37話 思わぬ知らせ
ちょっと無理矢理ですが、チョコレート回です。
「ゴギュガ」
「ゲギュ」
「ゴギュ」
ゴブ太の命令でゴブリンたちが次々と木に登り、その実を落としていく。
落とされた実は、これまたゴブリンたちに運ばれて山と積まれていった。
「よーし、それじゃもう一回やるから木から離れろー」
別れて従魔じゃなくなったはずなのに、お前らは何をやっているのかと言われそうだが、今は秋。
そう、収穫の秋だ。
実はゴブ太たちの群れのナワバリに遊びに行った時に、カカオの木がたくさん生えている場所を見つけてしまったのだ。
見つけてしまった以上、収穫せねばなるまい。
そんなワケでゴブ太に頼んで、ゴブリンたちにカカオの実の収穫をさせているのだ。
どうせならたくさん欲しいので、収穫しては肥料と水をやり、受粉はそこら辺で従魔化したハチを使って、光合成のために聖属性の光魔法を使い、時間魔法で時間を進めてまた実をつけさせるという荒業を使ってみた。
結果カカオの実に聖属性が付加されてしまったが、たぶん問題ないだろう……と思う。
何のために……なんて野暮なコトは言うなよ、もちろんチョコレートを作るのだ!
てか、まともなの作れるといいなぁ。
作り方、テキトーにしか覚えてないんだよね。
「終わりましたー」
「おう、ご苦労さん。それじゃコレ、約束の武器防具5セットな」
カカオの実収穫のお礼は、俺お手製の武器と防具5セット。
仲魔にちゃんとした装備をさせたいとの、ゴブ太のリクエストだ。
もちろん俺の努力と苦労の甲斐あって、大幅な弱体化に成功している装備である。
それでもその辺の店売り品より、かなり高性能だが……。
なんとなーく人類にとってかなり厄介な軍団を作っている気がするが、俺の髪の毛の太さに影響しそうなので気にするのは止めておこう。
「おし、早速作ってみるか」
チョコレート作りに挑戦だ。
…………
中身を発酵させて、乾燥。
あとはローストすりゃいいんだっけ?
これでカカオ豆の完成っと。
これを温めながらすり潰すと……。
おー、トロトロになってきたよ。
分離してココアパウダーとカカオバターにする。
「ぴぴゅー」
「ほれ、砂糖入れ忘れるなよ」
まだ途中なのに、ココア飲みたいとか言い出すなよなー。
「ししょー、あたしもー」
「チョコ減らすぞ」
「じゃあいらなーい」
ネルシャはチョコが待ちきれないようだが、まぁもう少し待て。
えーと、こっちのトロトロになったヤツとカカオバターと砂糖を混ぜるんで良いはず。
カカオバターって要るのか? 入れないヤツも作ってみようっと。
テンパリングとかいうのをやらないと滑らかさが出ないはずだけど、とりあえずこのまま魔法で冷やして食べてみよう。
「ほい、試食だ」
ドラ吉とネルシャに二欠片のチョコを渡してやる。もちろん自分でも食べるよ。
あれ? カカオバター入ってない方が、香りも高くて美味くね?
舌触りとかも十分滑らかで……テンパリングって必要?
「あまーい! おいしー! んー、どっちかってゆーと、こっちのが好きかな?」
「ぴぴゅい」
「やっぱ、そうだよなー」
カカオ豆すり潰したまんまのヤツで作ったチョコのほうが美味いさ。
なにゆえ。
げせぬ。
とりあえず試作品はゴブ太にくれてやろう。
「ゴブ太ー、このチョコはそっちで分けていいぞー」
カゴにひと山程度しかないけど、まだ群れのゴブ数も少ないので行き渡るだろう。
「いいんですか? ありがとうございます!」
ゴブリンたちがチョコを分け合っている。
つーか、お礼に頭下げられたし……ゴブ太よ、お前ひょっとして何か教育してるか?
まぁいいや、チョコの大量生産するべ。
とりあえず普通のチョコと、ミルクチョコと、あとナッツチョコでも作るべ。
生産♪生産♪っと。あ、ナッツの類が無かったか。
仕方ない、また今度に……待てよ……。
あるじゃん目の前に、ナッツ。
そう、カカオ豆というナッツが。
そのまんま使うのも芸が無いので、砕いてみる。いわゆるニブというヤツだ。
普通チョコにニブを散りばめる。普通に板チョコ、タブレットというヤツが完成した。
一口味見してみる。
「びゅー」
「ししょー! 自分だけずるいー!」
やかましい、これは作ったもんの特権ぞ!
つか、思ったより美味いなコレ。
「ほれ、それぞれ一枚ずつだぞ」
「ぴゅいー」
「ぬふふふふー♪」
待ってましたとばかりにチョコが強奪された。
にしてもこんなに上手く作れるとはなー、ブランド品のチョコレートに負けてないんじゃないか?
不自然だけど。
「絶対コレ、チョコが作りやすいように品種改良してそうだよなー」
チーン
電子レンジのチンの音が、俺の頭に鳴り響く。
何だ? 確かこの音は、レベルアップとかスキル取得の時に聞こえる音だったはず……。
久々にステータスウインドウを確認してみたけど、別に変ってないよな?
あ、なんか下の方にパカパカ点滅して自己主張している一文が……。
【造物主からのお知らせ】
お前か……で、なんなのさ。
【その通り! カカオは品種改良してまーす。チョコ作るの簡単だったっしょー。イヤ自分でも作ろうと思ってやってみたんだけど面倒くさくなっちゃってさー、つい品種改良しちゃったさ。あぁ、もし品種改良してほしい物があったら、言ってくれればやったげるよ】
お知らせ窓にはそんなコトが書かれていた。
やっぱてめーの仕業か造物主……まぁ今回は礼を言っておこう、実際楽だったし。
「ま、今回はありがとさん」
【どういたしまして】
お知らせ窓に造物主さんの返事が表示された。
うむ、どうやら造物主さんとは普通に会話できたようだ。
考えてみたら、前にもこんな感じにやりとりした記憶が……。
なんだろう、なんかもやもやする。
今までの旅でも造物主さんとやりとりしていたら、ひょっとして俺のこれまでの旅も少しは楽に……イヤ、特に変わんねーか。
とりあえずチョコレート作りは上手くいったので、ここは全て良しとしよう。
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王都まで船で戻り晩飯も食ったので、ネルシャはドラ吉に任せて酒場へと向かう。
自作チョコと相性の良さそうな酒を探すためだ。
ガチャリと重たいドアを開けて、バルバの酒場と書いてある目立たぬ小さな看板のある建物に入る。
この店は酒の種類だけなら、王都一の品揃えを誇る。
ただ在庫が少なくてすぐ無くなるから、飲みたい酒が飲めない時がけっこうある店だ。
あと、客層があまり良いとは言えず、奥の部屋は毎夜ギャンブル部屋と化している。
とりあえずカウンターに座って、ブランデーを頼む。
この辺の酒場では定番の、ハリトターという銘柄のブランデーだ。特にクセが無く飲みやすいのが特徴。
自作の並チョコとミルクチョコで試す。もちろん酒場のマスターには、持ち込みの許可を得てある。
ミルクチョコのほうが合うかな? 甘さと苦みが飲み干すときに奇麗に流れ、香りだけがしっかり残る感じがする。
並チョコだと香りと一緒に苦みが舌にまとわりつく感じだ。
次は甘めのブランデー、キルキュルという銘柄で風味が強い。
これもミルクチョコのほうが合うな、というかさっきのハリトターよりもこっちのほうが合う。
並チョコも合うな。
「俺にもひとつ貰えるか?」
店のマスター、バルバさんが俺の自作チョコに興味を持ったようだ。
ふむ、せっかくだからソムリエ代わりに使わせてもらおう。
並・ミルク・ニブと三種全ての板チョコ、計三枚を渡す。
まず並チョコをひと欠片割って口に放り込むと、舌の上で転がしながら何事か考えるマスター。
おもむろにカウンターの裏に向かい、一本のビンを持ってきた。
その中身がショットグラスに注がれ、スッと俺の前に流れるように置かれる。
並チョコをひと欠片口に入れ、少し溶けたところで俺はショットグラスを一気に呷る。
香りが力強く口に広がり、チョコとは違う苦みが口の中の苦みと混ざり合う……ほう、混ざり合った苦みで香りまで深くなったようだ。
強い香りと苦みが、甘さをマイルドに抑えて大人の味にしてくれる。
合うな、このウイスキー。
「もう少し甘さを抑えた方がいいかな?」
俺の独り言のような問いに、マスターがグラスを拭きながら短く答えてくれた。
「ほんの少しな」
この酒専用のチョコになっちまいそうだが、作る価値はありそうだ。
ミルクチョコにはワインが出てきた。
柔らかな甘さに、混じり合った香りがふわりと鼻腔に流れるような感覚。
女を口説くには良さそうだ。
ふっ、何考えてるんだろうな俺は……ちょいとチョコに酔っちまったみたいだ。
ニブチョコに出てくる酒は無かった。
「すまんな……合う酒は思いつくんだが、在庫が切れちまってる。仕入れとくから、そうだな……二、三日経ったらまた来てくれ」
「了解だ、三日後に来る。酒が待ち遠しいと思ったのは久しぶりだ」
今日はもう帰ろうと立ち上がり、金を払おうと懐に手を入れたところでマスターの左の手のひらに止められた。
「金は要らん、代わりにさっきのを少し置いて行ってくれ。ツマミに良さそうだ」
そう言うとツマミ用の皿が一枚、俺の目の前に置かれる。
とりあえず三枚ずつ積み上げ、もう少し詰めるかな? と思った隙に、スッと皿を下げられた。
飲み代としてはこれで十分、というコトらしい。
俺としてはまだ足りないと思っていたのだが、己の作品の評価は自分では判らぬというコトも知っているので、そこは黙って引き下がった。
若干マスターにしてやられた感があったので、少し苦笑い。
バリリ……バーン!
そのまま店を出ようとした時に、左奥の部屋の扉が一人のチンピラ風の若いのと共に吹き飛んできた。
確かあっちはギャンブル部屋だったか……。
ドアが吹き飛んだその扉だった場所から二人の、これもチンピラ風の奴らが後ずさるように出てくる。
そしてもう一人、高級そうな装備に身を包んだ派手なヤツが一人……。
「おいおい、俺様がイカサマしたとは聞きづてならねぇな。負けたのはてめぇらが弱っちいからだろうがよ! 自分の弱さを他人のせいにするんじゃねぇよ!」
なるほど、ギャンブルで負けたんで力ずくで交渉に出て返り討ちに会ったか。馬鹿なヤツらだ。
そもそもこの世界では、ギャンブルはあまり流行ってはいない。
パラメータの運の値が、結果に影響し過ぎるのである。
加えてレベルが高くなればなるほど運の値が高くなるので、ギャンブルの強さはそのまま個人の戦闘力に直結すると言っても良い。つまりギャンブル強者に喧嘩を売るというのは自殺行為と言っても過言ではないのだ。
馬鹿なヤツらと思ったのは、そういう意味でだ。
「とりあえず手持ちの金だけで勘弁してやる、俺は優しいからな。ほら、有り金全部置いていきな」
派手な身なりの男が、ニヤつきながら余裕のセリフを吐く
「ちくしょう……」
チンピラ共は悔しそうだが、力の差を見せつけられた今となっては渋々有り金を置いていくしか選択肢は無いと観念したようだ。
金を置いて逃げるように――それでも睨みつけるのを忘れずに――チンピラ共は店を去っていった。
金を巻き上げ、ふん! と鼻で笑った派手な身なりの男は、再びギャンブル部屋に戻って行った。
「ウォルシの奴め、またやりやがったのか……」
マスターのその呟きに、思わず……。
「お灸据えてやろうか?」
目を合わせる俺とマスター。
「奴はイカサマを使うって話だが……できるのか?」
「たぶんね。そこいらのイカサマ師なら余裕だよ」
そう言って俺は久々に運を全開に働かせるべく、奥のギャンブル部屋へと入って行った。
…………
「いゃあ悪いねおっさん、また俺が勝っちまったよ」
とりあえず普通にポーカーをやってみたが、結果は5連敗。
俺の運を考えれば、まずあり得ない確率だ。
以前やってみた時には、フォーカードやらロイヤルストレートフラッシュなんかを連発して、大ひんしゅくを買ったくらいなのだから。
今回はまだスリーカードが一回のみ。
こりゃ本当にイカサマくさいな。
アツくなったフリをして、さらに4連敗してみせる
「こんなはずはねぇ! くそっ! もう一回だ!」
「おっさん、そろそろ引いた方がいいんじゃね? どうせ何度やっても勝てねぇよ」
「うるせぇ! もう一回だ!」
「はいはい、仕方ねぇな。もう一回だけ勝負してやんよ」
そろそろ始めるか。
「ちょっと待てや、その前に店の客を全員この部屋に入れろ」
「店の客を?」
「そうだよ、てめぇがイカサマをしてねぇか店の客全員に見張ってもらうんだよ」
乗るだろ? お前はイカサマに絶対の自信がありそうだからな。
「自分の弱さをイカサマのせいにしちゃいけねーな、おっさん。まぁ、俺は別にいいけどね」
店の客を呼びに行き、事の成り行きを説明する。
ギャンブル部屋は客でいっぱいになり、マスターまでもが見物に来た。
店はいいのか? マスター。
「おら、さっさとカード配れや!」
アツくなってるフリも疲れるもんだ。
「今配るよ。さぁ、みんなもちゃんと見てくれよ、俺がイカサマなんかしてない所をさ」
カードが5枚ずつ配られる。
そこで俺は懐から金袋をひとつ取り出して、ドン! とテーブルへ乗せた。
「これが俺の今持ってる全部だ! カード交換無しの一発勝負! 受けるか! 今更ビビって降りるとか言うんじゃねーぞ!」
さぁ、どうする? 俺はどっちでもいいぞ。
「いいよ、乗った。今手元にあるカードだけで勝負って事だね」
「そうだ。ついでにカードは俺たち以外の誰かに表にしてもらう、てめぇがイカサマしねぇようにな」
そう俺がいうと、相手のヤツ――ウォルシだったか?――が鼻で笑った。
「いいけどね。それじゃあ、マスターにでもやってもらおうか」
これで決まりだ。
賭けた袋の中身くらい、確認しとけよ。イカサマしか能が無いのがバレちまったぞ。
「じゃあ先に、あっちを頼むよ。マスター」
急に冷静な態度になった俺に、ウォルシが少し動揺する。そうだよ、お前は引っかかったんだ。
一枚ずつ裏返されたカードは、ストレートフラッシュ。
「今度はこっちを頼む」
ヤツのストレートフラッシュという手札に全く動じない俺を見て、さらに動揺するウォルシ。
すまんな……俺の前にあるカードは、さっき俺がコピーして作ったカードだ。
偽装とか隠密とか様々なスキルを駆使して、配られたカードと交換してある。
こちらの手札が裏返された……ロイヤルストレートフラッシュ。
「そんな! あ、あり得ない! そんな馬鹿な!」
「あり得ないコトは無いだろう、普通にカードを配ればこんなコトもある。あぁ、すまん。イカサマをしたハズなのにこんな役になるなんて、あり得ないって意味だったか」
「イカサマ……そうだイカサマだ!」
何を言い出すかと思えば……。
奴は俺の手札以外のカードをすべて集め、そこにいる全員にカードの裏を見せつけた。
「見ろ! お前らもっとよく見ろ! このカードの裏の模様は、こいつのカードの模様と僅かだけど違う! すり替えやがったんだ! 確認してみろ! イカサマだ!」
やってくれるね……カードを集めて微妙に違うのとすり替えやがったな。
だけどね、甘いよ。
「構わん、確認してくれ」
おいおい、今更そんなコト言い出しやがるかという顔をした周囲の客に、俺は確認を促す。
確認されたそのカードの裏は、ウォルシの出したカードと寸分たがわぬ模様であった。
悪いが俺のカードは全てゴーレムで、模様やキズ程度なら寸分たがわず変えられるのだよ。
まぁ、その程度はやると思ってたからな。
「あり得ないだろう! 何でだ! どうしてだ!」
「俺がイカサマなんかしてないからさ」
「ふざけるな! てめぇ何をやりやがった!」
「何もしちゃいないよ、お前と同じさ」
そう、お前と同じイカサマだよ。
「ちくしょう……ちくしょう! ちくしょう!」
「負け分はちゃんと払えよ」
「もってけ! くそったれ!」
ドン! と大きめの金袋がテーブルに置かれる。
さて、止めを刺すとするか。
「数えるのが面倒だな……誰か代わりに数えてくれ」
客の一人が俺の金袋の中身を見て絶句する、そしてウォルシの金袋の中身を見てこう言った。
「ウォルシ、これじゃあ全然足りねーぞ」
「なに!? どういう……俺の金袋には、30万は入ってるはずだぞ!」
俺の金袋の中身を、客の一人がウォルシに見せる。
その金袋の中には、額面100万ゴルダの硬貨が20枚……全部で2000万ゴルダ、日本円換算で2億にもなる白金貨が入っていた。
「嘘だろ……なんでこんな……」
「安心しろ、命までは取らんよ。俺は優しいからな」
俺は優しかったのだが、他の連中はそうでも無かったようだ。
身ぐるみ剥がされたウォルシは、全裸で店の外に放り出されたのだった。
まだ秋だから、死にはすまい。
儲けた金は店に置いてきた。
こいつで飲んでくれと言った俺の言葉に沸き立つ店を背に、月明りが照らす宿への道を帰る……夜はもう肌寒かった。
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「貴様、ネルシャを放っておいてどこへ行っていた?」
「どこって……ちょっと酒場へ」
宿へ戻ると、ドルッポ宰相さんが何故か待っていた。
てかさー、いくら仕事が忙しいからって、こんな時間に非常識だろ。ほら、食堂を併設してるとはいえ、宿の親父さんもさすがにこの時間は迷惑そうだぞ。
「保護者たるお前が勇者を放って酒場とは、自覚が薄いのではないか?」
なんか責めるような口調だけどさー。
「放っておいても問題無いよ。ドラ吉も付けてあるしね」
「ふん、あんなミニドラなんぞ何の役に立つ」
「そう思うなら、軍でも暗殺者でも差し向けてみればいいさ」
自信満々に言い放つ俺の言葉に、ドルッポさんもようやく耳を傾ける。
「あの従魔、本当にそれほど強いのか?」
「勇者ケルタニアンや勇者ナルキスとも、互角以上に渡り合うヤツですね」
それどころか、本気になったら圧倒しちゃうんだろうけどね。
「本当か?」
「何なら本人たちに書簡でも送って、聞いてみてもいいですよ?」
「いいや、それには及ばん。一度、見てはみたいがな」
「いいよー。ついでにネルシャの対人戦の相手も用意しといてよ、最近魔物とかゴーレムしか相手にしてないからさ」
「承知した。いつが都合が良いかな?」
「そっちに合わすよ。今のトコ予定は詰まってないし」
「ならば、日程は追って知らせる事にしよう」
神木刀は使わせない方が訓練になるよなー。
「ところでさー、何しに来たん?」
俺に用事があって、わざわざ来たんだよね? ドルッポさん。
「そうだ、忘れるところだった。例の件だが、ようやく片が付いた」
「例の件って何だっけ?」
「王太子の件だ。ナギアン王子が王太子――次代の王になられる事が決定した」
「あー、そっちの件ね。でも俺には関係無くね?」
「関係無くはないだろう。そもそもここ最近の状況は、お前が作り出したようなものだぞ?」
「興味無いしー」
「興味無……お前という奴は……」
そんな呆れるようなコトでもなかろうに。
「おかげで春からは、私もネルシャの育成に参加できるようになった。これでも関係無いか?」
「あー、そうか……」
そんな時期が来ちまったか……。
「じゃあもう、春から交代か?」
解放される気分がある……ネルシャの育成を、俺も案外案外重責だと思っていたらしいな。
寂しい気持ちもある……俺は思ったよりも、ネルシャに情が移っていたみたいだ。
「いいや、あちらの引継ぎもこちらの引継ぎも、少し時間を掛けるつもりだ。そうだな……半年貰おうか」
半年か……丁度いいかもしれないな。
俺はともかく、ネルシャには心の準備が必要だろう。うむ。
必要無かったらどうしよう……師匠ちょっとショック……。
「半年かー、長いような短いようなだなー」
「今からならまだ一年あるぞ」
「それもそうだな。あと一年かー、教え残しの無いようにしないとなー」
まぁ、大して教えられるコトも無いんだけどさ……人間として底が浅いですが、何か?
「春からネルシャは学園に通うから、それまでに教えるべき事は教えておかねばならんぞ」
今……なんと?
「なんか俺の耳に、学園とかいう言葉が聞こえた気がするんだが……」
「私が言ったからな。カジャさんに聞いてなかったか? カジャさんの育成プランでは、ネルシャは春から王立人材育成学園に入学する事になっていたぞ。既に手続きは私が済ませておいた」
「さいですかー」
何しに来たかと思ったら、そんな思いもよらぬお知らせを持ってきたとは……。
それにしてもなー。
このタイミングで学園編とか無いわー。
ついつい出来心で構想に無い時節ネタを……。




