38話 保護者の役目
『入学式に桜』というイメージは、地域によっては『なにそれ?』ですよね。
桜が舞い落ちる春。
花見だ!
は、後回し。
今日はネルシャの入学式。
ネルシャは真新しい制服に身を包み、ちょっと緊張気味である。
ちなみに王立人材育成学園の制服は、黒くてけっこう地味だ。素朴ともいう。
「ししょー、変じゃないかなー」
「いいんじゃないか? 似合ってるぞ」
「ぴゅいー」
学園は一般的に12歳になる年の春に入学し、3年間の在籍期間で魔法や戦闘技術を含めた、人材育成を目的とした高等教育を受けるコトができる。
本来ならば試験を受けねばならぬところだが、ネルシャは特例として無試験で入学を許可されている……ぶっちゃけドルッポのおっさんが権力でねじ込んだんだよねー。
学校では魔法と戦闘技能のコースの授業を受けるコトになっているのだが、強さだけならこの国でネルシャの相手になるヤツは既にいないだろう。
その実力は既にレベルカンスト勇者のケルさん並、勇者ナルキスくんを超えている。
これでまだレベル400を超えたばかりなのだから、ゆくゆくは人系種族で大陸最強となるだろう。
もちろん俺を除いてだが。
俺、人だからね。
一応ステータスの種族欄を確認……うむ、人間だね。
まぁそんなだからネルシャが学園で主に学ぶのは、一般的な学問とか教養の類になるだろう。
カジャ婆と俺が一応の学問を教えていたけど、10歳から学校にも通わずの学問だから、ちょっと知識に偏りがあるかもしれない。
ネルシャの年代が通うような学校のテキストは使っていたから、大丈夫だとは思うのだけれど……。
…………
ネルシャの準備が整ったようなので、いざ学園へ。
付き添いは俺と、ついこの間宰相を辞したドルッポさんが務める。保護者の役目ってヤツだ。
「それじゃあ行ってくるねー」
学園の門をくぐったところで分かれる、ここから先は保護者と生徒は別行動だ。
「楽しそうですねー」
「同年代の仲間ができて、嬉しいのだろう。我々も大講堂へ向かおう」
ドルッポさんは、さっさと移動しようとするが……もうちょっと見学してもいいんじゃね? 俺は学校とか久しぶりだからもっと色々見たいのだ。
渋々大講堂へ入ったら、ドルッポさんが大勢の人に囲まれていた。さすが元宰相、顔が広いし有名人だもんね。中には権力に群がるのが好きそうな人もいるが……ドルッポさんも良くあんな連中の話に付き合えるよなー。
と思っていたら、なんか俺のところにもけっこうな人数が群がってきた。
うわー、めんどくせー! まぁ、ドルッポさんのトコに群がっている連中に比べれば、欲得面なのがいないだけマシか……。
考えてみれば、俺は勇者の育成してるしドルッポさんとも繋がりのある人間だからなー。伝手にするには都合がいい人材なんだろう。
てなコトをドルッポさんに言ったら、全否定された。
「お前は自分を過小評価し過ぎだ。探索王ナミタローと言えば、王都では知らぬものがいないほど有名なのだぞ。巷では『探索王に見つけられぬ物はこの世に無いものだけだ』と言われているほどだ」
えー、何その巷……んな大げさな。
「人が集まってくるのは、お前がそれだけ有名だからだ。私もけっこうな人数に紹介してくれと頼まれているくらいなのだぞ」
「勘弁してくれー、騒がれるのとか好きじゃないんだよ。目立つの嫌いだし……」
「嘘をつけ、目立つ行動ばかりしているくせに。どの口が言うか」
「なんか不本意なんだが」
そんな話をしているうちに、入学式が始まる時間だ。
うわー、緊張するわー。
新入生の入場が始まる……。
…………
ネルシャの態度は堂々としたものだった、新入生代表として挨拶も立派につとめた。
てか新入生代表って……師匠そんなコト聞いてないよ?
これでネルシャも学生か。
寂しいような楽しみなような。
友達たくさんできるといいな、あと将来の仲間も。
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「それに俺も出ろと?」
「そーだよ。だってししょーじゃん」
学園が始まった早々、ネルシャが武闘大会の話なんぞを持ってきた。
「新入生の親とか親戚とか師匠の、模範試合の大会ねぇ……」
「大事な大会なんだよ? これでこれからの学園内のヒエラルキーとかが、決まっちゃったりするんだよ? だから出てよー、ししょー」
お前は学園でぶっちぎりな強さなんだから、ヒエラルキーの頂点にしかならんだろうに。
「というか既にエントリーはしてしまったぞ」
宰相辞めてヒマになったドルッポさんは、ネルシャの様子を見るため学園に入り浸っているようだ。
学園長室に常駐しているとかって話が俺の耳にも入ってきている……おい元権力者、学園の迷惑を少しは考えれー。あとさすがに過保護だろ。
「イヤ、俺に断りも無くエントリーとかしちゃうのはどうなのよ?」
「出てくれないの? ししょー」
「それはまぁ、なんだ……仕方ない。出てもいいか……」
そんなガッカリ目で見られたら、承諾するしかあるまい。
「決まりだな、せっかくだからできるだけ強い相手を見繕ってやろう」
あんたが決めるんかい! つか、あんたはどこまで学園に影響力があるんだ? ドルッポさんよ。
「やったー! みんなにししょーの凄さを見せつけてやってね!」
強さを見せつけるってなんだよ、さっきのヒエラルキー云々はどこ行った?
「ぴぴゅいー」
「イヤ、さすがに無いだろー」
「なーに?」
「従魔部門は無いのか、だとさ」
学園の試合で従魔部門とか、さすがに無かろう。
「従魔の試合は無いんだー、ごめんねドラ吉」
「だよなー」
「びー」
ドラ吉が、がっくりと羽を落とす。仕方ないだろう、諦めろ。
「だったらドラ吉も参加できる試合も作れば良いだろう」
「ぴゅ!?」
「いいの!?」
「いいのかそれ? さすがにやり過ぎじゃ……」
いくらドルッポさんが学園に顔が利くとはいえさー。
「でもドラ吉は強いから、相手も強くないと試合になんないよ?」
「適当な相手がいなかったら、騎士連中の誰かにでもやらせれば良いだろう」
「ぴーぴゅい」
「雑魚が相手じゃつまらんから、数を用意しとけとさ」
「ははは……いいだろう、生きのいいのを見繕っておこう」
この流れは瞬殺コースだな。最近手加減が上手くなったから大丈夫だと思うけど、一応殺さないようにしっかり加減させないと……。
こうして俺たちの大会参加が決まった。
そういや、試合に参加するとか初めてだな。ちゃんと手加減できるかなー。
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「ドラ吉ー! 頑張れー!」
試合当日となった。
学園関係者の試合ではあるが、なにぶん王立の学園の行事であるので、試合は闘技場で行われていた。
ネルシャは仲間の生徒たちを引き連れて、客席の最前列に陣取っている。
やっぱりヒエラルキーとか嘘じゃねーか! てか、お前が来ると生徒たちでできた人垣が割れるとか、モーゼじゃねーんだからさ!
ドラ吉の相手は騎士団から三人。
騎士団は軍とは命令系統が違う、王直轄の機動部隊でエリートさんだ。
おいおいミニドラなんか相手になんねーよ、という態度がしっかり見えている。
知らんぞー、ドラ吉はこういう奴らのプライド叩き潰すの好きだからなー。
「始め!」
号令と共にドラ吉が一気に音速を超えて飛び出し、衝撃波だけで三人を転がす。
審判も吹っ飛んでるぞ、おい。
転がった三人をドラ吉が見下ろし、カモーンと挑発する。
「待て、俺がやる」
三人の中で一番背の高い金髪君が前に出て、ドラ吉と対する。
ドラ吉がため息をついて、おもむろに近づく。
ボコボコタイムだ。
まずボディーに一発。
くの字に体が折れ曲がろうとしたところに、アゴに一撃……たぶん砕けた。
ふらついた相手に、止めとばかりに脳天に尻尾を叩きつける。
で、ぴくぴくと痙攣している相手に回復魔法……うわー、心折る気満々じゃん。
起き上がったところに、三人まとめて掛かってこいやと手招きするドラ吉。
「くそっ! 油断した!」「舐めるな!」「ぶちのめしてやる!」
なんてコトを言いながらドラ吉に向かって行く三人。
持っている剣や槍を振り回すが、ことごとく空を切る。
避けまくるドラ吉に、会場から拍手が巻き起こった。
「いいぞー! ドラ吉ー!」
ネルシャからも声援が飛ぶ。
パンパンパンと得物をはじき、三人をまた転がすドラ吉。
ポキポキと指を鳴らして反撃タイムだ。
恐らく相手の目には留まらぬ速さで、三人をボコボコにしていく……前後左右やや下からの攻撃に、サンドバッグ状態のまま少しずつ宙に浮く三人……。
だんだん絵面が凄惨になって来たぞー、そろそろ勘弁してやれー。
あ、止まった。
ダウンした奴らに回復魔法……そしてまた、掛かってこいのポーズ。
この流れが三度繰り返されたところで、騎士たちの心が折れた。
観客さんも一安心。
「さすがドラ吉! カッコ良かったよー!」
盛り上がってるのはネルシャだけで、他の観客はドン引きしている。
客席からの安堵の拍手を受けながら、ドラ吉はネルシャの左肩へ凱旋した。
…………
「ししょー! 頑張ってー!」
うむ、頑張って手加減するぞ。
観客席がざわついている。
『探索王』というワードがちらほら耳に入るのは気のせいではあるまい。
最近久々にステータスをチェックしてみたら、称号欄には『三賢者の弟子』のほかに『勇者の師』と『探索王』の二つの称号が増えていた。
ついに探索王の称号は公式採用されたらしい……要らないのに。
対戦相手が出てきた。
俺の相手は最近闘技場でランクを上げてきた、現在ランキング第2位のジャニとかいう男だ。
セコくてズルくて汚い、というのが最近ようやくランキング16位に上がったドアルの評である。
ドアルって誰? という人もいるだろうが、気にしなくていいよ。ちょっとしか出番の無いモブだし。
ドアルのヤツが『運営はそんなセコくてズルくて汚い闘い方を何故許しているんだ』と憤っていたが、そこはほら、やっぱヒール役とかいた方が盛り上がるからね。
「始め!」
ジャニはまず右手で槍を構えて……おっと、左手で投げナイフですか。
俺が飛んでくるナイフの柄を掴んで止めると、ナイフに気を取られた隙をつこうとしていたジャニが慌ててバックステップして距離を取った。
投げ返してやろうかとチラとナイフを見たら、何やらぬらついてるし……なんか毒塗ってあるさ。
ちょっとお返しに足元にナイフを投げて、体の方には水球を飛ばしてやる。
腕の振りによってナイフの軌道を読み飛び上がったはいいが、おかげで水球が避けられずに腹に命中。
悶絶してしまったので、ちょっと休憩の時間だ。
収納からチョコレートをひと欠片出して、口の中へ。
放り込んだタイミングで何か飛んできた。ジャニは既に回復していて、動けないフリをしていたようだ。
軽く神木刀で打ち払ったら、目の前にブワッと白い粉が広がった。目潰しときましたかー。
目潰しの粉とか、風魔法使って飛ばせば終わりじゃん。
ジャニの方へ飛ばしたので、慌てて避けている。
こんな攻撃、いつまで続くんだろう……。
またナイフが飛んできた、芸の無いヤツ。
と思ったら、直後に火球が飛んできた……どこを狙って……っておい! ふざけんなてめー!
慌てて魔法障壁を張って、火球を防ぐ。
この野郎……ヤツの火球が狙った先は客席、生徒たちの座っている観客席だった。
「おい、今日は学園の模範試合だから、客席に障壁を張ってないのは知ってるよな?」
そうジャニのヤツに問いかけたが、ニヤニヤ笑うだけで答えない。
それどころか客席に次々と火球を放ってきた。
全て俺が魔法障壁で防いだけど。
なんでこんなマネを、と思ったら火球の合間に毒ナイフやら含み針やらが飛んできた。
もちろん全部叩き落したけど。
「ししょー、魔法はあたしが防ぐから大丈夫だよ。任せて反撃して!」
「ぴゅい!」
「あぁ、そっか……ドラ吉もいたんだっけな。じゃあ任すわ」
「ししょー、あたしはー?」
ネルシャが心外だと言いたげに、自分のコトを指さしているが……まだイマイチ信用できんのだよなー。
ジャニのヤツが懲りずにまた客席に火球を次々と放つが、今度はドラ吉がブレスでことごとく撃ち落として……。
「おい! ドラ吉! ちょい待ち! ちょっとブレス止め!」
「ぴぴゅい?」
「壁と天井見ろよ! ブレスで穴だらけだから!」
「ぴゅー……」
なんかもう面倒になっちゃったので、元凶をさっさと倒して終わりにしよう。
神木刀をブン! と一振り。斬撃が宙を飛び、ジャニを真っ二つに……あ、腕だけ切る予定だったのに……。
そして斬撃はそのまま飛んで、闘技場の壁をザックリと……あ、やっちまったか……。
「ぴゅいぴゅーい」
「はいはいそうですよ! 俺もやらかしましたよ! ごめんね!」
真っ二つにはなったがまだ生きているジャニをくっつけて回復しつつ、ドラ吉に責められた自分を開き直らせて、この日の模範試合は終わりとなった。
客席のドン引き度は、相手のジャニがヒール役だったおかげでドラ吉の時よりは少しマシだった……嬉しくないけど。
ネルシャには『ししょーのおかげで、学園での立場が良くなったよ』とか言われたが、とうの昔にボスに君臨していたお前に言われても説得力無いから。
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学園が始まって初めての休日、今日は入学祝を兼ねたお花見だ。
ネルシャが学園の友達をたくさん連れてきたので、本来人気があまり無い郊外の穴場スポットがごった返している。
俺は振る舞い料理に追われてお花見気分とはなれなかったが、みんな楽しそうなので良しとしよう。
ドラ吉もあちこちに食べ物を運びまわって、大忙しだ。
それにしてもこんなに大勢になるとはなー、先に言ってくれれば予め準備しとくのに。
その数は総勢46人。
坂道か! とか言ってみようか迷ったが止めておいた。誰もネタを理解できないので、ツッコまれなくて寂しくなっちゃうのだ。
ツッコミが欲しいとか贅沢は言わんから、せめて誰かネタの解る人が欲しい……造物主さんならたぶん解るんだろうけどなー。
おしゃべりに興じたり、食べ物に夢中になったり、歌を歌ったりと、みんな思い思いに楽しんでいる。やっぱ花見っていいよねー……花を見てるヤツがいなさそうだけど。
そうだ! ここで『音楽』のスキルを使ったらどんなBGMが流れるかな。
ちなみに音楽のスキルとは、広域BGMのスキルである。
状況に応じたBGMが流れてくれるのだが、音量調整も選曲もできずに流れる上に、効果範囲が最低で半径50メートルで範囲内には強制的に聞こえるという……そこそこ面白いのだが、微妙なスキルだ。
さて、恒例の説明も終わったので……音楽スキル、オン!
おおー、和風の音楽が……雅楽だな。
これはなかなか風情があって……。
「変な音楽だけど、なにこれ? ししょー何かやった?」
ネルシャに変な音楽とか言われたしー。
興がそがれたので、もうやめよう……。
音楽スキル、オフ。
ま、別に音楽が無くても花は満喫できるしな。
お花見はなんやかんやで盛り上がっている。
そのうちに何やら俺の知らん遊びをしだしたり、何でか訓練や模擬戦を始めたりするヤツらも出てきて、もうカオス状態に……。
おや? あっちの連中は何を……あれはネルシャか? 具合が悪そうだが……。
近くに寄ってみると、何やら苦しそうだ。おかしいなー、毒系の物は入れてはいないはずなのだが?
さらに近くに行くと何やら酒臭い。
で、酒瓶が何本も転がって……。
「なんで酒があるんだ? 誰か持ち込んだのか?」
まぁ、こっちの世界ではアルコール摂取の年齢制限は無いので、別に飲んだって問題はないのだがさ。
その場にいた学生たちは、全員首を振った。
じゃあいったい誰が……。
いた、なんかすぐそこで収納から一升瓶を取り出してるヤツ……ドラ吉だ。
「犯人はお前か、ドラ吉」
「ぴゅ?」
「学生の花見で酒を配るなよ。そりゃ花見と言えば日本酒飲ませたくなるのは解るけどさー、まだ子供みたいなもんなんだから量は少しにしとけ」
「ぴゅーい」
「あと、お前の収納の中身、後でチェックさせろ」
「びー」
プライベートの侵害だと? やかましいわ! お前の私物に何があるのかチェックしとかないと、そろそろいいかげん怖いつつーの。
そんなコト言ってるうちに、ネルシャの方からウエェェという危険な声が……。
あ、やっぱ戻してら……。
あ、あっちでも一人……。
仕方ない、これも保護者の役目だしな。
俺は諦めて、急性アル中の毒抜きとゲロの処理に勤しむのであった。
新歓コンパでの急性アル中には、ホントに注意しましょうね。




