても使いづらいのだそうだ。
国造りとしては、まずは物流……イヤ、食料を増産して余らせるのが先か。
うむ、正解が解らん。
税は普通に取られているらしいが、この村の経済力では村人も辛いだろうし、国だって兵と役人の給料や道の整備などを考えたら割に合わんだろうに。
…………
よし! とりあえず次に行こう。
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森林伐採して道を作りながら移動していると、湖のほとりに出てしまった。
「この湖って……」
「あぁ、そういえばここに造ったんだっけ。忘れてたよ」
そっか、湖も一つ造ったんだったか。
「いい眺めね、ここにお城とか作ろうか? 山と湖を眺めながらの生活とか楽しそう」
ウナギの養殖場になる予定だけどね……と言おうかと思ったが止めた、機嫌を損ねて勝ち目のない夫婦喧嘩には突入したくない。
こういう時、臆病で丁度いいのよねー。
あ、アホなコト考えてる間に城ができてしまった……。
早いねー女神様。
山脈に負けない存在感に加えて湖を睥睨する巨大で荘厳な城……二人暮らしにはちと大きすぎませんか?
「新居完成ね」
「新居はいいけど、引っ越しは近隣住民への挨拶が済んでからだよ」
女神様が早速城へ向かおうとするが、造物主さんに言われてしぶしぶ諦めた。
さらに道を開きながら、数日掛けて二つ目のニンジェミ村へ。
ニンジェミ村は先に立ち寄ったニイコチ村より大きく人口は1300人弱、経済状況も似たようなモノで面白みは無い。
自分と関係が無かったら、まず立ち寄らなかっただろうなー。
ここでも兵隊さん・役人さん・村長さんにご挨拶。
へーそうなの的な反応の中で、一人の役人さんだけが関心を示してくれた。
せっかくなので新しくできる国に、勧誘しておいた。
役所仕事ができそうな人材が、皆無なもので。
…………
ご挨拶も終わったので、新居へと戻ろう。
女神様が完全に徒歩に飽きたようなので、今度は全て空を飛んでだ。
「うーん! やっぱり我が家はいいわね!」
「そういうのは住み慣れた我が家で言うセリフだぞ、新居だとちょっと違うかな」
「そうなの?」
「そうだよ」
ウチの嫁さんは神の身では使う機会の無かった言ってみたいセリフが山積しているらしいのだが、なぜか妙なシチュエーションでそれが出てくる。
使ってみたいのは解るんだけどさ。
新居での初食事は、カレーライスにした。
理由は特にない、俺が食べたかっただけだ。
オーソドックスなポークカレー、わざわざ時間魔法まで使った二日目のカレーである。
「なるほど、これがカレーライスなのね! 匂いだけは知ってたけど、食べるのは初めてだわ」
女神様は食べるものは何でも珍しがって喜んでくれるので、食べさせ甲斐がある。
ここんトコはドラ吉まで、面白がって腕を振るっていた。
「食べる? それは違うな。あっちの世界では『カレーは飲み物』という言葉があってだね……」
「ふむふむ」
「ちょっと造物主さん、変なコトをウチの嫁さんに教えないでくれます?」
このおっさんも、けっこう油断がならない。
自分が面白いというコトを優先しようとする癖があるのだ。
「はむはむ……これ辛いんだね……うん、舌の上でとろけるようだわ」
「イヤ、それもなんか使いどこが違うから」
「ぴゅい」
ついにドラ吉までもが、ツッコミを入れ始めた。
「そもそもカレーのルー自体、元々溶けてるから。そういうのは基本、口に入れた段階で固形物の時に使うのが正解だから」
「ぴゅ」
「ふーん」
というかどこでそんな表現覚えた?
「ていうかこれ、ソースじゃないんだ」
「うむ、ソースじゃなくてカレールーだな」
「ぴゅいー」
「芳醇で濃厚なソースが口いっぱいに広がって、とか言いたかったのに」
ウチの嫁さんはグルメレポーターでも目指しているのだろうか?
「うん、この味ね!」
今度はひと口食べて、CMっぽく一言。
普通に美味しいのひと言でいいだろうに……。
「その言葉、読点を取ってもう一度言ってごら……」
「やめんか!」
造物主! おめーは小学生か!
…………
最近の王家の食卓は、毎回このような感じで過ぎていくのであった。
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挨拶回りも終わり新居にも住み始めたところで、本格的に国づくりが始まった。
まず、各地の神様より全世界に告知をしてもらう。
なんと神様が空から人々に対してお話をしてくれるという、一般住民にとっては奇跡とも呼べるような派手な告知である。
全世界大騒ぎ。
この辺の土地は女神アルミトゥシュ様の土地になりましたよー、王様にはナミタロー・ヒラナカっていう大英雄がなりますよーという告知がされたのだが、土地の件はともかく王様の件は国同士のお話し合いが若干必要であった。
ついこの間まで滞在していたスコーシァン神の土地は、俺が魔王を倒した場所でもあるし、ルボッチ帝国打倒にも絡んでいたので、現在の支配勢力も好意的ですぐに友好的な使者が来た。
ネルシャの住むアシカロターリ神の土地――グリマント王国も、そもそも王様とは旧知の仲というコトもあり、こちらもすぐに友好的な使者がやってきた。
ドルァポタ神の土地――バイリバル王国には勇者ケルタニアンと師匠である三賢者がいるので、そちらから偉いさんに働きかけてもらっている。
トレマステ神の土地――テオスト王国には勇者ナルキスくんと高名な冒険者のはずの婆さんたちがいるので、友好的になれるよう動いてもらった。
ちなみに連絡には、ドラ吉が伝書竜として飛んでいる……無沙汰の詫びに、山ほどの土産物を持って。
残りは南方のサオナッチ神の土地のムイタリア連合国と、ここいらの村を支配下に置いていたモリャチップ神の土地のモローササ聖王国である。
ここはモローササ聖王国が勝手に支配地にしていた土地ではあるので、『寄こせ』『はいそうですか』とはいかないだろうと思っていたのだが、あっさり友好の使者が来た。
なんでもサオナッチ神様が、この地域の代替地として少し大きめの島を新たな国土として授けてくれたのだそうだ。
この話を聞いていた造物主さんが不自然にニヤニヤしていた、たぶん主犯はヤツであろう。
つーか、他にそんなコトできるヤツが思い浮かばん。
残るはムイタリア連合国だが、重要事項は七つある小国家の話し合いで決めるらしいので、当分は決まらんだろう。
ここはのんびり待ちだな。
…………
モローササ王国の兵隊さんと役人さんは、兵隊さんが2人と役人さんが3人残ってくれた。
兵隊さんには戦闘というより警察的な仕事を、役人さんには書類仕事をお願いしておく。
とりあえず税の率を大幅に下げたが、彼らの給料くらいはなんとかなりそうだ。
経済を豊かにしたいが、その前に食料事情の改善を図ろう。
海や湖もできたのでそれだけでも違うだろうが、ここはやっぱり畑だ。
それぞれの村で新しい畑を大量に魔法で開墾、造物主さんが豊かな土地にしてくれたはずなので、これからは食料事情も良くなるはずである。
「うむ、なかなかいい畑ができたな」
「豊かな村には、まずいい畑よね」
この畑づくりは、初めての夫婦の共同作業の結果である。
魔法と神力で村の住民のために耕してみた。
「ちょっと試しに小麦でも蒔いてみようか」
結果:種蒔いて三日で収穫できました。
イヤ、豊かな土地なのはいいけど、さすがに非常識だろうよ?
造物主さんにクレーム入れたら、年に三回収穫できる程度にまで豊かさを下げてくれた。
それでも十分非常識だが。
やりたいコトはたくさんあるが、とにかく人の数と教育が足りない。
漁業程度ならなんとかなりそうだが、鉱山での採掘は人手もノウハウも足りないし、当然ながらそこから派生する金属加工の職人なんかもいない。鍋や釜の穴を塞ぐくらいの人材が精々だ。
木工や簡単な大工仕事なんかは案外高い技術力を持ってはいるが、石工はおらず石材は積み上げて土で固める程度、魔道具なんて作れる人材などは皆無である。
冒険者ギルドなんて組織もあるワケがなく、魔物が村の近くに出ると村人が総出で狩りに行くか、モローササ聖王国に頼んで討伐隊を出してもらうしかなかったという有様だ。
よく維持できてたよなー、この2つの村。
でもこの辺は素材集めにはいいんだよね、魔物も植物も生態系が多種多様だし。
いろんな職業の職人さえ誘致できれば、村は栄える気がする。
俺? 俺はやらんよ。
道づくりとかの公共事業には手を出すけど、作り物系は品質が良すぎて却って経済を混乱させそうだし、そもそも俺がやってしまっては国民の収益にならない、俺個人が豊かになっても意味が無いのだ。
それ以外にもやらねばならないコトは大量にあるのだろうが、いかんせん経験も知識も不足しているので手探りである。
丸投げできるような人材とか、欲しいよなー。
とりあえず、目につくトコからやってみよう。
俺たちの国づくりはこれからだ!
イヤ、だから打ち切りエンドじゃないから……。
次話で最終話となります。




