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39話 大災害の影響

 夏である。


 学園編で夏休みと言えば、水着回だ。


 しかしながら我々は、海のすぐ近くに遠征してきたにも関わらず水着ではない。

 なぜかというと、海と陸地の間には断崖絶壁という高い壁が存在していたからである。

 テオスト王国の西岸からグリマント王国の東岸にかけて広がっているこの断崖絶壁は、ゆるやかな弧を描いていた。


 確か、古の大災害が起きた時にその影響で陸地が削られてしまった、とかいう話のはずである。

 ……はずなのだが、古の大災害というのがどんな災害かまでは、何故か記述が残っていない。

 造物主さんの設定くさいなー。


 そして我々の現在地は、オルオルの大滝のすぐ近く。

 断崖絶壁に川が流れ込んでいるので、必然そこは滝になっていた。いかんせん水量が少ないので、絶景の大瀑布とまではいかないのが惜しいところである。


 もちろんだが、遊びに来たワケではない……のはずだ。

 ネルシャの学園内パーティーが、川狼(リバーウルフ)討伐の依頼を受けたのだ。その出現地点がこのオルオルの大滝の近辺なのである。

 オルオルの大滝は採取場所でもあり観光名所でもあるので、この辺に魔物が住み着くと近くにあるトトリャカ村が干上がってしまいかねないのだ。


 川狼(リバーウルフ)は泳ぎが堪能で、陸地の生物を群れで川に追い込み引きずり込むという狩りを得意とする魔物だ。体内に魔石が存在するので、獣ではない。

 今回の依頼の厄介さは滝の近くというこの地理的条件、うっかり流されればオルオルの大滝でのフリーフォールという素敵な結末が待っているのだ。

 海までの落差50m弱というのは、立派に自殺の名所として成立する高さだろう。


「いないねー、川狼」

「あたくしたちに恐れをなして、逃げたんじゃなくて?」

「なんだよ、つまんねーな。せっかく斧を新調したってのによ」

「困りましたね、現地に着けばすぐに襲ってくると思っていたんですけどね」

 最初のセリフはネルシャ、あとは学園内パーティーのメンバーだ。


 二番目のセリフはアーチャン。トボルス将軍の次女で、バリバリの脳筋女子な槍使い。

 三番目のセリフはネマンタ。養鶏農家の次男で、パワー至上主義の斧使い。

 最後のセリフはテヤキニフ。葬儀屋の長男で、コツコツ系の回復系魔導士。


 脳筋系二人は、入学早々ネルシャに喧嘩を売って敗北し、そのまま配下というか仲間になったのだそうだ。

 テヤキニフくんは、三人に無理やりパーティーに引きずり込まれたらしい。

『ちゃんと同意の上だよ』とネルシャは言っているが、実力者の脳筋二人とその二人をボコった勇者に囲まれたら、同意せざるを得ないだろう。

 ごめんね、テヤキニフくん。


 ちなみに『前衛三人だとバランスが悪くないか?』とネルシャに尋ねたら、『何言ってるの? あたしはししょーの弟子なんだから、後衛の魔導士枠だよ』と言われてしまった。

 確かにそこいらの魔導士よりは魔法が使えるけど……まぁ、本人たちが良いなら良しとしておこう。


「のんきだな」

 ネルシャたちの様子を遠くに見ながら、椅子とテーブルを設置して寛いでいる俺とドラ吉にドルッポさんがツッコむ。イヤ、あんたも一緒に茶を飲んでるだろうが。


「あ、ドルッポさんも食べる? ちょっと辛いけど」

「ぴゅぴ」

 ドラ吉がほいっと差し出したのは、ドラ吉お手製のイカの燻製だ。ピリ辛にしようと思って作ったら、ちょっと辛くし過ぎたらしい。

 俺たちに差し出しているのは、たぶん早く在庫整理したいからだろう。

 これはこれで辛うまなんだが。


「貰おう。あの子たちはこのまま放っておくのか?」

「そのうち嫌でも勇者として独り立ちするんだから、苦労も失敗も今のうちにさせてやった方がいいでしょ? 俺たちは失敗をフォローして、取り返しがつかなくならないようにする役目。できれば俺がいなくなった後も、ドルッポさんにそんな感じでフォロー役をやって欲しいんだけどなー」

「それは私では難しいな」

「でも、失敗させない育成法は絶対にしないで欲しい」

「解っている。いつまでも我々が守ってはやれんのだからな」

 ドルッポさんが遠くを見るような目になった、きっとカジャ婆のコトでも思い出してるんだろう。


「ぴゅ?」

「うんにゃ、教えないでおこう。奇襲を受けるのも、いい経験だ」

「川の中か?」

「そうだよ、川狼は川底。こんなに長く潜れるとは、さすがに俺も知らなかったなー」

「なるほど、少々の怪我は経験の内か」

「手足が取れたくらいなら回復魔法ですぐ治せるしね、レベルと関係ない方の経験値も大事だから」

 本当は死んですぐなら復活もさせられるけど、この話が広がるとかなり面倒になりそうなので内緒にしている。


「うおお! なんだ!」

「川からよ!」

「大丈夫ですか!」

「動かないでそのまま防御! 絶対に背中を見せないで!」

 へえー、なかなか適切な指示を出すじゃないか。


 槍使いのアーチャンは盾を持ち、正規の戦闘訓練も受けているらしく防御はしっかりしている。

 なのでまずネルシャは斧使いのネマンタを救援、囲んでいた5頭のうち3頭を手早く始末してアーチャンの救援に向かう。

「ネマンタ! 2頭ならなんとかなるでしょ! アーチャン! 今行くからね!」

「ゆっくりでいいわよネルシャ! わたくしは……まだまだ……余裕よ!」

 そう余裕でもないだろう、テヤキニフくんが回復魔法の対象をアーチャンに絞ったから楽になったに過ぎない。


「てりゃああぁぁ!」

 ネルシャが一番大きい川狼を仕留めた、どうやら群れのボスだったらしく他の川狼が狼狽(うろた)えている。

 ここぞとばかりに反撃を開始して、川狼が次々と討伐されていく。


 駆逐された川狼が逃げようとする、残りは2頭。

「逃がすか―!」

 ネルシャが土魔法で壁を作って足止めし、ネマンタとアーチャンがそれぞれ川狼を葬る。


 川狼の討伐依頼は、これで終了した。


「まぁ、こんなもんですわね」

「川から来るとは思わなかったぜ」

「あと回復して欲しいところはありませんか?」

「ししょー! 何点?」

 思い思いの感想があるようだが……。


「50点、てトコかな」

「ぴゅい」

「ええー! 厳しくない?」

「川狼が待ち伏せしているのに気付かなかったのと、あとは連携はテヤキニフくんのフォローは良かったけど基本ネルシャ頼みになってるトコだな。あ、ネルシャの指示と動き自体は良かったぞ」

「ぴゅいー」

 ほぼ力づくの俺が言うのも何か説得力に欠けるけど、そこはツッコまんでくれ。


「索敵能力が低いのが、このパーティーの弱点かな? こんどは逃げ隠れする相手を探して討伐する依頼を受けてみるんだな、きっと他の学園生にも負けるんじゃないか?」


 各々思うところがありそうだが、次の依頼は捜索しながらの討伐を受けてみるコトに決めたようだ。

 けっこうみんな素直だね。


「あと気になったのは……せっかく仕留めた川狼が、ほとんど流されて滝に落ちちゃったコトかな。コレが素材を集める依頼だったら、ほとんど戦った意味が無くなっちゃうぞ」


「確かに、素材は勿体なかったですね」

「けっこうな小遣いになったのにな」

「完璧には程遠いわね」

「もっとたくさん素材があれば、お揃いで何か作れたのにねー」


「けっこう良い経験になったのではないか? 君たちは学生なのだから、今後の課題を検討してしっかりと勉強すればよろしい」

 すっかり空気になってしまったのが気になったようで、ドルッポさんが無理やりまとめに入った。

 残念だが、あなたはここでは中心人物では無いのだよ。


 …………


 川狼の討伐も終わったので、あとは川遊びの時間だ。

 最初はきゃっきゃと遊んでいたが、いつの間にか訓練になってるし……。

 まぁ、今回の反省を早速踏まえて訓練、というのも大事なんだろうけどさ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今日はトトリャカ村に泊まり。

 晩飯に川魚の佃煮を堪能して、今日はもう自由時間。


「……だからー、どんな魔王にしようか迷ってるわけよ」

 女神様がいつものごとく愚痴りに出てきたので、ちょっと昼間に気になってたコトを聞いてみよう。


「ところでさー、大災害って記録に全然残ってないみたいなんだけど、あれって本当にあったコトなの?」

「え? 大災害?……えーと、それってどんな災害のことかなー……」

 なしてそんな、あからさまに目を逸らすのですか? 女神様。


「その様子だと、知ってるな?」

「えーと、どうかなー? あたしの知ってるのと違うかもしれないし―」

 この女神様は嘘が下手だ、今まで嘘をつく必要なんて無かったろうからだろうしね。


「今日オルオルの大滝に行ったのは知ってるでしょ? あそこの広い範囲に削れた崖の原因って言われている大災害のコトなんだけど」

「あー、そっちねー……」

「知ってるんだよね?」

 話したがらないのは何故?

「知ってると言えば、知ってるかなー……」


「吐け。洗いざらい話してしまえ、楽になるぞ」

「なんで取り調べみたいになってんのよ、あたしは女神なのよ? め・が・み」

「で、大災害ってどんな災害なん?」


「えーと……大陸がひとつ沈んだ災害かな?」

「え? 大陸? そりゃホントに大災害じゃんさ。なんでまたそんなとんでもない災害が……」

 話したがらないところを見ると、管理に失敗でもしたか? にしても大陸ひとつとは何が起きたんだ?


「はぁ……仕方ないか……順を追って話すね。そもそもこの大陸は、それぞれの土地をそれぞれの神が管理してるのは知ってるわよね?」

「まぁね、ここの神様はアシカロターリだったっけ?」

「そうそう。それで沈んだ大陸って言うのは、あたしの管理する土地だったりする訳よ」


「あぁ! そうなんだ。主神だから土地を持って無かったんじゃなくて、沈んだから無かったのか……」

「そういうこと」

「で? 何で沈んだんだ?」

「えーーーーと……あたしが沈めちゃった♪(てへぺろ)」

 ……沈めちゃった♪(てへぺろ)、じゃねーだろ! 何でそんなとんでもないコトをしやがったんだコイツ!


「でもね! でもね! 沈めたにはちゃんとした理由があるのよ! 聞いてくれる?」

「まぁ聞くけどさ……」

 なんだろう、とってもイヤな予感しかしないけど。


「大陸の人間たちがさー、もう争いばっかりしてたのよ。普通に人や動物を殺すとかも、日常茶飯事だったし……思いやりも何も全然ないし、環境破壊の規模もとんでもなかったし」

「ふむふむ」


「あたしが修正しても修正してもバカなことばっかりやっててさー、文化レベルも一向に良くなる気配も無かったし、とにかくモラルってものが育たなかったし、困ったもんだったのよ」

「ほうほう」


「でね、ほら、あたしもストレスとか溜まっちゃってさ。解るでしょ? 暴走する厄介者の後始末とか、やってられないっつーの! しかも全然まともになる気配とか無いし」

「それで?」


「だから、まぁこの際、大陸の人間を一旦滅ぼしてリセットしようかなぁ……と」

「災害を起こしたら、大陸ごと沈んでしまった……と」

「そうなのよー! たぶんストレスが溜まり過ぎてたのよねー、ちょっと神力が入り過ぎちゃって……まさか大陸まで沈んじゃうとか自分でもびっくりしたわー」

 うわー、女神様のストレス解消怖いわー……絶対ケンカ売るとか止めとこ。


「なるほど……あの削れた場所はその大陸が沈んだ影響ってワケか」

「うん」

 女神様は、やらかしをすべて吐いてスッキリしたようだ。

 強大な存在のやらかしって、シャレにならん大災害になるんだなー。

 俺も気を付けよう……。


「ところでさ、沈んだ大陸って神様の力じゃ復活できないの?」

「ちょっと無理。作るのは壊すより難しいのよ。生態系とか地形程度ならなんとかなるけど、大陸を作るとなると星そのものの改造になるから、あたしの神力だとちょっとね」


「造物主さんに頼めば、なんとかしてくれるんじゃ」

「造物主様にはガッツリ怒られました。しばらくは土地を持たせないって言われて、今までずっと放置されてます……」


「ちゃんと反省すれば、造物主さんだって許してくれるのでは?」

「反省はしたわよ! それはもうものすごーーーーく! でも駄目だったのよ」

「そうなのか? 少なくとも今はそんな風には見えんが」

「そりゃそうよ。反省の心とかずっと持ってたらしんどいでしょ? だから捨てちゃったもん」

 捨てちゃったもん、て……そんなコトできるもんなのか?


「反省の心って捨てられるモンなのか?」

「できるわよ。女神様なめんなよー」

 あ……思い出した。

 そう言えば俺がレベル上げをした時に師匠に飲まされた薬の素材に、確か『女神の反省』っていうのがあった記憶があるぞ……。

 そうかー、この女神様が捨てた反省の心だったかー。


 俺のレベルがとんでもなく上がったのも、この女神様が起こした大災害の影響と言えなくもないよね……。


 とにかくアレだ。


 第二の大災害を防ぐ為に、女神様の愚痴はこまめに聞いてあげよう。

地図という物を作って、5部分・19部分・29部分に置いておきました。

興味のある方はどうぞ。

ぶっちゃけ物語内の文章との整合性が取れておりませんが、ひとえに作者がいいかげんなのが原因です。

その辺ご了承の上、ご覧ください。

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