第1話:160kgの努力は、誰にも届かない
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雨が、160キロの醜い肉体を激しく叩きつけていた。
「もう……無理ですよ、山田さん」
昼間、パーソナルトレーナーの若者に告げられた冷酷な言葉が、頭の中で何度も反芻される。
公園のベンチ。濡れ鼠になった俺――山田大輔、41歳――の目の前には、ぐちゃぐちゃに潰れたマクドナルドの紙袋と、冷え切ったハンバーガーが転がっていた。
「毎日あれだけの筋トレに耐えて、有酸素運動もして、倒れそうな食事制限まで頑張ってくれたのは認めます。でも……半年やって1キロも減らないなんて、あり得ないんですよ。影でドカ食いしてるとしか思えません。僕の指導実績にも傷がつきますし、お金は返しますから、もう来ないでください」
見放された。ついに、最後の希望すら捨てられた。
嘘じゃない。俺は本当に血の滲むような努力をしたんだ。
毎日足がちぎれるほどランニングマシンを走り、吐くほどの筋トレをし、キャベツとササミだけの地獄のような食事制限にも耐えた。
なのに、体重計の針はピクリとも動かなかった。努力すればするほど、なぜか身体は太く、重くなっていくばかり。
絶望に耐えかねて、帰りがけに買ったこのマックが……俺の人生で最後の「やけ食い(ドカ食い)」だったのに。
「なんで……なんで俺ばかり、こんな目にあわなきゃいけないんだよぉぉっ……!」
思いえがせば、惨めな人生だった。
学生時代からどれだけ運動しても痩せず、デブとバカにされ、いじめ抜かれて引きこもりになり、社会に出てからも『不審者』と通報されかける日々。失踪した父親の代わりに年老いた母を養うため、その日暮らしの建設現場で必死に泥をすすってきた。
一生懸命生きてきた。痩せたくて必死にあがいた。それなのに、誰にも信じてもらえない。
「神様……神様がいるなら……俺を……殺してくれぇぇぇっ!!」
土砂降りの中、俺は地面に頭をこすりつけて泣きわめいた。
直後――。
―――ッ閃!!!!
世界が白銀に染まった。
鼓膜を破るほどの爆音と、全身を焼く激痛。
落雷。俺の160キロの巨躯を直撃した雷光が、俺の意識を真っ黒な闇へと引きずり込んでいった。
◇
「……う、ん……」
冷たい水滴が頬に落ち、俺は目を覚ました。
痛む頭を押さえながら起き上がろうとして、手触りの違異に気づく。アスファルトの硬さがない。手に触れるのは、見たこともないほど巨大なシダ植物と、湿った黒土だった。
「ここは……どこだ……?」
見上げれば、日光を遮るほどに鬱蒼と茂る大樹の群れ。見渡す限り、見慣れた東京の公園の面影などどこにもない。見たこともない色の鳥が空を羽ばたき、遠くから獣の地鳴りのような咆哮が聞こえてくる。
原生林。明らかに、日本の風景ではなかった。
「夢……か……?」
自分の手を見る。160キロの肉体はそのままだった。丸々と太った醜い腕、重苦しいお腹、荒い息吐き。
何も変わっていない。俺は相変わらず、ただの哀れなブタおじさんだ。
その時、脳裏に直接、文字のような『情報』が流れ込んできた。
【システム:固有スキルの変異を確認しました】
【『フィジカルギフテッド(ランクD)』が環境適応により変異・覚醒します】
【『フィジカルギフテッド(ランクSSS)』を取得しました】
【効果】
・あらゆる有機物・魔物の捕食・消化が可能
・摂取した物質の栄養を『ステータスポイント』『スキルポイント』へ完全変換
・肉体の成長限界(上限)の撤廃
「な……んだ……これ……?」
頭の中に浮かぶ、ゲームのようなステータス画面。
当然、今の俺は LV1。ステータスもどん底だ。一瞬で超人になったわけでも、細マッチョになったわけでもない。肉体は重く、息は上がり、足もしびれている。
だが――何かが違っていた。
「……腹が、減ったな……」
目の前に転がっていた、気味の悪い紫色のキノコ。
かつての俺なら、絶対に口にしなかったであろう異世界の植物。
それを引き抜き、おずおずと口へと運んで噛みしめる。
その瞬間、俺の「食べた分だけ強くなる」地道な異世界サバイバルが始まった。
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