第2話:不味さと、微かな希望
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### 第2話:不味さと、微かな希望
――激痛と、猛烈な悪臭。
「おッ、ぶ……っ!? ぐ、えぇぇぇッ……!」
口に含んだ瞬間、舌の上で爆発したのは、ドブ川の泥と腐った魚肉を混ぜ合わせたような地獄の味だった。
強烈なえぐみとピリピリとした痺れが口内に広がり、内臓がひっくり返るような激しい嘔吐感が押し寄せてくる。
(まずい……! まずすぎる……ッ! 毒だ、こんなの絶対に毒キノコだ……!)
涙と鼻水が溢れ出し、胃液が喉までせり上がる。
ペッ、と吐き出そうとした――その時だった。
『ぐうぅぅぅぅぅぅ……ッ』
腹の底から、雷鳴のような腹鳴りが響いた。
ただの空腹ではない。160キロの肉体全てが、命そのものが「栄養を寄こせ」と悲鳴を上げているような、暴力的なまでの食欲。
(だめだ……! 吐いちゃダメだ……ッ!!)
ここで吐き出したら、俺は本当にただの「見捨てられたデブ」のまま、この怪しい森で死ぬだけだ。
現実世界で踏みにじられ、努力すら鼻で笑われた惨めな人生。
せっかく手に入れた、俺だけの可能性を……こんな不味さくらいで手放してたまるかぁぁぁッ!
「ガハッ……! げほっ、ぐ、ぐぶ……ッ!!」
口から溢れ出そうになる吐瀉物を手で強引に押し戻し、必死に咀嚼する。
ゴクン、と鼻の奥がツンとするような激痛と共に、喉の奥へと紫色の塊を流し込んだ。
続いて、地面に生えていた残りの紫キノコを手当たり次第につかみ取り、吐きそうになりながら、涙目で口の中へ押し込んでいく。
噛んでは呑み込み、嘔吐感に耐え、また噛む。
身も蓋もない、惨めで泥臭い貪食。
「……ごふっ、はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」
最後の一本を呑み込んだ時、俺は四つんばいになって荒い息をついていた。
全身からダラダラと嫌な汗が吹き出している。
その直後――脳裏に透明なメッセージが浮かび上がった。
【毒素の分解・無効化を完了しました】
【紫毒茸×8 を捕食・消化しました】
【ステータスポイント:+3 を獲得しました】
「……っ!!」
はっきりと、脳内に響いたアナウンス。
毒素すら無効化し、本当に「栄養」として変換されたのだ。
俺は震える手で、システム画面を思い浮かべた。
―――
**名前:山田大輔**
**年齢:41**
**レベル:1**
**筋力:8**
**体力:12**
**敏捷:2**
**知性:5**
**ステータスポイント:3**
―――
「敏捷……『2』……」
思わず苦笑いが漏れる。
160キロの巨躯だ。足が遅いどころか、少し走っただけで膝が悲鳴を上げ、息が切れる理由が数値としてハッキリ表れていた。
今の俺に必要なのは、なによりも「この重すぎる体を自力で動かせるだけの筋肉(筋力)」だ。
(筋力に……全部、振ってみるか……?)
俺はステータスポイントの【3】を、すべて『筋力』へと割り振った。
【筋力:8 ➔ 11】
瞬間。
全身の肉体が、内側からカッと熱くなった。
まるで、太い注射器で直接筋肉に栄養剤を流し込まれたような感覚。
「あ……?」
立ち上がってみる。
相変わらず160キロの腹は重く、腕も太い丸太のままだ。
だが――ほんの少しだけ、足取りが軽かった。地面を踏みしめる脚に、今までなかった「芯」のような強さが通った気がする。
「本当に……強くなってる……のか……?」
劇的な変化ではない。劇的なイケメン細マッチョになったわけでも、空を飛べるようになったわけでもない。
けれど、食べた分だけ、苦しんだ分だけ、確かに俺の肉体は変わり始めている。
「ふふ……あはは……っ!」
土砂降りの公園で涙を流していた俺の口から、今度は小さな笑みがこぼれた。
努力が、報われる。
喰えば喰うほど、俺は変われる。
「よし……もっと……もっと探すぞ……!」
41歳、160キロのブタおじさんは、不気味な原生林の奥へと、力強く一歩を踏み出した。




