第5話 ビルドの試行錯誤と、最初の一歩
興奮で動悸が激しくなる中、俺は目の前に広がるステータス画面を食い入るように見つめた。
―――
名前:山田大輔
年齢:41
レベル:2(+1)
筋力:13
体力:12
敏捷:4
知性:5
ステータスポイント:11(捕食+6 / レベルアップ+5)
スキルポイント:2
【取得可能スキル】
・『突進力の強化(必要SP:2)』:ホーンラットの特性。体重とスピードを乗せた体当たり攻撃の威力が上昇する。
・『微小な嗅覚強化(必要SP:1)』:匂いに対する感度が増す。水や獲物の探索に有効。
―――
「11ポイント……! それにスキルポイントが2か……!」
手の中にある11ポイントの重み。これまでの人生で、こんなにも「自分の努力(選択)がダイレクトに数字になって還元される経験」があっただろうか。
かつての俺なら、何も考えずに『筋力』だけに極振りしていたかもしれない。
だが、オタク知識と41年間の失敗経験が、俺の頭を冷やした。
(待て……冷静になれ。ただ筋肉をつけるだけじゃ駄目だ。今の俺の最大の弱点は、160キロの肉体を支えきれずにすぐ息が切れる『体力』と『敏捷』の低さだ)
どれだけ筋力があっても、動く前に息絶えたら意味がない。
俺はじっくりと思考を巡らせ、ポイントの割り振りを決定した。
【敏捷:4 ➔ 8】(ステータスP -4)
【体力:12 ➔ 16】(ステータスP -4)
【筋力:13 ➔ 16】(ステータスP -3)
残りのステータスポイントは0。
さらに、スキルポイント『2』を使って、サバイバルで最も重要となる【微小な嗅覚強化】と、160キロの体重を最大の武器に変える【突進力の強化】の二つを獲得した。
【スキル:『微小な嗅覚強化』を取得】
【スキル:『突進力の強化』を取得】
――ズクンッ!
全身の血流が一気に激しく巡り始める。
肺が大きく広がり、酸素を取り込む効率が劇的に跳ね上がっていくのを感じた。
そして鼻腔が刺激され、風に乗って運ばれてくる様々な「匂い」が、はっきりと識別できるようになる。
(これは……土の臭い、腐葉土の臭い……そして……水の匂い!?)
微かに混じる湿った水の甘い香りが、数百メートル先から漂ってきているのが分かった。水場の確保。サバイバルにおける最優先事項だ。
「よし……!」
ゆっくりと立ち上がる。
160キロの腹と丸々と太った足はそのままなのに――身体が、恐ろしいほど『軽い』。
少し膝を曲げて踏み出してみる。
ドスン、という重苦しい足音ではなく、トン、と地面を蹴る手応えが脚に伝わってきた。息切れもしない。心臓のバクバクとした悲鳴も聞こえない。
「走れる……俺、走れるぞ……っ!」
小さく跳ねるように走り出してみる。
風が頬を切り、木々が後ろへと流れていく。
学校の体育の時間、いつも一人だけ周周回遅れになり、教師やクラスメイトからあざ笑われていた俺が。
現場の作業着を着て、ドタバタと不様に汗を撒き散らしていた俺が。
今、自分の意志で、力強く異世界の地を駆け抜けている。
「ハハッ……あはははっ!!」
160キロのブタおじさんは、風を切って笑った。
不快な脂肪の下で、確かに何かが変わり始めている。
嗅覚が捉えた「水の匂い」を目指して、俺は原生林の奥へと突き進んでいった。




