45話 新天地
ここからはエンディングと思ってください。
「だからー、そんな細かいとこまで拘らなくていいのよ」
「イヤ、だってどうせならちゃんと作りたいじゃん」
女神様と俺のこのやり取りは、一体何なのかと思うだろう。
実は俺は今、女神様の依代となるための人形を作っているのだ。
ちなみに場所は、人目に付かないように東の海上にある無人島を選んでいる。
ドラ吉は人形作りに興味が無いようで、海中に潜って狩りをしているようだ。
嫁になってくれると女神様は言ってくれたのだが、それには条件が付けられていた。
女神様が下界に顕現できるように、依代とするのに耐え得る人形を作るのがその条件である。
ゴーレムをせっせと作っている俺を見ていて、女神様が思いついたらしい。
まぁ、俺もそっちのほうがいいから、作るのには依存は無いんだけどさー。
「だからその辺は適当でいいんだってば。どうせあたしが降りちゃえば、形があたしに合わせて変わっちゃうんだから。そんなとこに凝るより、頑丈さを優先して」
「へーい」
女神様が降臨するには、人形にかなりの強度が必要である。
しかも聖属性でなければならない。
生半可なモノを作ってもすぐに壊れてしまうので、俺はけっこう苦労しながら全力で人形を作っていた。
「あ、ちょっと、そこはもっと大きく!」
「何だよ、適当でいいんじゃなかったのか?」
「そこは大きくていいのよ!」
「だって……こんなモンだろ?」
どう見てもこんなモンだぞ。
「うるさいわね! そこだけはいいのよ! 女神の沽券ってやつに関わるんだから!」
「降りちゃえば、結局そのサイズになっちゃうんだろ? だったら……」
「い・い・か・ら! つべこべ言うと、嫁になってあげないわよ!」
「へーい」
仕方ないしてので特盛にしてやったら、女神様は満足げな笑顔となった。
…………
よし! こんなもんか。
聖属性の親和性が最も高いアワジウムの塊が、それなりに良くできた女神アルミトゥシュ像となった。
胸部装甲が不自然に特盛にな件については、俺に責任は無い。
「これで完成だ」
「ふーん、なかなか良くできたじゃない」
「頑丈さを追求した割には、上出来かな」
うむ、それなりに芸術作品になったと、我ながら思うさ。
「それじゃあ、早速降りてみるね」
いよいよ女神様が下界に……。
「ほい」
ポン! と人形が人間になった。
イヤ、ずいぶんあっさりと……。
「おおー! 体だー! 動く! 動くよこれ! すごいよー!」
腕をぶんぶん振り回したり、ぴょんぴょん飛び跳ねているのだが……。
「はいはい、喜ぶのはいいけどまず服を着ようね」
人形がそもそも服を着ていなかったので、女神様は全裸であった。
「服? どれ?」
「この水色のワンピース。いつも着てるヤツもこんなんだし、いいよね?」
「えー、どうせなら普段と違うのが良かったなー」
「いいからとりあえずそれ着とけよ、違うのが欲しかったら買えばいいんだしさー」
あ、女神様がぶんむくれた。
「それは違う、違うわ」
「何が?」
「嫁への最初のプレゼントが普段着とか、ありえなくない?」
「イヤ、とりあえずだしさ」
プレゼントとかは改めて……。
「そういう態度が、やがて夫婦間の溝になって亀裂を生むのよ! もう、解ってない!」
「てか、正式に夫婦になったのか? 俺たちって?」
「そうよ。結婚なんて神に誓えば成立するんだから、あたしが自分に誓えばそれで成立よ」
「おれの意思どこいった!?」
「あんたが結婚申し込んできたんだから、いいじゃない」
イヤ、いいんだけど……なんか納得いかん。
「何よ、納得いかない顔してるけど」
「理不尽さを感じる」
「どこに?」
「なんか俺の立場が圧倒的に下な気がする」
「それはほら、あたしは神様であんたは人間だし」
「そこは夫婦なんだからさー」
平等とまでは言わん、せめてもう少し対等にだな……。
「いいわ、だったらその辺はっきりさせようじゃない」
「へ? ハッキリさせると言うと?」
「夫婦喧嘩よ!」
夫婦喧嘩ですとー!
「イヤ、ちょ、待て!」
「問答無用!……神様キーック!」
女神様が大空高く飛び上がり……イヤ、それヤバいから!
緊急回避!
ズゴゴゴォォォーーン!!
あ、無人島が消えちゃったし……。
「ちっ、避けたか」
残念そうな女神様。
「避けたか、じゃねーよ! 危ねーだろ! 死んだらどーすんだ!」
「大丈夫! 死んでもナミタローは復活できる!」
「そういう問題じゃねーだろ! つか波! 津波が陸に向かってるから! ヤバいから!」
今の神様キックの影響で、かなりの大きい津波が陸地に向かっていた。
「大丈夫! ふんむっ!」
津波が収まった……神力づくかよ!
あ、海中からドラ吉が出てきた。何事かと驚いてるようだ。
すまんなー、巻き込んじゃって。
「ん? あれ? ナミタロー、なんかこの体おかしいよ?」
動きがギクシャクしている。
「あー、壊れたな。あんなでかい神力使うからだぞー、何考えてんだよまったく……」
「だって……」
「なんだよ」
「夫婦喧嘩ってしてみたかったんだもん」
そんなコトで天変地異とか止めてくれ……つーか死ぬトコだったし。
「イヤ、そこは口喧嘩とかでもいいじゃん」
「あぁー! その手があったわね……」
気付けよ。
「何やってんの? 君たち?」
命がけの夫婦喧嘩ごっこをしていたら、すぐそこから声を掛けられた。
そこには俺と同じか少し上くらいの、とぼけた顔をした男がいたのであった。
あのー……おっさん、誰?
…………
「なるほど、それで島が一つ消滅した……と」
「はい、ごめんなさい」
「せっかく二人が夫婦になったと聞いたから結婚祝いでもしようと思って来たのに、島が消えるシーンを目撃しちゃうんだもんなぁ」
女神様がさっきから素直に反省の姿勢を見せている相手は、造物主さんであった。
どこのおっさんかと思ったら……。
とぼけた顔の造物主のおっさんは、けっこうガッシリした体格で、緑のポロシャツにベージュのチノパン、黒の鋲付きブーツに金のマントという格好をしていた。
あの服装はいったいどこの世界の常識的なカッコなのだろう?
「ところで、飛び話も何だからどこか島にでも降りません?」
造物主さんと女神様の話が長くなりそうなので、とりあえず提案してみた。
さっきから俺たちは、空中で会話をしていたのだ。
「あぁ、そうだね。ちょっと待って、島を元に戻すから」
造物主さんがそう言うと、海から島がせり上がってきた。
木まで生えてきてるし。
便利な能力をお持ちでいらっしゃる……。
さて、島に降りようっと。
…………
「とにかくアルミトゥシュ、もうこれ以上陸地を沈めないようにね」
「はい、すいません……」
お説教はそろそろ終わるかな?
「あ、コーヒーのお替り要ります?」
相手が相手なので、ちょっとだけ気を使う俺。
「ありがとう、貰うよ」
「あたしにも」
「はいよー」
「わざわざ結婚祝いに来てくれたのに、変なトコ見せちゃってすいませんねー」
「大陸ひとつ沈めた時に比べれば、驚かなかったけどね」
「ですよねー」
島のひとつくらい大したコトないよね。
「それで、結婚祝いなんだけどさ」
「何か、くれるんですか?」
「アルミトゥシュが大陸沈めてそれ以来土地を持って無かったから、この大陸の中央の土地――魔物用に使ってたとこ――あそこをアルミトゥシュの土地にと思ってさ」
お説教で萎れていた女神様の顔がパァっと明るくなる。
「いいんですか? 造物主様!」
「もちろん。もうそろそろ良い頃合いかと思ってたところに御目出度い話だったから、丁度良かったよ」
どうしようかなーと考えてたトコに、渡りに船だったんだね。
ここまでの会話で、気になったコトがひとつ。
「ちょっと質問いいです? あの辺りって、魔物用の土地だったんですか?」
「そう、あそこは元々魔物の繁殖地として設定してたんだよ」
と、造物主さん。
「設定してた……というと今は違うんですか?」
「なんかせっかく繁殖用に保護するための土地を用意したのに、そこかしこで魔物がすんなり繁殖しちゃったからね。特に必要無くなっちゃったのさ」
「ついでに言うと、あそこには周りの国から難民やら訳アリの人やらが住み着いて、いつの間にか村が二つもあるわね。今は確かモローササ聖王国が勝手に支配地にしているわ」
あんな山岳地帯の真ん中に、村作るとかすげーな。
ちなみにモローササ聖王国というのは大陸南東部のモリャチップ神の土地で、狭いが肥沃な土地が広がる豊かな国である。
聖王国と付くから他の国よりも信心深いのかというとそうでもないらしく、単に教会が権力を持っているだけだったりする普通の国だ。
ついでに説明すると、この世界の人はけっこう信心深いのだけれど、意外にも教会はそれほど権力を持っていないのがこの世界だったりする。
「という訳でナミタロー、あんた王様ね。その前にモローササ聖王国を追い出してからだけど」
「へ? 王様?」
というか何が『という訳』なんだ?
「うん、王様」
「イヤイヤイヤ、ちょっと待って! 何で俺が王様?」
「だってそのほうが便利じゃない」
そりゃあんたは便利だろうが……。
「そうだ、ナミタローくん。あそこ海無いんだけど、作る?」
造物主さんは造物主さんで、別な話振ってくるし……何であんたたちはそんなに自由なんだ!
「えーと、造物主さんの件はちょっと待って。で、こっちの件だけど、王様とか面倒なコト押し付けられても困るぞ」
「何言ってんのよ、あたしがあの土地の神様になるんだから、旦那のあんたは王様くらいやりなさいよ」
「どんな理屈だよ」
「それにあの土地、村が二つだけなのよ? 力っていう後ろ盾が無いと他の国がちょっかい掛けてきそうだし、あんたが王様やればそこは問題ないでしょ?」
まぁ、そこは問題ないだろうけどなー。
「でも俺、内政とかできんぞ。それより何よりめんどくさい」
「そんなの誰かにやらせればいいじゃない、王様と言っても軍事面だけ面倒見れば十分よ。土地はあたしが豊かにするから、それで平和で食べるのに困らない国の出来上がりよ。うん、完璧ね」
「そんなに上手く行くかなー」
「行くわよ。それにあんたの嫁は女神なのよ? 誰が王様になっても、絶対に旦那のあんたにも頭下げなきゃならなくなるじゃない。そんなやりにくい国の王様、誰も成り手なんかいないと思わない?」
なるほど、それは一理あるかも……。
「という訳で、ナミタローが王様に決まりね」
「王様かー、遊び回れなくなっちゃいそうだなー」
「何言ってるの? ナミタローはあたしと一緒に遊び回るのよ? その為に内政を人任せにするんだから」
「そうなの?」
「そうよ。ナミタローは旅のお供に便利だし、体が壊れたら修理もして貰うし、連れて行くにきまってるじゃない。あと旦那だし」
イヤ、旦那最後かよ。
「終わったかな?」
造物主さんがとぼけた空気で話に入ってきた。
「終わりました」
嫁さんによると、終わったらしい。
「じゃあ改めて……海の話なんだけど、作った方がいいよね?」
「そりゃ欲しいですけど、山岳地帯ですよ?」
「問題無いよ。湖みたいな感じの海を造って、大陸の下に穴でも掘って大陸周りの海と繋げればいいさ」
なんつー力業だよ。
「ついでにあらゆる地域の海産物が獲れるようにしとこうか?」
「う~む、それはいいような悪いような。他の土地に遊びに行った時の楽しみが減っちゃう気がする」
「なるほど……じゃあ、各地の特産品を除いた感じで獲れるようにしとく?」
「あぁ、それいいかも」
「ついでにシラスウナギもたくさん獲れるようにしとくね。あと、湖も一つ追加で作ってあげよう」
「それ、どこの浜名湖だよ」
「養殖しろとは誰も言ってないけどね」
「言ってるようなモンだろーが」
なんか久しぶりだな、このネタ感。
やっぱあっちの世界のコトを知ってる人がいるのはいいなー。
「あと鉱物資源も増やしとくかい?」
「それは助かるなー」
豊かな土地と豊かな資源、その二つがあれば国の経営が楽になる。
自分で経営するつもりは、さらさら無いが。
「あと遺跡も、とりあえず一つ……」
「イヤ、それ必要無いから」
「ええー! なんで? せっかく僕が準備してたのに」
「だって、びみょーな遺跡ばっかしなんだもの」
オタク文化の遺跡とか放射性廃棄物の最終処分場の遺跡とかさ。
「そうかなぁ、僕としては自信作だったんだけどなぁ」
「とにかく必要無いから」
「でも、でもさ、今度のはナミタローくんも喜んでくれると思うよ」
「あー、じゃあ一応聞いておくけど、どんなの?」
「最初からネタバレとか、つまんなくない?」
「いいから教えてくれ」
「仕方ないなぁ……今回のは、なななんと! ラブホテルの遺……」
「いらんわ!」
「何故!? 新婚だと言うのに……むむ! まさかの野外派!?」
「違うっての」
「各種プレイルームとか完備してるよ? それにほら、人口の増加に役立つと思わない?」
プレイルームとかいらんから。だが、確かに村二つしか無いから人口増加は嬉しい……は! いかん! 騙されるな! 俺!
「うむ、やっぱりいらない」
「せっかく準備したのになぁ……」
イヤ、さすがにソコは無用な気づかいだから。つーか、内緒で仕込んでおこうとか小声で呟かないようにね、全部聞こえてるから。
だいたいお話も終わったので、そろそろ出発しよう。
どこって、もちろん俺たちの新天地だ。
「じゃあそろそろ行こうか」
「あっ! ちょっと待って! その前にこの体を修理して欲しい」
うむ、女神様用の人形体が壊れてるの忘れてたな。
…………
修理も終わって、改めて女神様が人形に降りる。
「やっぱり体があるっていいわよねー」
「はしゃぐのはいいけど、服を着ろ」
女神様は全裸だ……今度から予め、人形に服を着せておこう。
女神様が服を着て、今度こそ出発だ。
「土地の改造が上手く行ったかどうか、確認のために僕も付いてくよ」
付いてくるのか……新婚なのになー。
気を使うのはココだと思うよ、造物主さん。
「歩いて旅とかしてみたかったのよねー」
女神様は楽しみらしいが、たぶんすぐ飽きそうな気がする。
あと島から新しく貰った土地までは飛ぶからね。
「ぴゅい?」
そうだよ、もう出発だよ。
だから寝てた時に垂らしてたよだれを拭いとけ。
そろそろ出発しよう。
このメンツでの旅だと何かあると歩く大災害になりかねんが……うむ、考えるのは止めよう。
無言で飛ぼうとしたら、女神様からリクエストが入った。
「ちょっと、何かひとこと言ってから出発してよ。なんか勝手に出発されるのとか嫌だし」
「あぁ、それもそうだね。ナミタローくん、何かひとこと」
造物主さんにも促されてしまった。
何かひとことか……ふむ。
じゃあ……。
「俺たちの旅はこれからだ!」
「打ち切りエンドか!」
造物主さんのツッコミが心地いい。
やっぱネタを解ってくれる人がいるのはいいなー。
あ、本当に打ち切りエンドじゃないからね。
もうじき最終話だけど、まだだから。
もうちっとだけ続くんじゃ。




