最終話 異世界召喚
「よぉ、ナミタロー! 久しぶりだな!」
皺と彫りの深いその懐かしい顔は、ドルァポタ神の勇者ケルタニアン――ケルさんであった。
ケルさん相手に玉座で謁見とかは俺としては微妙にイヤだったので、ドラ吉と一緒に控室へと自ら顔を出している。
「久しぶり、ケルさん。変わんないねー」
「ぴぴゅいー」
「そりゃ爺いだからな。まぁ、これから変わるとしたら死んで骨になるくらいだ」
相変わらずの軽口が、耳に心地いい。
「それよりそこの湖は、何が釣れるんだ? 噂じゃ海も出来たそうじゃねぇか、こんな山の中で海釣りたぁ面白そうだよな」
「俺が王様になったとかより、そっちが先かよ」
「ぴー」
釣り馬鹿の爺いめ。
「ナミタローの国なら他国の勇者を害するとかあり得ねぇと思って、ドルァポタ神様の土地から初めて出てきたんだぞ? そうなりゃまずは、初めての釣り場での釣りだろうよ!」
「気持ちは解らんでもないけどさ」
「ぴゅい」
「だろ? もしお前が俺の立場だったら、絶対最初に名物の食いもんを探しに行くだろ。最初に顔を見に来たんだから、むしろ褒めてくれよ」
そう言われると確かに……。
「ところで、師匠たちも一緒だって聞いたんだけど?」
「あぁ、あいつらなら城ん中うろついてるはずだ。城をつくってるのが見たことも無い素材だとか言って大騒ぎしてたし、灯りなんかの魔道具も仕組みが全然解らんとか言ってバラそうとしてたぞ」
あの人たちなら、さもありなん。
ガチャリ、と音がして扉が開く。
噂をすればなんとやら、赤青黄の三色の装束に身を包んだ我が師匠たちが、その姿を見せたのであった。
「師匠……」
懐かしいその顔触れ……おれがこの世界に来て初めて会った人たち。
この世界のコトを教えてくれた、親切な爺さんたち……。
「ドラ吉ではないか!」
「ドラ吉じゃ!」
「ドラ吉じゃのぅ! 久しぶりだのぅ!」
「ぴゅいー!」
うむ、知ってた。
こいつらは、こういうヤツらだ。
「こら爺いども! いいかげんにしとけよ! あんまし弟子をないがしろにすると、旅の途中で手に入れた珍しい素材とか譲ってやんねーぞ!」
「何! 珍しい素材じゃと!」
「どんな素材を手に入れた!」
「欲しいのぅ! せめて見たいのだのぅ!」
素材欲しさに手のひら返しやがった!
そう、こういうヤツらなのだ。
自分勝手で職人気質で、お人好しの爺いどもだ。
「まずは海王龍素材だな、凄くでかかったから山ほどあるぞ。そうだ! ノーパシー深海国に行って、深海龍の親子の写真も撮ってきたんだよ、タマゴはスケッチだけど、子供の写真とか無かったでしょ? あと素材とかじゃないんだけど、ゴブリン英雄の進化条件って知ってる? なんかゴブリンを従魔にして育ててたら進化したんだけどさ……」
「海王龍素材じゃと!」
「ノーパシー深海国とな!」
「ゴブリン英雄なんて聞いた事もないんじゃのぅ!」
旅の話でわいわいと盛り上がり、素材を見てはあーだこーだとこねくり回す。
やがて話題はこの地で入手できるモノの話となり、クジャの大森林よりこの地のほうが多岐にわたる素材を入手できるコトが明らかとなった。
「だったら研究のために、こっちに引っ越そうかのぅ」
赤師匠、急に妙なコト言い出さんで下さい。
「うむ、だったらまず研究塔を建てねばな!」
青師匠、まず王様である俺の許可を取って下さい。
「ここの南側の土地が良さそうじゃ! 素材を集めるには最適のはずじゃ!」
黄師匠、城からの景観とか考えて下さい。
「早速行くぞ!」「塔を建てるのじゃ!」「まず整地なんだのぅ!」
師匠たちはバタバタと外へ出て行ってしまった。
「ナミタロー、お前もあんな奴らを師匠に持って大変だな」
ケルさんが、俺の肩をポンポンしながら同情してくれた。
「王様って、何なんでしょうね……」
「ぴゅいー」
ドラ吉も、俺の頭をポンポンしてくれるようだ。
しばらくして、南の方から爆発音と地響きが聞こえてきた。
たぶん赤師匠の魔法がさく裂したんだろう。
ハァ……どうせあの人たちは俺の言うコトなんか聞いてくれないだろうし、もう俺の心の健康のために、研究者兼職人を誘致したと思うコトにしようっと。
…………
赤青黄の三色の塔の建築が半ばまで進んだころ、アシカロターリ神の勇者であるネルシャと、おまけでドルッポさんがやってきた。
ネルシャは少し背が伸びたか?
「ナミタロー陛下、この度は建国と国王就任を……」
「ししょー! 元気だったー?」
「ぴゅいー!」
「ドラ吉もこないだぶりー!」
ドルッポさん、そんな堅苦しい挨拶とかいらんから。
ネルシャよ、俺はもちろん元気だった……あれ? 待てよ?
「元気だったと言えるのかどうか微妙かもしんない。一回死んじゃったからなー」
「ししょー……死んだって、誰が?」
「俺が」
しばしの沈黙……。
ドラ吉がいつの間にかネルシャの左肩に移動しているな。
「ししょー、生きてるよね?」
「生きてるぞ」
「死んだと言わなかったか?」
「言ったぞ」
ドルッポさん、敬語どこ行った?
「いやー、酔っぱらおうと思って毒無効スキルをオフにしたトコに毒盛られちゃってさー。で、一回死んじゃってその後復活したんだわ」
ドルッポさんが絶句し、ネルシャが呆れたジト目になる。
「ししょー、とうとう人間辞めちゃったんだね……」
「辞めてねーよ! あ、そうそう、自分の生首を見るという貴重な体験をしたぞ。感想聞きたい?」
…………
グリマント王国を出てからの話で盛り上がったり呆れられたりしていると、ウチの嫁さんが入ってきた。
「ナミタロー、今日のお昼ご飯ってなにー?」
ウチの嫁さん――女神アルミトゥシュ様は、食べるコトが大好きである。
まぁ、今まで体が無くて食べられなかったからなー、その反動もあるのだろう。
本当は食べなくてもいいくせに、食べないと気が済まないらしい。
ちなみに食べたモノは100%エネルギーに変換されるので、太るコトは無い。
もちろん、う〇こも出ない。
……イヤ、別に残念じゃないから。何度も言うけど、そういう性癖とか無いからね。
「えーと……ネルシャです。はじめましてー」
うむ、ちゃんと挨拶ができているな。良い子だ。
「お初にお目にかかる、グリマント王国で最近まで宰相をしておりました、ドルッポと申します」
ドルッポさんはどういう態度に出ていいか、探りながらの挨拶になってますな。
「あー! ネルシャちゃんにドルッポね! そっか、初めましてになるのよね……えっと初めまして、ナミタローの嫁でアルミトゥシュです。よろしくね」
さらっと爆弾発言かましたね。
いいのかー? 名前出しちゃうと女神様だってバレるかもしんないぞー。
「おお! 王妃様であられましたか! アルミトゥシュ様……女神様と同じ名前でございますな。お姿も神殿にある女神様の像とそっくりで……いや、まさか……本物!?」
ほら、ドルッポさんが固まったぞー。どう誤魔化すつもりだよ。
「もちろん本物よ。他の何に見えるというの?」
誤魔化さないの!?
「ちょっと待て! いいのか? 神様だってバラしちゃって」
「別に問題ないわよ」
「そうなの?」
「駄目なのは、神体のままでむやみに人前に出ることだもの。ナミタローに作ってもらった人形に入ってるんだから問題無し。だいたいこれが駄目なら、巫女に降りるのだって駄目になるじゃない? だいたいそういう時なんか、周り神官だらけで人に囲まれてるし」
そう言われると確かに……。
「こ、これはその、本物の女神アルミトゥシュ様だとは思わず失礼を……」
ドルッポさん、たとえ神様が相手だとしても、土下座はなんか違うと思うぞ。
それはそうと、さっきからネルシャが大人しい。
様子を見ると、焦点の合わぬ目をして何やら呟いているようだ。
一体何を……。
「ししょーの……お嫁さん……ししょーの……」
あれ? まさかネルシャは俺が嫁を貰ったのが、そんなにショックだったのか?
ネルシャ、お前まさか俺のコトを……。
「ししょーって、結婚できたんだ……」
コラ、ちょっと待て。
「ひょっとしてお前、俺が結婚できない人だとか思ってたりしたのか?」
「えー! だってししょーだよ! 女の子の扱いが雑で、行動が自由過ぎて、人間離れしたおじさんだよ? 結婚してくれる相手がいるとか信じられないよー」
なんて失礼な弟子だ。
「あのな、言っとくけど俺の嫁さんのほうが、生死に関わるくらい俺の扱いが雑で、行動が傍若無人で、神様だから人間離れどころじゃ無いんだぞ? そんなのは結婚のできるできないとかとは関係無いから」
「ふーん、でもなんかなぁ……」
「イヤ、そこは納得しろよ」
そんな会話をしていたら、背後に神気の増大を検知してしまった。
あ、これヤバいかもしんない……。
振り返ると、神の怒りを湛えた笑顔が目の前に。
「旦那様の扱いが雑で、行動が傍若無人で、人間離れした嫁で申し訳ございませんね」
「それはそのー、なんと言いますかー」
「あとでじっくりとお話ししましょうね、旦那様?」
「えーと、申し訳ございません。うっかり口が滑りました」
「あらまぁ、それはいけませんわね。ではそのような口は、塞いでしまったほうが良さそうですね」
いかん、このままでは口を塞がれてしまう……生命的に。
何か誤魔化す話題は……そうだ!
「そ、そうだ! 内政を担当してくれる人材が見つかったぞ! ほら、前に言ってたじゃん、内政は任せられる人を見つけて任せればいいって!」
「ふーん」
「ほら、ここにいるドルッポさんはグリマント王国の元宰相で有能な人だから、安心して内政を任せられるよ!」
「ふむ」
神の怒りはどうやら矛を収めてくれたようで、女神様は値踏みするようにドルッポさんを眺め始めた。
「な! ちょっと待てナミタロー。急にそんな話を!」
「国の内政とかできる人がいないんだよ、助けると思って頼むよ。お願い! ドルッポさん!」
嫁の怒りを誤魔化し、同時に内政を押し付ける人材を確保する――うむ、我ながら良い策だ。
「しかし、私にはネルシャの育成という仕事が……」
それはたぶん大丈夫! なぜならば!
「ネルシャ、ドルッポさん役に立ってるか?」
「ううん全然、口うるさいだけだよ」
「よし! 障害は無くなった!」
「何ー!」
ショックを受けている様だが、世間の評価なんてそんなもんだ。
「いいよね? ドルッポさんで」
念のため、嫁にお伺いを立ててみる。
「そうね、まぁ合格にしておくわ」
よし、決まりだ。
「私がこの国の内政ですか……」
「あら、嫌なの?」
「いいえ! その!」
この世界の人間はけっこう信心深く、神様というモノに対してかなりの信仰心というヤツを持っている。
当然ドルッポさんも、女神様直々のご指名を断るというコトも無く、無事宰相に就任してくれる運びとなったのであった。
ついでだから人材育成も丸投げしてしまおう。
「ところでナミタロー、お話の件忘れて無いわよね?」
うむ、嫁の怒りは誤魔化し切れてなかったようだ。
お話終わった後で、復活のスキル使う羽目になってないといいなー。
…………
嫁のお話が終わり疲れ切ったトコに、また来客が来た。
話の流れ的にお察しだろうが、ナルキスくんたち勇者パーティーとウメさんトメさんである。
立て続けの来客なので、挨拶の流れはここでは割愛してしまおう。
「で、どうなの? モゲくんの入った勇者パーティーは、上手く機能してる?」
俺がテオスト王国を出る直前に勇者パーティーに加入したモゲくんは当時まだ学生で、魔導士であり紅顔の美少年であった。
幼さはかなり抜けた感じはするが、相変わらずの肌のキレイな少年だ。
「さすがに最初の頃は彼を庇いながらという感じでしたが、今はもうモゲのいないパーティーなんて考えられないくらい活躍してくれてますよ」
「いえ、そんなには……」
ナルキスくんの言葉に、モゲくんが照れている。
モゲくんは出会った頃と変わらず、シャイな性格のままらしい。
「ナルキスくんがそこまで褒めるんなら、モゲくんは立派に勇者パーティーの一員として機能してるって言うコトだね」
「あとは前衛がもう一人いれば、万全な体制になれるのですが……」
そう言いながらイーシリンくんが、ちらっとナルキスくんへと視線を向ける。
なるほど……ナルキスくんは相変わらず、自分の好みの男の子しかパーティーに入れたくないらしいね。
そこに妥協しないのは、良いコトなのか悪いコトなのか……。
ナルキスくんを中心に、左に落ち着いた感じのイーシリンくんが正妻の貫禄を醸しつつ座っている。
そして右には、誉め言葉に若干顔を初々しく赤らめながら、モゲくんが座っている。
もう一人増えたら、座る位置はどこになるのだろうか? はっ! まさか膝の上!
駄目だ、この人たち見てたら思考が変な方向に行きそうな気がする。
話題を変えよう。
「そうだ! 実は今ドルァポタ神の勇者とアシカロターリ神の勇者もここに来てるんだよ、勇者同士が会うとかなかなか無いんじゃないか? せっかくだから会っておいでよ。ドルァポタ神の勇者はたぶん湖で釣りをしてるはずだし、アシカロターリ神の勇者は外でドラ吉と遊んでるはずだから」
「本当ですか! だったら是非会ってみたいですね。模擬戦とか受けてくれるかな?」
「そういえばここに来た時に、ドラ吉くんと一緒にサンドイッチを食べている女の子がいました。ひょっとして、あの子が勇者ですか?」
「あぁ、ぼくも覚えてます! あのサンドイッチ美味しそうでしたよね!」
そういや、昼飯作るのをすっかり忘れてたなー。
まぁ、ドラ吉がなんとかしてくれたみたいだし、いいか。
あ、嫁さんの昼メシ……まぁ食べなくても平気だから、こっちも考えなくていいか。
ナルキスくんたちは外へと向かって行った。
残っているのはウメさんとトメさんなのだが……ちょっと元気が無いというか、ダレているみたいだ。
無駄なバイタリティーとお節介が取り柄の婆さんたちなのに、どした?
「ウメさんトメさん、なんか元気なさげだけど……はっ! まさか寿命が!」
「違うよ。勝手に殺すんじゃない! なんていうか、この国があんまりにも何も無いから呆れてるのさ」
「そうだよ! この国何にも無いから、お土産も買えやしないじゃないか。あたいなんか孫たちに小遣いまで貰って来たのに、これじゃ顔向けできないよ」
「仕方ないだろ? 元々村が2つしかない場所なんだから、土産物とか期待されても困るぞ」
そういや大自然と木工品くらいしか売りが無いなこの土地……観光客向けに、何か考えるか?
「暇だったら依頼でも受けてみようかってトメと相談して、いざ冒険者ギルドを探してみたらそれも無いときた」
「冒険者ギルドの無い国なんて、聞いたことも無いよ。せっかくこれだけ素材に溢れた土地なのに、勿体ないねぇ」
ギルドがあっても、住民に依頼出す余裕とか無いからなー。
「冒険者ギルドは、そのうち誘致する予定なんだよ。てかさ、何だったら作ってくれてもいいんだよ?」
俺のその言葉に反応して、婆さんたちの目がキラリと光る。
「そうかい! そうだね! 無けりゃ作りゃいいんだ!」
「面白そうだねぇ。ウメ、どんな素材が採れるか先に調査しとくかい?」
乗り気になっちゃったよ……まぁいいか、ギルド誘致の手間が省けて。
お節介だが頼りがいのある婆さんたちのやるコトだから、案外すぐに軌道に乗りそうな気もするし。
「そうだ、素材のコトなら南に建築中の塔があるから、そこに行くといいよ。俺の師匠でもある素材に詳しい賢者の爺さんたちがいるはずだから、聞くなり相談するなりしてみれば?」
「そりゃいいね!」
「早速行ってみようじゃないか!」
ウメさんとトメさんは師匠たちの元へと向かって行ったのであった。
自由な人たち同士が合流か。
カオスな状況になりそうな気がする……。
…………
勇者連中が気になったので外へ出てみると、ネルシャとケルさんが模擬戦をしていた。
ナルキスくんのパーティーが近くに座っていたので聞いてみたら、勇者全員で総当たり戦をしているらしい。
ちなみにナルキスくんは既に2敗済みだそうで、少し落ち込んでいた。
決着は、俺が見物し始めてから程なく着いた。
「じいちゃん! 覚悟!」
「甘いぜ! 嬢ちゃん!」
ネルシャ渾身の突きがケルさんの残像を貫き、ケルさんの模擬専用の剣がコツンとネルシャの頭を叩いて模擬戦は終了した。
「負けたー、悔しい―! もうちょっとだったのに」
「そう落ち込むなよ嬢ちゃん、対人戦は経験だからな。嬢ちゃんなら、経験積めば間違いなく俺より強くなるぞ。まぁ今はまだ俺の方が強いけどな!」
イヤ、ケルさん……ネルシャ相手にそのドヤ顔はさすがに大人げないから
あれ? そういやドラ吉が見当たらんなー。
昼飯食い損ねたから、ネルシャと食べていたというサンドイッチが余ってたら貰おうと思ったのだが……。
「ドラ吉どこ行ったー?」
「あれー? さっきまでそこで見てたのに」
ネルシャも知らんか。
「ドラ吉くんなら、湖のほうに飛んでいきましたよ」
イーシリンくんがドラ吉の向かった方向を指さし、教えてくれた。
湖か……ふむ。
「晩飯は、湖畔でバーベキューってのもいいな……」
紅葉はもう終わりの時期で正直もう肌寒いが、眺めの良い場所を自分たちだけで独占して楽しむバーベキューというのは楽しいモノだ。
みんなの賛同も得られたので、とりあえず全員で湖畔へ。
湖面には薄く霧が掛かっていたが、これもまた景色としては良しだ。
「ここら辺でいいかな?」
小高くなっていて湖面全体が見渡せる場所があった、今の内から椅子とテーブルを配置しておこう。
ケルさんは晩飯に貢献すべく、早速釣り糸を垂らし始めたようだ。
「ドラ吉いないねー」
「湖の中に潜ってるんじゃないかな?」
「ケルさんに釣られたりしないだろうなー」
俺が釣り上げた前科があるから、心配である。
「あれはなんでしょう?」
モゲくんが何か見つけたようだ。
あっちかな? 霧で良く見えないけど……何か太い棒のようなモノが湖面に突き立った状態で近づいてくる。
段々輪郭がハッキリして……ん? アレは首か? なんか竜の首っぽく見える。
うむ、ドラ吉だね
聖竜化して元の大きさに戻ったドラ吉が、湖中から首だけ出してこちらに向かってくる……。
「お前はどこぞのUMAか!」
UMA――それは湖で目撃される恐竜などに代表される、未確認生物である。
待てよ、UMAというのは確か観光にも繋がるという話を聞いたコトがある。
ドラ吉に時々元のサイズに戻ってもらって、今みたいに首だけ出したトコを目撃させれば……。
「ねぇししょー、ゆーまって何?」
あぁ、ネルシャは知らんか。
「僕も知らないんですが、ゆうまというのは」
あれ? ナルキスくんも知らない?
聞いてみたら、みんなUMAというモノを知らなかった……というよりUMAという概念が無いようだ。
イヤ、未確認生物という概念はあるのだろうが、この世界ではそんなもの珍しくもなんとも無いという認識であるらしい。
くそー、せっかく良い観光地計画を見つけたと思ったのに!
ドラ吉が小型化して戻ってきた。
湖で狩ってきた獲物を、湖畔でのバーベキュー用にと提供してくれるらしい。
だけどなドラ吉、バーベキューに巨大ナマズってのはちょっと合わないと思うんだ。
かば焼きにでもしてみるかな……。
…………
晩飯のバーベキュー大会も終わり、みんな眠りにつく為にそれぞれに割り当てられた部屋へ。
宿なんてモノはこの辺には無いので、宿泊は城である。
俺はなんとなく寝付けなかったので、城内をお散歩している。
ふと窓の外を見ると、赤青黄の三色の塔がそびえ立っていた……完成してしまったか……。
師匠たち曰く、あとは内装だけだそうだ。
なにげにクジャの大森林にある塔より、大きくないか?
これからこっちの方向の景観はコレになるんだなー、などと考えていたら造物主さんがやってきた。
窓の外をふわふわ飛びながら。
「こんばんはー。ひょっとして晩御飯に乗り遅れた? 宴会用にお酒持ってきたんだけど?」
「イヤ、もう深夜だから」
「やっぱりか……あっちの世界とは時間経過が違うから、計算がズレちゃうんだよなぁ」
「まぁ、なんか適当に出しますよ。俺もちょうど寝付けなかったんで、一杯やりましょう」
その辺に適当な部屋は……あった。
二人で飲むにはちょっと広すぎるが、まぁいいだろう。
適当なツマミを出しながら、造物主さんの持ってきた酒を……おぉ! あっちの世界のビールがあるじゃん! 久しぶりだなー、こりゃ懐かしくて有難い。
そうして造物主さんと適当な話で盛り上がる、だいたいは今までできなかった元の世界の話だ。
「そしたらさー、こっちの世界にはそもそもUMAの概念が無くて、ゆーまって何? とか聞かれちゃったよ。せっかくUMAで観光客呼んで、とか思いついたのにさー」
「だからそこはラブホの遺跡の出番だと思わないかい? ほら、新婚旅行のメッカになったりしそうでしょ? だから早く遺跡を発掘しようよ」
またその話を蒸し返しますか……。
「てか、ちょっと待って。なにげに発掘とか、既に遺跡があるコト前提になってない? 俺、頼んだ覚え無いんだけど?」
「ダイジョブ、キノセイダヨ」
「なんで台詞がカタカナになってんだよ!」
バタン! と扉が開いて、嫁がやってきた。
「ナミタロー、夜食作ってー……って、あれ? 造物主様?」
夜食のために俺を探してたらしい。
まぁいいさ、この状態だと今更だし一緒に飲み食いしましょ。
三人で話をすると、どうしてもあっちの世界――俺が元いた世界の話題に、嫁が付いてこれない。
「なんかずるいわ、あたしだけ仲間外れみたいじゃない」
「それは仕方ないだろ。てか、こういう時だけなんだからそこは勘弁してよ。造物主さんと話す時くらいしか、あっちの世界の話とかできないんだからさー」
「ふーん……良く解んないけど、仕方ないから我慢してあげる」
ありがとう、なんだかんだで理解してくれるから有難いよ。
「我慢してくれて助かるよ。元いた世界の話とか滅多にできないからさー、今までずっとしたかった話が積もりに積もってるのさ。だから今日だけは勘弁ね」
などとお話をしていたら、造物主さんが爆弾発言をぶっこんできた。
「あっちの世界の話がしたいなら、いっそあっちの世界の人を、こっちの世界に呼んじゃえばいいのに」
へ? 何言ってんの?
「イヤ、造物主さんじゃないんだから、あっちの世界の人をこっちに呼ぶとか俺には無理だから」
自分にできるからって、他人にもできるとか考えちゃ駄目ですよー。
「無理じゃないってば。そもそもナミタローくん、どうやってこっちの世界に来たか覚えてる?」
「どうやってって……それは造物主さんが……」
「違うよ、僕は座標を調整しただけだから。そもそもは……」
「あ! そうか! 師匠たちの異世界への門を開く魔法で来たコトになるのか」
「そうそう。ナミタローくん、弟子なんだからあの魔法教わってるよね」
「まぁ、確かに」
ん? でも待てよ?
「イヤ、でもあの魔法じゃこっちに呼ぶとか無理でしょ? そもそもどこに繋がるか不安定だし、師匠たちが何度もトライしたけど、結局宇宙空間にしか繋がんなくて、映画とかで宇宙船に穴が開いた時みたいにゴォーって感じで空気が吸い込まれてたし……」
「大丈夫なんじゃ無いかな? ナミタローくん運の数値がかなり高いから、たぶん都合のいい場所に繋がるよ。仮に運だけで繋がらなかったとしても『奇跡』のスキルを併用すれば簡単なはずだよ」
おう……今更知った新事実……。
「あれ? それじゃあ俺って、元の世界に戻ろうと思えばいつでも戻れたってコト!?」
「そうだね」
「あっちの世界とこっちの世界、好きなように行ったり来たりできたってコト!?」
「そうなるね」
「まぢかー! 何故気が付かなかった俺! てか何故教えてくれなかった!」
「だって聞かれなかったし、あと気付くと思ってたし」
なんで今まで気づかなかったかなー、元の世界と行ったり来たり好きにできるなら、色々違った楽しみ方もできたのに。
「じゃあ、あたしもナミタローの世界に行けるんだよね? やったー! 楽しみー!」
「ナミタローくん、アルミトゥシュを連れて行くときは僕に一声かけてね、神力を制限するから。でないとあっちの世界に大災害が起きかねないからね」
そう言われると確かに……。
「いくら造物主様でも失礼ですよ。あたしだって、さすがに別な世界で災害なんて起こしませんよ!」
イヤ、それはどうだろう……。
「ナミタロー、あんた信用してないでしょ?」
「え? イヤ、ソンナコトナイヨー……」
「お話と夫婦喧嘩と、どっちがいい?」
あ、なんか危険を察知してしまったし。
「まぁまぁ……夫婦喧嘩なんて後回しにして、実際できるかどうか早速やってみようよ『異世界召喚』をさ」
「さりげなーく誘導してるけど、それってこの世界で遊ぶ異世界人を増やそうとか考えてるだけだろ?」
「あ、ばれたか……でもさ、面白そうだと思わないかい? 『異世界召喚』って」
「まぁ、確かに」
そう言われると面白そうだから、やって見たかったりする。
うわー、俺が『異世界召喚』か……なんか信じられないな。
てか今気づいたが夫婦喧嘩は後回しなのか、そこは止めて欲しかったのだが……。
「よし! 試しにやってみるか『異世界召喚』ってヤツを!」
まずは異世界の門を開けるのだ、目的地は俺が元いた世界。
「異世界への門よ、開け!」
あ、ホントに上手く行った。
門が開いたその向こうには懐かしい景色があり、直感(極)のスキルがその景色が俺のいた世界であると教えてくれている。
あぁ、懐かしい世界だ。
マンガや小説の続きが読みてーなー。
でもそれは後回し、今は異世界召喚だ。
さて、門が繋がってしまったのだが、どんな人を召喚しよう?
やっぱ本人の意思を無視するのは駄目だよね。
だとするとやっぱ、ファンタジー好きは必須項目だな。
というか異世界召喚そのものに興味がある人じゃないと……。
おや? これって意外と条件難しくないか?
異世界召喚に興味があるとは言っても、ジャンル的には人それぞれ好みってのがあるだろうし。
便利魔法に満ち溢れた世界が好きな人もいるだろうし、けっこう不便なリアル中世みたいな世界が好きな人もいるだろう。
魔物だらけで危険とスリルがたくさん味わえる世界が好きな人もいれば、魔物なんて遠くから見物するだけで十分な人もいるはずだ。
ピンポイントでこの世界を楽しみたいと思ってくれそうな人って、案外探すの難しそうだぞ?
う~む、どうしよう?
とりあえず召喚してみて、好みに合わなかったら帰ってもらうしかないか。
できればそんなのしたくないんだよなー。
でも間違いなくこの世界を気に入ってくれそうな人なんて、そう簡単には……。
あ、いた。
なんか見つけちゃったさ。
この世界を気に入ってくれそうな人。
ちなみにその人は今、ネット小説なんて読んでいたりする。
はいそうです、お察しの通り!
なんと! あなたが今回の異世界召喚者に選ばれましたー!
いいよね?
興味あるでしょ? 異世界召喚。
気になってるよね? この世界。
だってこの物語の最終話まで読んでるくらいなんだもの。
よし! そうと決まればやっちゃいましょう!、異世界召喚だ!
レベルの上限は勇者と同じ500で勘弁してね。
ほら、あんまし強くなれちゃうと、緊迫感のあるバトルとか楽しめなくなっちゃうしさ。
世界観のバランスとかもあるし、上限500でいいよね?
もちろんチートも付けるよ、『奇跡』のスキルを使えば簡単だしね。
初期パラメータにボーナスも付けるし、成長チートも当然あるから安心して。
あ、でもあんまし強力すぎるチートは付けられないよ、俺は神様とかじゃないんで限界があるからさー。
ごめんね。
その代わりと言ってはなんだけど、次元収納は初期装備にあげるから。
無限は無理だけど、ドーム球場ひとつくらいの容量のヤツ。
言語チートももちろん付けますよー!
しかも今なら、初期資金100万ゴルダまで付けちゃいます!
まだまだ終わらないのがこの異世界召喚!
旅のお供に従魔も付けちゃおう!
強くてカッコいい系? それとも可愛いモフモフ系かな?
もちろん一緒に住んでいるペットを、従魔として持ち込むのもOKですよ!
その際はこちらでちゃんと強化しますので、ご安心下さいねー。
これで終わり? イヤイヤまだありますよー。
ご希望の方には、伝説の勇者装備一式も付けちゃいます!
伝説自体は後付けのでっち上げですが、性能は本物級ですよー。
というワケで、心の準備はいいかな?
始めるよ、異世界召喚。
……待てよ、一応アレも聞いておいたほうがいいかな?
好きな人は好きだしね。
えーと、確認なんだけどさ……。
とりあえずハーレムって、いる?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『おっさんが異世界転移したんだが、とりあえずハーレムはいらない。』
~ おしまい ~
完結まで書きあげられたのは、読んで頂いた皆様のおかげです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。




