第22話:霧の向こうへ…
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### 第22話:霧の向こうへ…
チリン……。
静寂に包まれた迷いの谷に、骨の鳴子が小さく響いた。
──来る。
さっきまで周囲を飛び交っていた精霊たちが、まるで命の危機を感じ取ったかのように一斉に静まり返り、ルシェラの髪の隙間へと潜り込んで震え始める。
(な、なに……この威圧感……!?)
ルシェラの顔から血の気が引いていた。
呼吸することすら憚られるほどの重圧。蛇に睨まれたカエルのように、コボルトの族長も、その他のコボルト達も、指一本動かすことができずに固まっている。
ザッ……ザッ……。
濃霧を押し分けるように、ゆっくりと、静かに歩を進めてくる足音。
やがて、白い霧の向こうから“それ”が姿を現した。
癖のある白い長髪。
身長は190センチを超えているだろうか。精悍に引き締まった筋肉と、彫刻のように美しくも白い肌。
手首や首元、耳には、異彩を放つ古風なアーティファクトらしき装飾品や腕輪がいくつも光り輝いている。
そしてその手には、見るからに高貴で、恐ろしいほどの魔力を秘めた一本の槍が握られていた。
目元を覆うのは、不気味な単眼のゴーグル。
……だが。
その男の最大の、そして圧倒的な特徴は──
**完全なる全裸**であることだった。
沈黙。
静寂。
重苦しいプレッシャーの中、全員の思考が数秒間フリーズする。
「「「へ、変態だぁあああ!!!???」」」
夜の谷に、山田、ルシェラ、そしてコボルト族長の全力の叫びがこだました。
「ぬ……?」
全裸の男は不機嫌そうに片眉を上げた。
「ふむ。やはりそれは甲冑ではなく外骨格であったか。……それにしても、何をそんなに驚いている? そのデカブツとて全裸であろうが」
堂々と正論(?)を吐き捨てるヴァルゼリオ。
確かに、2.5メートル・450キロの魔人と化した今の山田は、ほぼ全身が黒い外骨格に覆われているだけで服は着ていない。
「一緒にするな!! こっちは生物的変化だろ!! お前のはただ脱いでるだけじゃねえか!!」
山田が必死に突っ込んだその時。
パシィインッ!!!
快音と共に、山田の頬に激しい衝撃が走った。
「ぶべらぁッッ!?」
「不潔よっ!!」
ルシェラが顔を真っ赤にして、なぜか山田を全力でビンタしていた。
「ええっ!? お、俺ぇええ!? ていうか今更!? さっき抱きかかえた時は何も言わなかったじゃん!!」
「全裸で可憐すぎる乙女を抱くなんて不潔よ!破廉恥罪で死刑よ!」
「理不尽すぎるだろ! 裸なのはあっちの男だぞ!?」
理不尽な暴力に頬を押さえて叫ぶ山田。
だが、山田の鋭い洞察力(とおじさんならではの観察眼)は逃さなかった。ルシェラは片手で目を覆いながらも、しっかりと指の隙間からヴァルゼリオの全裸を凝視している。
(見てんじゃねえか! しっかり見てんじゃねえかルシェラちゃん!!)
そんな騒ぎを他所に、全裸の男はどこまでも余裕に満ちた仕草で槍を片手で揺らした。
「そこの魔人、貴様に合わせてここは私も生まれたままの姿で邂逅するのが礼儀と言うものであろう。何を恥じる、倫理か?くだらん。法律も倫理も私を縛ることなどできんよ。この私を縛り付けられるものは、皇帝陛下の御意思くらいのものだ」
(な、なんだ……この男の異様な威圧感は……!?)
山田は気圧されながらも、いつものように男のステータスを確認しようと意識を向けた。
──ズキンッ!!
(うぐっ……!?)
激しい頭痛が山田の脳腔を突き刺した。
視界に浮かび上がりかけたステータスウィンドウが、まるで壊れたノイズ画面のように酷く文字化けし、まったく読み取ることができない。
┌────────────────────────────────────────┐ │ 【名前】ヴΧ繧ゼ■オ・蜷榊燕縲代Χ繧。
│ 【LV】 ■■9(解読不可)
│ 【HP】 ■5■■■ / ■■■■■
│ 【MP】 94■■ / ��呻シ郁ァ」隱ュ荳
│ 【STR】縲食P■0
│ 【VIT】 3縲食P2■■
│ 【AGI】 �難シ停蔓笆�
│ 【INT】 29■■
│
│ 【固有スキル】
│ 『龍血■融』『神速■閃』『■眼の呪衣』『一■当千』
│ 『槍■極致』『■域展開』『■王の威光』『■■無効』
│ 『■■■■』『■■■■■』『■■■■』『■■■■』……
└────────────────────────────────────────┘
「……貴様、見ているな?」
ビクッ!!!
男の単眼ゴーグルがピタリと山田を捉える。
その瞬間、なぜか隣のルシェラが肩を跳ね上がらせた。
「み、見てないわよ!! 別に見てないんだから!!」
顔を真っ赤にして叫ぶルシェラだったが、男は彼女を完全にスルーし、山田を凝視したまま顎を撫でた。
「ほぅ……鑑定のスキルを所持していないのか。……なぜ見れる?」
(な、なんだこいつ……なんでステータスが見えない……!? というより、一人か……!? 追手はこいつ一人なのか!?)
冷や汗が全身を吹き出す。
自身の異常な能力(ステータス視認)を初見で見抜かれた驚きと、底の知れない圧倒的な強さへの恐怖。
「先刻の飛竜隊との闘い、実に見事であった。それにそのフォルム、シルエットも実に美しい…貴様のような生物はこれまで見たことがない。……素晴らしい、素晴らしいぞ……!!」
男の薄い唇が、歓喜に歪む。
(な、なに……こいつ、こ、怖い……!)
「我が名はヴァルゼリオ・ドラウ=ハーグ。黒龍騎士団の団長を務めている。……実に面白い、面白いぞ! これほど愉快で心が躍るのは久方ぶりだ」
ヴァルゼリオはゆっくりと槍の柄を握り直し、腰を低く落とした。
「コボルト共には手は出さん。……そこの女、そして我が愛しき魔人よ、私と死合ってもらうぞ」
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