第42話:排水口の門番
###42話:排水溝の門番
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「……へへっ、お出ましだな。金に困った哀れなドブネズミどもが」
スラムの外れ、腐臭と泥水が溜まる巨大な排水口の暗がりから、
紫煙をくゆらせた小太りの男――
アルとスネアに裏の『特別高額バイト』を持ちかけた金貸しが姿を現した。
男の後ろには、不気味なレンガ造りの地下水道が口を開け、湿ったかび臭い風が吹き出してきている。
「ここから先はヴォルペ商会様が管理する『特別な現場』だ。
……おい、入りたきゃ入営手続きとして全員の『冒険者証』を預けてもらうぜ?
途中で逃げ出されちゃ困るんでね。
無事に仕事を終えるか、リタイアして戻ってきたら返してやるよ」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべる金貸しに対し、アルが
「ちっ、相変わらず汚ねぇ手口だぜ」と胸元から
5枚の金属プレートを取り出して泥の上に投げ置いた。
それはアルとスネアが過去の修羅場で拾い集めていた、
すでにこの世にいない者たちの冒険者証だった。
「……ん? 5枚か。……って、おい」
金貸しは落ちたプレートを拾い上げ、目の前に立つ『5人』を見上げて思わず目を丸くした。そこにいたのはあまりにも隙がなく、
同時にどこか異様な雰囲気を纏う集団だった。
「……なんだその格好は? 芝居の怪盗にでもなったつもりか?」
「けっ、裏の仕事だろ? 面割れ予防の基本だろーが」
アルがニッと口元を歪める。頭には目元だけを覆う黒い頭巾とアイマスク、肩からは漆黒のマントを羽織り、まるで夜の闇を駆ける怪盗のような装いだった。
スネアも俊敏なスカウトらしく、黒皮の軽甲冑にニヤけたピエロ(道化師)の仮面をつけるという、狂気とコミカルさが同居した出立を決めている。
リノは深めのフードに白い無地の狐面を合わせ、妖艶で危険な影の狩人といった佇まいだ。
さらにエレノアは、長いくちばしのついた異様なペスト医師マスクに白衣コートという「怪人科学者」そのままの格好で、陰で小さく頭を抱えている。
そして――全員の個性的な暗殺者風の装いの中で、最後方の一人が異常なまでの圧倒的存在感を放っていた。
「……おい、そこのデカい奴……」
金貸しの顔からすっと血の気が引いていく。
ダインが着ているのは、全身を覆う重厚な黒ローブ。そして顔には、鼻から上を重々しく覆う無骨な鉄仮面。口元だけが露わになった厳めしい鉄仮面と漆黒のローブは、古代の処刑人か暗黒騎士を思わせる凄まじい圧力を放っている。
だが――隠しきれていない。
身長2.5メートルを超える桁外れの巨躯、ローブ越しにも伝わる規格外の筋肉の質量、そして背中の布を押し上げる異形の盛り上がり。どれだけ怪盗や暗殺者っぽい衣装で決めても、「どう見ても怪人」なのだ。
(……おいスネア、これ本当にバレてないのか?)
(バッチリでやんすよ! お顔の半分以上が隠れてるでやんすから、誰もダイン様だなんて確信は持てないでやんす!)
(……いや、絶対バレるだろこれ)
心の中で冷や汗を流すダインの横で、金貸しはゴクリと唾を飲み込んだ。
(……な、なんだあの大男は……!? 処刑人か……? いや、だが冒険者証は本物だ。変装して身元を隠したいワケありの重戦士ってところか……オーガ族、恐らく傭兵ギルド出身って感じか……)
金貸しは震える手を隠すように鼻で笑ってみせた。
(……フン、まあいい。どれだけ気気取った格好をしていようが、中に入ればただの『餌』だ。配信を観てる悪趣味な貴族どもにしてみりゃ、
こういう格好取った奴らが人工ヒュドラや
キメラ共に食い散らかされる方が盛り上がるだろ)
「……けっ、好きにしな。奥のメイン通路から絶対に外れるなよ? ……無事に生きて帰れたら、その冒険者証は返してやるよ」
金貸しは下品なせせら笑いを残し、薄暗い排水口の陰へと消えて行った。
「……行ったでやんすね」
スネアがピエロ面の下から不敵な笑声を漏らす。
「よし……突入だ。配信だか見世物だか知らねぇが、俺たちの仲間をオモチャにしてくれた奴らに、たっぷりお礼をしてやろうじゃねぇか」
アルが大剣の柄に手をかけ、暗殺者風のマスクの奥で瞳をギラつかせた。
ダインもまた、鉄仮面の奥から鋭い光を放ち、黒濁した水が流れる暗闇のトンネル奥へと重い一歩を踏み出した。




