第6話 川辺の脅威と、160キロの突撃
鼻をかすめる甘く湿った匂いを辿り、木々を押し分けて突き進む。
ほどなくして、視界が一気にひらけた。
「水だ……! 川がある……っ!」
目の前に広がっていたのは、澄み切った清流だった。
幅十メートルほどの川が静かに流れており、日光を受けてキラキラと水面が輝いている。
サバイバルにおいて水は命の根源だ。
俺は歓喜の声を上げ、泥と返り血に汚れた身体を揺らしながら川辺へと駆け寄った。
ひざまずき、両手で水をすくう。
そのまま口へ運ぼうとした――その時だった。
――バシャァァァンッ!!
水面が激しく弾け、巨大な影が飛び出してきた。
「っ!?」
反射的に体を後ろへ引く。
目の前に現れたのは、体長二メートルを超える巨大な爬虫類――頭部に硬い甲殻を戴いた、まるで巨大なワニのような水棲魔物だった。
鋭い鋸状の歯が並ぶ大口を開け、俺の首元を目がけて噛みついてくる。
――速い!
だが、前回のネズミ戦と違い、今の俺の『敏捷』は『8』、さらに『体力が16』に上がっている。視界が冴え冴えと冴え渡り、敵の動きがはっきりと見えた。
「ハッ……!」
間一髪で体を横へ滑らせ、ワニの噛みつきをかわす。
ガチンッ! と空を切った大口が恐ろしい音を立てた。
ワニの魔物は陸地に這い上がり、太い尻尾をしならせながら俺を威嚇してくる。
全身を覆う固い鱗。鋭い爪。
普通なら恐怖で足がすくむ場面だ。
だが――俺の腹の底から湧き上がってきたのは、恐怖ではなく猛烈な『飢え』だった。
(あのデカい肉……! 喰えば……どれだけのポイントになる……!?)
逃げる選択肢は、最初から存在しない。
俺は足を肩幅に開き、腰を落として160キロの巨躯を前傾させた。
狙うは、さっき取得したばかりの新スキル――【突進力の強化】。
「行くぞぉぉぉぉッ!!」
ドゴォンッ! と足元の土を爆破するように蹴り飛ばし、前へ踏み出す。
【筋力:16】の脚力と、160キロの質量が一体となった人間弾丸。
加速する視界の中で、驚愕に目を見開くワニの魔物の姿が迫る。
『グシャッ……!?』
俺の太い肩が、ワニの首元へとダイレクトに激突した。
激しい衝撃音と共に、重戦車に跳ね飛ばされたかのようにワニの巨躯が宙を舞い、背後の樹木へと激しく叩きつけられる。
バキバキバキッ! と背骨が砕ける重苦しい音が森林に響き渡った。
「ぐ、ふ……っ!」
反動で俺の肩にも激痛が走ったが、【微小な皮膚強化】のおかげで肉が裂けるまでのダメージはない。
ぐったりと動かなくなったワニの元へ素早く駆け寄ると、息の根を止めるべく、その太い喉元へと喰らいついた。
バリッ、と硬い鱗を噛み砕き、溢れ出す生温かい血と引き締まった白身の肉を貪り食う。
泥臭く、生きるために喰らう。
ワニの肉は筋肉質で引き締まっており、噛むほどに濃厚な旨味と魔力が口内に弾けた。
【アームドクロコ×1(完食)を捕食・消化しました】
【強靭な筋肉および水棲特性のステータス変換を開始します】
【ステータスポイント:+12 を獲得しました】
【『水棲適応』および『硬質鱗』の特性を解析……スキルポイント:+3 を獲得しました】
【レベルが『2』から『3』へ上がりました】
【レベルアップボーナス:ステータスポイント+5】
「17ポイント……に、スキルポイントが3……!」
荒い息をつきながら、俺は湧き上がる歓喜に身を震わせた。
水場を確保し、強敵を退け、また一つ確実に「最強」への階段を登ったのだ。




